夫婦の絆

黒っぽい猫

夫婦の絆



今年で50になる母が父と離婚したいと言い出した。理由を聞くと、父がだらしないからだという。父は長年機械部品メーカーの研究開発部に勤めていて帰宅時間はいつも夜中だった。夕食を会社で食べて帰ってくることが多く、平日に家族がそろって食事をとるのは朝だけだった。



私がまだ小学生の頃、休日は家族でお出かけしてレストランでランチやディナーすることが多かった。日曜日の夕食は父が作るカレーと決まっていた。平日家族と過ごす時間が少ないことを父は残念に思っていて、夏のお盆休みと冬の年末年始は家族であちこちのキャンプ場に行って遊び、キャビンで数日間過ごすのが我が家の恒例行事だった。



2歳下の妹が中学に上がった頃から夏季講習や部活のため家族全員でキャンプに行くことはなくなった。40代後半になった父は体力が落ちてきたのか休日も疲れていること多く、リビングのソファで過ごすことが多くなった。たいていは自分で借りてきたレンタルビデオの映画を見ていた。



母とは映画の趣味が違うらしく夫婦二人でビデオを見ることは滅多になく、休日母は出かけることが多くなった。私と妹も塾や部活で家にいないことが多く、父は休日のほとんどをリビングで1人過ごしていた。私か妹が休日の昼に家にいるときは、父が昼食にチャーハンや焼きそばを作ってくれた。私と妹からすると父はだらしなく見えず、いろんな相談にものってくれる気さくで優しい父親だった。



母が父をだらしないと非難するのは、休日父が1日中ソファに寝そべって時々オナラをすることだった。お酒を飲まない父はコーラとポテチが大好きで、父の弁解によるとコーラを飲むとオナラが出てしまうのだという。母によると「カウチポテトでだらしなく寝そべりオナラをする父」が耐え難いほど嫌だというのだった。



え?離婚したい理由はソレ?



私と妹は開いた口がふさがらなかった。



母は休日に出かけたくて出かけているわけではなく、そんな「だらしない父」と一緒に過ごすのが嫌でショッピングモールをうろつき、カフェや図書館で本を読んで時間を潰しているのだという。離婚の話はまだ父に話していないが、妹の大学進学を機にとりあえず別居したいと母は言った。そんな大変なことになっているとは露知らず父がレンタルビデオ屋から帰ってきた。母はいつものように入れ違いに出かけて行った。



部屋に戻ってから私と妹は顔を見合わせてため息をついた。



「お母さん、本気らしいね。ウチどうなるんだろ?」



「さあ。夫婦の絆って、なんだろね」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夫婦の絆 黒っぽい猫 @udontao123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ