カウントダウン2話 大王の余興
相変わらず冥土喫茶は開店休業のように客は疎らだった。冥土喫茶には誰でも訪れられるわけではない。訳アリと見做された者だけが導かれ、渡し船に乗る前の準備に備えるものだった。
麗花 「今日も暇だなぁ。人間界では感染病が流行っていると
か。でもここでは無縁の話だわ、はぁ」
その溜息が終わると共に背後に気配がした振りむくとイケメンが座っていた。ドア鈴は鳴っていないのに。麗花は不思議に思いながら給仕に就いた。
麗花「お帰りなさいませ、ご主人様。ご注文は」
義 「何もいらん」
麗花「要らないって…、えっ、この声って…」
義 「そうだモニターから流れた声は、私だ」
麗花「えっ、こんなにイケメンだったの?」
義 「気に入ったか、そちの好みを映像化してみた」
麗花「そういうこと」
麗花はまた背後に同じ気配を感じた。振り向くと恰幅のいい者がいた。
義 「この方が閻魔大王だ」
麗花「大王?」
義 「そちが思う風貌を映像化した」
麗花「はいはい。で、大御所が首を揃えて何の御用でしょうか」
義 「度胸が据わっていると言うか、なんとも図太い神経だ」
麗花「ボンキュッボンでも太くありませ~ん」
大王「面白いのう麗花は」
麗花「喜劇俳優じゃないから親父ギャグは言いませ~ん」
大王「では本題に入る」
麗花「硬った」
義 「お堅いのは嫌いかな」
麗花「下ネタ禁止~」
大王「あっははは、これは頼もしい。役に不足なしだな」
麗花「役って?だから喜劇俳優じゃないって」
義 「そちに頼みごとがあって来た」
麗花「頼み事?」
大王「その前に確かめたいことがあるゆえ答えよ」
麗花「何を?」
大王「そなたに転生の許可が近々下りる」
麗花「生まれ変われるってこと?。裁きを受けるってこと」
義 「そうだ。いかように生まれ変わるかは分からないがそいう
ことだ」
麗花「何だか怖~い」
義 「怖いと感じるのもこれが最後だ。感情を顕にするのもな」
麗花「感情がなくなる、か。本当の死に人になるんですね」
義 「安心致せ。大王の計らいもあり、人間に生まれ変われる。
前世を悔いて真っ当に生きればよい」
麗花「出来るかなぁ、また同じ過ちを犯すのでは…」
義 「それはそち次第だ。我らが関知するものではない」
麗花「冷たくない?」
義 「死人は冷たいと決まっている」
麗花「つまらないの」
大王「義も麗花の前では形無しだな」
義 「…」
麗花「あれ?頼みがあるって言わなかった」
義 「そうだったな」
大王「転生するか否かはそなたが決めよ。その前にもうひと働き
して貰いたい」
麗花「何でしょう」
大王「ある者の手を借り人間界に戻り、ある女に憑依して貰いた
い」
麗花「人間界に?憑依?」
義 「そちが生まれ変わろうとしている人間界は、乱れに乱れて
いてなそれを正したい。そのために一肌脱いでもらえない
かと思ってな」
麗花「分かり易く言ってよ」
大王「ある女に憑依し、我らの意に則した告白をして貰いたい」
麗花「告白?」
義 「そちの告白によって悪意のある者を炙り出す」
麗花「意味が全く分からないんだけど」
大王「そなたはある者の導き通りに致していればいい。ただ、恐
い目、嫌な思いをするかも知れない」
麗花「それは私でなく、憑依した女性が受けるものでしょ」
義 「それはそうだが、憑依すれば偽りでなく、実体験になる」
麗花「う~ん、よく分からないけど生まれ変わる前に人間界を除
くのも面白いかもね」
義 「そうか、ただ、憑依したことで転生の期日が先延ばしにな
るかも。前例を知らないので転生の機を逃すかも」
大王「そうなれば私が何とかする、制度は制度。臨機応変に対応
しての制度と思うておる」
義 「大王の御言葉とは思えませんね」
大王「感情に接すればの戯言よ」
義 「どうだ、麗花、手を貸してくれるか」
麗花「私でよければ」
義 「そちでなくては我らが通じれないのだ」
麗花「分かった、協力するわ」
大王「そうか。では、そなたの憑依を手助けする者を紹介する、
これへ」
三度、麗花の背後に気配を感じ振り返ると美しい女性が微笑んでいた。目が合うとその女性は「蓮華」と名を告げた。
麗花「綺麗な方」
義 「蓮華は蓮華の思う姿をそちに見せておる。蓮華は魂の世界
の者。人間に憑依しその者と人生を歩む者。憑依した者の
命が尽きるか愛想をつかした時、憑依を解く。幽霊や化け
物ではない。感情も感覚もある。ないのは肉体だけだ」
麗花「肉体がないから病気も死もないってこと。でも人間界に生
きるってこと。痛さも苦しさもない、いいなぁ、私はなれ
ないの?その魂の世界の人?に」
義 「なれない、今はな。人間界で波長が合い魂界の者と巡り会
えば叶うやも知れぬがな」
麗花「そうなんだ。良く分からないけど巡り合わせってことか」
義 「蓮華と意志を共有すれば魂界の事も分かると聞いている」
麗花「それって興味あるなぁ~」
義 「好奇心は生きる術の一つ。縁もその一つ」
麗花「良くわからないけど肉体なしで人間界に戻れるのには面白
そう」
義 「では、動いてくれ」
麗花・蓮華「はい」
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