第11話 偽善者の矛盾

 「死刑囚か」


 閻魔大王は、審議名簿を見て嘆いていた。死刑囚にではない、犯行にだ。


 「近頃、変化してきたな、世に放った人間たちの考え方の稚拙さが」

 「はい。人と人との繋がりが希薄になり、孤立を感じ対人不安を覚え、自己顕示欲に陥り、他人より劣ると思われる事への原因を他人に求め、破れかぶれになり、自殺を図るが思考力の未熟さから未遂に終わる。自分への殺意がいつか他人から殺害されるのではないかとの理不尽な考えに及んでいます」

 「怒りが持続し、攻撃性が自分に向くか他人に向くか分らぬ不安定さか…」

 「そんな時に犯行の引き金となる出来事が起きます」

 「それは本来、考えるべき時間を与えたもの。読解力が著しく低下していては望めまい」

 「はい。自殺を考え留まった者は、その怒りを他人に向けるのです」

 「嘆かわし」

 「人の目を見て話す。全ての生き物に与えた眼の力による抑止は、腐った目には通じぬわ」

 「目を反らす。嫌なことは避けて通る。その言い訳を用意する。この行動を玉ねぎを剥くように繰り返し泣き、その感情を恨みへと変化させてしまうのです」

 「不満を溜め込み爆発させるか…」

 「自分自身の怒りや偏った思考を社会と隔絶させた処で増幅させ、事件を起こします」

 「社会との隔絶か…」

 「社会と繋がる便利なSNSには、陰口を叩く者や成りすまして煽る輩も少なからずです。乱れております」

 「怒りを覚えるな」

 「今回の死刑囚は、秋葉原通り魔事件を犯した者です。成育過程に問題があった。欲求不満の解消方法も学べず、自虐的かつ被害的になる。人との接触機会が希薄で在り、対処法が稚拙であり、葛藤場面で他の感情・行動を考えることが出来ず非常識と捉えられる行動しかとれないから問題となり、更に閉塞感を増大させてしまうのです。まさに悪循環かと」

 「そのような者が増えてきておるな」

 「はい。相模原やまゆり園事件、京都アニメーション放火殺人事件、北新地ビル放火殺人事件、安倍川元首相銃撃事件など相次いでいます」

 「そうだな」

 「思い通りにならない問題を解決する手段として事件を起こすが正当化されています」 

 「どういう事だ」

 「はい。事件を起こさない理由が起こす理由に勝れば事件を起こさない。実行犯たちは起こす理由が勝った。すなわち、引き留めてくれる者がいれば、事件を起こさない。やる理由はあるがやらない理由がないということです」

 「身勝手極まりない」

 「孤立していく中で視野や状況把握範囲が狭まっていく。悪の媚薬である被害妄想は、奴らを最も簡単な解決方法である暴挙に走らせます。媚薬は、他人を傷つけることで自分の存在を知らしめるという誤った考えを正当化していくのです」

 「想像・思考という英知は、閉じ込めると毒となるか…」

 「はい。非正規軍が善人ぶって撒き散らす主張は、英知に閉塞感を与え、自分が気持ち良ければ他を傷つけてもいい、と卑怯にも自分は仮面を被って相手を攻撃することに快感を覚えるのです。その延長線に他人を巻き込むことを正当化した事件が起きます」

 「権利という人間界の未成熟な決まり事か」

 「はい。自分は傷つけられたことがある、だから正す権利があると言う身勝手な言い分。他人の同意や共感が得られなければ、怒りや恨み、それが、思い込みとなり増幅し、他人の意見を聞く耳を閉ざし、危険な被害妄想に走らせるのです」

 「能ある鷹は爪を隠す、は何処へ失われた。他の者の優れた所から目を反らし、愚かな処を探し出し揶揄することで優越感に浸る。ひ弱になったものよ、人間は」

 「本来は、他の有能さに嫉妬し、それを励みに努力し向上するはずですが」

 「向上心が脆弱となったか」

 「はい。このままでは、浅はかな考えを持つ口の立つ者が蔓延る愚かな世界に。社会の構造を変えなけば、止まりません。現実を暴言と固唾けられ、罰を受けるリスクが抑止力にならない今、社会との分断は人間を悪に仕立て上げるのが現状です」

 「善人ぶった主張をする者の成せる業か…。性善説はこ奴らの道具に非ず」

 「はい。差別だ、平等だ、と騒ぐ殆どの者は、SNSで暴言を吐く者と変わりありません。自分を安全な場所に置き、知識を述べることで社会を良くしようと動いて居ると自分を正当化し、自身の存在感を示す喜びを得ている。まさに、偽善者です」

 「確かに、脳が育つ時期に競争させず、順位をつけることを悪い事だと教える。競争に順応せぬまま成長し、競争社会に放り出す、無責任なことよな」

 「はい。感情・知識の基礎が築かれる頃に競争は駄目だと教え、成長すれば、出世やオリンピックで競わせ、勝つことに意味を持たせる矛盾。正論を盾に暴言の矛を突き刺す。浅はかさが極まりないです」

 「非正規軍の悪影響はおびただしいな」

 「大王からも是非、天界の方々にお伝えくださることを願います」

 「骨が折れるわ、人間には」

 「さて、大王。この者は如何致しましょうか」

 「刺して血が好きならば、蚊として転生を繰り返させてやるわ」

 「はい」

 「一刺しして、圧死。それを繰り返せ。二度と人間には戻さん」

 「哀れな者です」

 「それがお似合いよ、わははははは」

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