第10話 ハルのテスト勉強
「中間…テスト…?」
無情に告げられたテスト範囲に、ハルの手から絶望的な音を立てて教科書が落ちた。
まだまだ先だと高を括っていたが、そういえば自分だけは途中入学だったのだ。
「や…、やばい。やばいやばいやばいやばい。酷い点取ったらまたスマホ没収される…!」
あの悲劇は確か中学二年の汗が滴る暑い日だった。
赤点がついたテストを三つも見つけた母は、巨大なキングコングへとトランスフォームし、ハルの命であるスマホを奪い取った挙句コスモを打ち破る激しさで全曲を消し去るという天をも恐れぬ仕打ちを(ハル脳内以下略)。
「ああぁ、どうしよう!!」
本日も陰気な食堂で頭を抱えていると、三人分のグラスを持った
「なんだよ、ハル。どうした?」
この頃ではすっかり慣れた爽やかな香りに慰められ、ハルは苦悶の顔を上げた。
「
「はぁ?」
「再来週からテストなんて聞いてない」
今日は金曜日。
来週は短縮授業で、再来週からテストが始まる。
そんな短期間で何をどう勉強すればいいというのか。
瓏凪はスライムの如くテーブルで溶けるハルをつついた。
「なんだよ。そんなにまずいのか?」
「だって…、おれ元々出遅れてたし…全然、分からんし…」
心の底から打ちひしがれていると、静かにラーメンを食べていた越前が箸を揃えて置いた。
「俺が見てやろうか」
「え…?」
越前が、初めてまともに話しかけてきた。
それも大概驚いたが、襟元に緑色の校章が光る救いの神が放った一言に、ハルは落ちそうなほど目を大きくした。
「ほ、ほんとに?」
「ハルが放課後に時間を取れるならな」
名を呼ばれた途端、ハルは急に痺れたように硬直した。
さっきまで絶望に暮れていたのが嘘のように瞳から感情がなくなり、焦点も怪しい。
越前は突然のことに首を傾げた。
「…ハル?」
一雫。
名を呼ぶ、柔らかな音。
葉の先端から落ちた透明な雫は、ハルの中で波紋のように広がると凪いでいた琴線に緩やかに触れた。
こんなに気持ちのいい
「え…越前…もぅ…」
「は?」
「もう一回、呼んで…?」
今度は熱に浮かされたような目で見上げてくる。
越前は顔をしかめると、ハルのおでこをべしりと叩いた。
「正気に戻れ」
「いて」
隣で見ていた瓏凪は思わず吹き出したが、涼やかな目に横目で睨まれたので咳で誤魔化した。
「えー、じゃあハルも勉強会に参加って事でいいか?」
「へ?勉強会?」
「あぁ、俺もテスト前だけは越前の部屋で見てもらってるんだ」
「越前の部屋?でも、俺寮生じゃないのに入れんの?」
「ちゃんと申請すれば入れるぜ」
これは思わぬことになってきた。
だがせっかく手応えのある藁を両手で鷲掴みにしたのに離す選択肢はない。
散々考えた末、ハルは怒涛の懇願で母の了承を取り付け(但し全教科平均点以上という厳しい条件付きで)、短縮期間中は弁当持参で越前の部屋に通うことが決定した。
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