第35話 ローゼット家2
こちらはローゼット家。
ハンコック家の嫡男コーネリアス・ハンコックを審問官殺害の罪で処刑するため見届け人を出すよう帝城より書状が届いた。もちろんローゼット家は指示に従い見届け人を送り出している。
「ハンコック家は嫡男を失うわけだが、この後どう動くと思う?」
ローゼット家の当主ビクトリア・ローゼットが筆頭家令キエーザに問うた。
「審問官殺害の罪となれば、本人の処刑でことが済むとは思えません」
「そうだな。ハンコック家の当主にも累が及ぶであろうな」
「マティアス殿がハンコック家を守るために自裁でもすればことは収まるでしょうが、嫡男を失った今そんなことはできないでしょう」
「そうなれば、ハンコック家は自壊する可能性もあるだろうしな。なにかハンコック家で確かな動きはあるのか?」
「各地に散らばる荘園から兵をかき集めているようです」
「ということは皇帝に反旗を翻す?」
「そうであろうとなかろうと、皇帝はそうとるでしょう。
もちろんマティアス殿もそのことは承知のうえで兵を集めていると考えてよろしいでしょう」
「そのまま皇帝に反旗を翻してくれればよいが、直前で気を変えて当家やほかの公家に兵を向かわせることもあり得るのではないか?
皇帝はこれまで公家間の私闘に関与したことは一度もなかったハズだ。そうなっては一大事だから、わが方もある程度備えねばならぬのではないか?」
「その可能性はないではないでしょうが皇帝に睨まれて存続の危機を迎えている現状、ハンコック家にそこまでの余裕はないでしょう」
「うかつに兵を帝都に集結させれば、皇帝にあらぬ疑いをかけられるし、静観するしかないのか」
「はい。それが一番でしょう。
万が一、ハンコック家が当家に兵を差し向けたとしても、当家には黒衣団も控えています。
いかなハンコック家と言えども、この屋敷を
「分かった」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハンコック家の嫡男コーネリアス・ハンコックが処刑されて三週間が経っていた。
全国に散らばるハンコック家の荘園より一八○○名の私兵がすでにハンコック家に集結していた。この数は当主マティアスの予想を超えていた。とはいえ一八○○の兵である程度は有利になったのだろうが、圧倒的に有利になったわけではないとマティアスも考えていた。
ハンコック家の屋敷の敷地内には彼らを収容するためそれまで物置として使っていた建物を兵舎がわりに空け、臨時のテントも張っている。ハンコック家の敷地内だけでは兵士たちを収容できなかったため、屋敷近くの空き家などを借り上げて急場の宿舎に充てたりもしていた。
マティアスは執務室で、この三週間、皇帝ザリオンになにも動きがないことをいぶかしむとともに恐れていた。
最も恐れなければならないのは、夜陰に乗じて皇帝自ら執務室に現れることだ。
そのためマティアスの執務室や居室には終夜煌々と明かりが灯されて、出入り口は警護の兵で固められていた。
『わが方の動きを皇帝が知らぬはずはない。にもかかわらず私兵の集結を見逃している。なぜだ?
一八〇〇程度の兵など、物の数にも入らないというのか? いざとなれば、敵わぬまでも帝都を焼き払うこともできるのだぞ』
屋敷にいた一族のうちコーネリアスの妻子を含め女、子どもはハンコック家が所有する荘園にすでに分散して送り出している。
マティアスは私兵団の団長に、自分にもしものことがあれば、皇帝の差し向ける審問官には構わず、茸の栽培場と製造所を破壊し、帝都に散らばって帝都を焼け。と、命じていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
常闇の城、暗黒の塔の謁見の間。
謁見の間にいるのは、皇帝ザリオンと筆頭女官ヘレナだけである。
「そろそろ、帝都に入ってくるハンコックの兵も途切れたようだな」
「そのようです」
「それでは、久しぶりに体を動かすか。今夜あたり出向いて叩き潰してこよう。オーラ(注1)を用意しておいてくれ」
「かしこまりました。
ハンコック家が所有する荘園はいかがしましょう?」
「親を失った荘園など残った四
「御意」
その夜、漆黒の革のスーツを着込んだ皇帝ザリオンはヘレナの用意した金色の丸薬、オーラを飲み込み、数百年ぶりに暗黒の塔から城外まで続く秘密の通路を通り、灰を含んだ霧雨の降る夜の闇に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます