第21話 閻魔大王の思惑(下)


大王「義よ。仁を敵視するがあまり、仁の作成した映像が麗花を

   洗脳するものだと、お前は頭から疑って掛っておる。それ  

   こそが冤罪を作り出す」

義 「恐れ入ります」

大王「確かに仁の映像は森を見ず、木を語っておる。見る者が変

   われば受け取りようも変わる。お前はどう捉えた」

義 「人間は、最低限の道徳を保持していると決めつけていまし

   た。この罪人は、例外ではなく歪んだ人間界の象徴かと、

   今は感じております。虫を殺めるように人を扱う。性善説

   では、まともな裁きは通じないかと」

大王「我らは人間のこしらえた規律で裁くのではない。徳

   の積み方によって裁くものよ」

義 「はい」

大王「美辞麗句で彩られた愚論は心地よく共感を得やすい。奇麗

   な花には毒がある、だ。その毒に侵されないためには幾多

   の経験と推察を交え、道筋を見分けなければならぬ。その

   過程で自分に分からぬこと不都合なことの影響を受けて導

   き出した結論は、醜い駄作よ。異なる考え、不利なことも

   踏まえて導き出した結論は検討に値する」

義 「はい」

大王「感情とは時として相手を思い誤った結論の扉を開かせるも

   のよ。情に流されていては裁きは出来ぬわ。人間界には情

   状酌量とか判断能力がないと、刑罰の重みを軽減する愚か

   なものがあるが、ここにはない、なぜだか分かるか」

義 「事実はひとつ。白か黒か。被害者に非がある場合を除き、

   適用さるべきではない。犯した者を擁護するのではなく、

   犯した者の扱いに尽力すべき。人間界で言えば罪を犯した

   者との付き合い方で在り、善意の更生という曖昧な綺麗ご

   とに流されず罪を犯した者の人格を道徳によって浄化する

   こちかと」

大王「刑期など痛点の痛みに耐える期間だ。喉元過ぎれば熱さを

   忘れる、では狂犬を無防備に野に放つだけよ。神仏の教え

   を学ぶこと。それが人間界での浄化だ。その取り組み方に

   こそ酌量の余地がある。古の教え。新興宗教という都合の

   いい解釈ではない。神々は、人間を導くため下界に入りら

   れてから天上界からは降りられていない。神々は、善意に

   暮らす者には天国を見せ、悪事を働く者には戒めとして地

   獄を伝えただけだ。我らの裁きに人間界で継承される地獄

   絵図のようなものはないからな。あるのは転生の準備と浄

   化、腐りきった霊魂には無を与え、自ら会心の道を見つ

   け、励むことで新たな道が開かれる、ただ、それだけだ」

義 「はい」

大王「義よ、期待に応えてやる。仁と共に人間の罪を考えるが良

   い」

義 「はい」

大王「仁を左陪審、義を右陪審とする」

義 「精進致します」

大王「互いの優位点を研ぎ澄まし、弱点を補いまなべよ」


 閻魔大王は、神々が放置し、腐りきった人間界に嫌気を指していた。判断を左右させかねない感情を麗花を通して取り入れる事で、改善の足掛かりを築き始めていた。

 善人を装い多種多様を囲い込み自由を奪う者たちから、人間を救おうと動き出した。すぐさま、人間界と深い関係を築く、死神と産婦と生児を守護する神の産神うぶがみに関わる者と繋ぎを取った。

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