第11話 絡まれたハル

とりあえず授業を真面目に受けろ。

越前様に早速頂いた、テストで困らない為のありがたぁいお言葉アドバイスだ。


ハルは実践したものの、午前中だけですっかり目を回していた。

許容量を超えた頭は爆発し、いつも柔らかくうねるだけの癖毛はもはや鳥の巣状態だ。

はっきり言って何が分からないのかすら分からない。


「絶対、無理だ…」


今からなんてとても追いつける自信はない。

一人なら即終了するところだが、今回はここからが頑張りどころだ。


「あれ?」


教室内に瓏凪たちの姿がもうない。

そういえばいつもの食堂で集合とか言っていたような。

考えてみれば同じクラスなのに下で集まり直すなんておかしな話だ。


「先に行ったんかな?」


鞄が悲鳴を上げるまで教科書を詰め込んでいると、ハルの机にピンク色の爪をした華奢な指先が触れた。


「ねぇ、笠井」


聞き慣れない高い声。

いつの間にか三人の女子がハルの周りを取り囲んでいた。

揃ってぷっくりとした色付きリップが目を引く。

強調されたまつ毛の迫力もすごい。


「笠井さ、昼休みいつもどこで食べてるのよ」

「へ?」

「恵美が見かけたって言ってたけど、あんた瓏凪くんと一緒にいるの?」


恵美と言われても誰のことかすら分からない。

困惑するハルに、話しかけていた真ん中の黒髪ロングの女子がにっこりと笑いかけた。


「ね、連絡先交換しない?」

「えっ…」

「いいでしょ?友だち登録してあげる」


していらない。

表情筋で答えると、ハルは伸ばされた手を避けるように鞄を抱え込んだ。


「ごめん、俺用事があるから!!」

「あ、笠井!!」


捕まる前に教室から飛び出していく。

逃げられた女子三人は唖然としたが、すぐに不機嫌な顔になった。


「もう、何あれ。失礼な奴!」

「でもさ。やっぱり笠井否定しなかったね」

「うん…」


ハルに話しかけた小倉 由佳おぐら ゆかは、気を落ち着けるように長い黒髪の先を指で撫でた。


「…やってやるわよ。笠井くらいなら、なんとでもなるし」


教卓を振り返ると、一段高い壇上に立ち、腕を組みながら由佳を見下ろしている女子生徒がいた。


薄紅色の唇。

色素の薄い、腰まで流れる髪。

人形のように綺麗に整った顔立ち。

それなのに瞳に浮かぶ色は氷のように冷め切っている。


「せせら…」


由佳はごくりと生唾を飲むと、その冷たい眼差しに気圧されないように黙って頷いて見せた。

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