第3話Part2
『次のニュースです。今朝、京都府D市郊外で、男性三人が死亡しているのが確認されました。警察は殺人事件の疑いがあると見て、捜査を進めています……免許証の名前から被害者は府内の会社員――――』
帰ってきて小夜香に言われたように、ニュースくらいはチェックしようと思ったらこの報道だ。
小夜香との探検の後、寮のバスルームで身体を洗い、しばし落ち着くこと三十分。
小夜香だけ先に帰して、自分は戻るべきではなかったのかもしれない、と私は思った。
あの夕方の屋上で、私はある「気配」を感じた。といっても、その残りかすのようなものなのだが。多少のブランクがあるとはいえ、あの気配は間違いようがない。
「あいつら」だ。私がこれまで狩ってきた敵が持つ気配そのものだった。けれど、一度事件発生から時間が経ってしまった以上、再び探し出すのは難しい。そう考えて一度態勢を立て直すために、寮に戻ってきたのだ。決心がつかなかったというのもあった。
しかし、この分では戻ってくるべきではなかったのかもしれない。
私は、自分の机に近づいた。そして、机の引き出しの一番下の一番奥から、大きなポーチを取り出す。そこから、真っ赤な旧式の携帯電話を取り出した。私用の携帯端末とは別のものだ。
登録してある番号の一番上の番号をコールする。
もう二度とかけることはないだろうと思っていた番号だった。
すぐに相手が出た。
「あら、ラブコールかしら?」
落ち着いた声音から、相手が自室にいることが分かった。
東京丸の内のレンガビルにある社長室を思い出す。
壁の上の方に掛け軸が飾ってあり、蛇の型をとった墨拓がかけてある。
用途不明の文献が大量に入った本棚がいくつも並んでいる社長室。
「違う。だけどひさしぶり、
「ひさしぶり。冗談よ」
私は彼女の冗談が好きだった。今も少しくすぐったい。照れているのではなく、せつない。
「京都の事件、もう耳に入ってる?」
「いいえ。なんのこと?それにどうしたの。もう辞めるんじゃなかったの?」
「まだ私はクビになってないよね?」
「そうね。確かに。辞表を預かるとは言ったけど、受理するとは言ってないわよ。とりあえず、事情を端的に話しなさい」
まぎれもない、以前の彼女の口調だ。
「「怪異事件」が起こった。現場は学校の近く。
「だいたい調べたわ。状況的には確かに怪しいわね」
私が前後の事情を説明すると、紫乃は納得がいったように答えを返した。
私は、腹に力を入れ、呼吸する。意を決して言葉を続けた。
「地元警察に依頼を貰ってほしい。私の経歴も全部話していいから。事件解決が遅いところを見ると、まだ依頼がいってない。警察がわかってないのかもしれないけれど」
「時間を作ってやってみるわ。けれど、大丈夫なの?」
あなた、まだ──と言葉が続く。わかっている。今も動悸が激しくなっているのがわかる。腹部がひきつるような感覚もある。
けれど。
「2時間だったの」
「え?」
「聞いて。2時間。私、2時間前に、現場の近くにいたの。すごく近くってわけじゃない。けれど確かにいたんだ。2時間もあれば、現場まで行けてた」
うまく探せなかったから。だから人が死んだ。あの時、私が探し続けていれば。
「だからお願い。解決させて」
「……わかったわ。けれど、厳しいようだけど。サポートの人員は送れないの」
「わかってる」
「あなたを突き放しているわけじゃない。ただ、単純に人手が足りないの。戦力になりそうな人員は他の依頼で出払っているわ。私も明後日には北海道。あなたの真反対の方角よ」
「……」
「大丈夫。頼まれたことは今日中にやってみせるわ」
「……ごめん。迷惑かけちゃって」
「いいのよ。うまくいけば高く依頼料がたくさんとれるわ。それで……復帰するということでいいのね?」
「…………はい。社長」
「復職を受理します。「
その夜、私は再び動き始めることにした。
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