第31話 皇帝ザリオン
ここは帝都の中央。皇帝の居城である常闇の城。
皇帝の名はザリオン。千年の間帝国に君臨していると言われている。
城の中央にそびえ立つ暗黒の塔の最下部に玉座のある謁見の間がある。
名まえだけは謁見の間だが、ここ数百年、謁見の間で皇帝ザリオンに拝謁した者は皆無だ。
大き目のメダルを首から下げた皇帝ザリオンは全くの暗闇の中で玉座に座っていた。
ザリオンが首から下げたメダルの色は暗黒の中では判別できないが、実は皇帝の証、帝権を示す金のメダルで精巧な意匠が施されている。
皇帝付き筆頭女官が玉座に座るザリオンの前に進み出た。筆頭女官の名はヘレナという。
ヘレナを含め皇帝付き女官は全員闇の御子であるザリオンの能力によって『闇の巫女』とされた女性で、光の全くない真の闇の中でも
また『闇の巫女』の身体能力は丸薬とは関係なく周囲が暗ければ暗いほど上昇する。従って真の暗黒の中でその能力は最大となり、黒い丸薬ニグラを飲んだ審問官をも上回る。
彼女たちの服装は黒のローブ。しかも頭からすっぽり黒の頭巾をかぶっているため、容貌どころか視線もうかがえない。
「陛下、お薬をお持ちしました。
ご報告が一件あります」
ザリオンは彼女が差し出した盆の上のゴブレットを左手で受け取って、
「申してみよ」
ザリオンの声は小さく低く、しかもしわがれており、かなり聞き取りづらいが筆頭女官はもちろん聞き慣れているため、ザリオンの声を聞き違うことはない。
「昨日の大雨のさなか、移動中の審問官一部隊五名、帝城近くで揃って死体となって発見されました」
「先日は審問官が三名大空洞で消えたが、今度は一部隊まるまる五名、この城の近くで殺害されたというのか?」
「はい」
「その五名はどのような形で死んでおった?」
「部隊長を含めた三人が喉を切り裂かれており、二人が延髄と首の付け根を一突きされていました。
部隊長を除いて他に傷はありませんでした。部隊長だけは肩口を鋭い刃物で突かれた上、喉を裂かれています。
部隊長の肩口への一撃は肩の関節を砕いておりかなりの力を要したものと思われます。
砕かれた肩には折れた刃物の先端が残っておりました。
傷口から判断して相手の人数はおそらく二名」
「たかだか二名を相手に五名の審問官が斃されたのか。それで相手はどうなった?」
「審問官以外の死体などありませんでしたし、審問官がほぼ一撃で斃されていたことから判断して、犯人は無傷で逃走したものと思われます」
「力と速さと正確さ。少なくとも三種の丸薬を飲んだ者の仕業だ。
二人のうちの少なくとも一人は影の御子だ。
探せ! 探し出して息の根を止めよ」
「
「例外はない。もし抵抗するようならわたしが直々叩き潰す。
ハウスを一つ二つ叩き潰しても代わりは何とでもなる。それで残りのハウスも百年はおとなしくなるだろう。
そろそろ空気を換えてもいいころ合いだしな」
「御意」
ザリオンの命を受けた筆頭女官ヘレナは謁見の間から音もたてずに去り、ザリオンだけが暗闇に残った。
ザリオンの左手にはゴブレットが握られていた。
そのゴブレットはプラチナ製でほとんどの酸や毒に侵されることはない。
ザリオンはゴブレットの中に入っていたドロリとした液体を飲み干してから立ち上がり、ゴブレットを玉座の上に置き、玉座の後ろに開いた階段を上って塔の最上階にある寝所に帰っていった。
ヘレナから三種の丸薬に適合する者を探し出すよう指示された審問官たちは帝都の中をくまなく探し回った。
一軒一軒、一部屋一部屋
目当ては闇の御子。手掛かりは何もないため、審問官はそれらしい人物を取り押さえ、手首の裏側に針を刺していった。
その針の先にはナメクジの粘液、スラグシルバーを適度に薄めた液が塗ってあり、針を刺された者が何らかの丸薬に対して適合すれば、対応する色のアザが針を刺された位置に現れる。
二種の丸薬に適合すれば二色、三種の丸薬に適合すれば三色のアザがきれいに分かれて現れる。
この検針により、二百人ほどが審問官たちにより検針され、十人に一人、二十人ほどがナメクジの粘液の毒により落命している。
死体は常闇の城の地下大空洞に運ばれ、ナメクジの餌として投げ捨てられた。
捨てられたどの死体も顔が溶け落ち二つの眼球がことごとく溶け出て眼窩にはぽっかり穴が空いていた。
審問官たちがケルビンのアパートを家探していれていればいろいろまずいものが見つかったろうが、彼らはあくまで三種の丸薬に適合する
市街から影の御子と思われる人物は発見できなかったため、審問官たちは引き続き五
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