第19話 閻魔大王の思惑(上)
仁は大王の指示を受け、麗花に憑依し、人間の感覚を観察していた。その頃、大王は仁に一抹の不安を抱いていた。憑依し、感情を共有すれば人間の雑念も多かれ少なかれ仁に影響を与える。その波長が共感し始めると正誤判断が客観的でなくなり、偏向したものになる危険性があった。大王の懸念は、木乃伊取りが木乃伊になる、事実を感情で観てしまう過ちだった。
大王「義よ、ここへ」
義 「仁の監視ですね」
義は、裁き所の者や役所の霊を密かに監視し、大王に報告する密偵のような役割と警察内部を捜査する警察機構の公安のような任務に就いていた。
大王「理性の逸脱は許し難し」
義 「はっ」
「義の奴、すぐさま、反応しよったわ」。大王は、仁の影に纏わりつく違和感を確かめようとしていた。影を操る術は、密偵・使者に限られていた。配下の者の動きに注視していた大王は、向上心から誤った行動を臭わせていた義を試した。
大王の指示を受け義は、仁の作成した映像と麗花の感情を密かに監視していた。義は、仁に嫉妬心とライバル心を抱いていた。功績を認めて頂き、大王の信頼を捥ぎ取れば、仁に代わって大王の側近に成れる目が出てくる。そう、義は考え、以前から仁を密かにマークしていた。その行動が大王に悟られるきっかけとなっていた。
密偵の存在は、あってないようなもの。かといって評価の不利になることはない。それがこの世界だった。しかし、従事する者にとって密室の評価に不平を感じるのは人間界と酷似していた。
大王には、配下の考え・心の揺らぎを汲み取る裁量が与えられていた。ただ、対象者が悪意の霊・魂に侵されたと天上界の株組織が判断した場合のみとされていた。この取り決めは、大王の職権乱用による独裁を防ぐものだった。異なった見解を頭ごなしに否定する考えは、歪んだ事実を産み出す。目に見えない軽度な実害は、静かに堆積し、強固な有り得ない事実をまことしやかに対象者に刷り込む。刷り込まれた本人が気づかないことが恐ろしい。
大王は、仁を心配していた。感情に触れることは、見解の広がりを見せる反面、思考の閉塞感を産み出す。仁の一途さが仇になると受け取っていた。
義は、大王の思いを見誤り、大王の仁への不信感からの指示だと身勝手な思いに期待を膨らませていた。
以前から義は、ライバルと思い込む仁の行いの粗捜し、蹴落としに余念がなかった。麗花が見た映像以外に仁の作成した映像には音声もあった。それを密かに手に入れ、義は無声の映像を観る麗花の反応と音声のある映像から受ける自らの印象を比較して観ていた。その作業は徒労に終わった。音声の有無を問わず、仁の作成した映像は単細胞で軽率で短絡的な人間が犯したエゴイズムな行動の成せる物だった。
だとするならば、仁の作成した映像こそが洗脳のツールとされたのではないか。これは、偏見と冤罪を作り出す温床となるのではないか、と義は、仁の罪として報告に値すると考えた。あの映像はあくまで仁の推察が大きく影響している。死人に口なしをいいことに創作されたもの。三途の河原で彷徨う男に憑依して生前の出来事を追うことなど出来ない。犯人の男は、浄化の門を幾度か潜っている。その際、多くの記憶はリセットされ、初期化されている。過去に遡る術はない。記憶という川がないからだ。
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