第7話 Time Say Goodbye

 ――伊原邸。


「――そういうわけだ。カナとマサキを会わせてやりたいと思う」


 ウラトは、先の電話でのゲンジロウとのやり取り――コフタ=マサキという刑事が、火鳥会が行っている捜査の協力に加わったこと。

 それと、マサキの娘が、カナであるということ。

 そのカナを、ウラトの方で預かっているということ――をレイハに説明した。


「行方不明だった娘が見つかったんだ。会いたいと思わない親がいるのか?余とて、人の心を捨てておらんわ」

「かしこまりました。早速手配いたします」

 レイハは一礼する。


「それにしても、警察に圧力がかけられている状態にも関わらず、刑事とのパイプを作り上げるとは。流石ですねウラト様」

 レイハはこんなことを言い残し、部屋を後にした。


 後ろ姿を見送った後、ウラトは呟いた。

「レイハは、アサトみたく真面目腐ってると思っていたが、気の利いた世辞を言うとはな。もっとも、地方警察の刑事なんかアテにならんが」



***


 一階の応接室のソファーにカナが座っていた。レイハから「ここで座って待っているように」と言われたからである。


 カナがそわそわしながらソファーの上で待っている。少し時間が経ってから、レイハが、マサキを連れて入ってきた。


 マサキを見たカナは、喜びのあまり言葉を失ってしまった。


「カナ?」

 マサキは、呆然としているカナに呼びかける。


「お父さん?……お父さん!」

 カナはマサキに駆け寄り、抱きついた。

 カナに抱きつかれたマサキも、お返しにとカナを抱きしめる。


 マサキは、感極まって目に涙を浮かべた。


 涙を拭うため、サングラスを外す。

 不意に視界が赤くなり、カナを殺してしまうかもしれないと思ったので、カナの方を見ないようにと、細心の注意を払う。


 その様子を見て、カナは何やら胸騒ぎがした。

「お父さん、大丈夫?」

 娘の思わぬ一言に、マサキは内心気が気でなかった。


「カナ、話があるんだ」

 気を取り直し、サングラスをかけ直してから、カナの方を向く。


「お父さんはな、今、お母さんを殺してカナをさらった奴を探しているんだ」

「お父さん、そいつは死んだわ」

 カナの一言に、マサキは驚きを隠せない。


「なんでそうって言えるのかっていうことは、ごめんなさい、話せないの。でも、死んだのは確かよ」


 カナは『リュクス』にて、ジェイに血を与えられ、ここに連れてこられた。

 そもそも、リュクスにいたのは、何者かに連れていかれたからだ。


 カナをリュクスに連れてきたものこそ、ケイコを殺し、カナを連れさった犯人であった。

 犯人はヴァンパイアであった、ということは言うまでもない。


 カナは犯人の毒牙にかかり――正確には『スロートバイト』を飲まされて――ヴァンパイアになった、というわけである。

 もっとも、犯人は容疑者となる前に、ジェイの手にかかったわけだが。


「私も色々あって、ここから離れられない状態になっちゃったけど、皆、いい人よ。イハラさん、わかるでしょ?頼めば、お父さんも一緒にいられると思うの。

「だから……」

 カナは言い淀んだ。


 マサキはカナの無事を心の底から喜んでいた。


 しかし、マサキは火鳥会と取引をしてしまった。オマケに法に触れるような罪まで犯したという有様だ。


 マサキはカナと一緒にいたかった。でも、もう後戻りができないところまで来てしまったのだ。


 何も言わずに俯いているカナに対し、マサキは肩に手を置いた。


「……そうか。とにかく、カナが無事で良かった。でもな、お父さんはカナやお母さんみたいな目に合う人を、これ以上増やしたくないんだ」


 それを聞いたカナは顔を上げ、マサキの顔を見た。マサキの顔からは迷いが見られなかった。


「カナに会えてよかった。じゃあ、お父さんは行ってくるね」

 そう言い残し、マサキは部屋を後にした。


「お父さん!?お父さん!!」

 カナは、自分の元を去っていくマサキの後ろ姿を、目で追いかけた。

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