第9話 お助けデート

 コメントには「タヒぬべし」「妄想乙」「彼女いた人間がここに来るわけないだろ」「リア充だ~!!隠れろ~!!」とか散々なコメントだった。

 ひでぇ~。

 なんか、嫉妬が垣間見えてなんか怖い。


「はい皆落ち着いて」


 彼方ちゃんの言葉でコメントが「はい」で埋め尽くされた。

 なんというか、調教されてるからか彼方ちゃんの事には従う化物であった。


「んん、彼女さんと喧嘩か、それは大変だね」

「原因はどっちにあるかはわからないけど、付き合ってるんだからよほどの事が無い限り仲直りできると思うよ」

「これは私の親友の話だけど、私の親友も元カレが勇気を出して声を掛けて険悪な雰囲気が和らいだみたいで、あと一歩でよりを戻せそうって言ってたよ」

「だから、まだ本当によりを戻したいなら早めにした方がいいよ」

「傷ってのはどんどん開いていくから、修復できるうちに修復しないとどんどんずるずると引きずって化膿して手遅れになって後悔しても遅いから早めにするといいよ」


 彼女のいう事はなんとなくわかる。

 手遅れになって修復できない傷もあるのだ。

 今回の件だってそうだ。

 僕と奏が何もしなければ、お互いに険悪なままだっただろう。

 お互いに一歩寄り添えばいいだけなのにだ。


「私からはそれだけ、皆はどう思う?」

「「すぐに行け」言い方かっこよ」

「ほら「頑張れ」って皆応援してる」

「大丈夫、振られたら私とリスナーが骨を拾ってやるから思いきってやってみて」

「私は君を応援してるよ」


 彼女の言葉に「おうよ!!」「骨は拾ってやる」「振られたら願人になろうぜ!!」

「応援してるよ」など、晴斗のお便りに温かい言葉が送られた。


「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに~」


 「叶彼方でした」と言ってエンディングムービーが流れる。

 あっという間に終わってしまった。

 楽しい時間は時が早く過ぎると言うが、二時間は立っているので我儘というものだ。

 しばらく楽しさに浸っていると、奏から連絡が来た。

 

「もしかしてだけど、あの投稿って松本君かな?」

「……どうだろう?」


 これ言ったら、小倉さんに伝わると可哀想なので黙っておくことにしている。

 「ふ~ん」っと疑ったようにそう言った。

 

「知らないからな」

「……やっぱりそうなんだねぇ~」


 何だろう、その言葉には見透かされてるような含みのある言い方だった。

 彼女の常套な誘導尋問だ。

 こういう所でバレるんだよなぁ~。

 彼女はこういう事が上手いので隠し事が何度バレた事かわからない。


「さぁ、何のことやら?」

「それにしても、踊る大修羅場線ってネーミングセンス、蓮人が考えたの?」

「僕じゃないけど、中々のネーミングセンスだよな」


 実際考えたのは晴斗なので、嘘はついてない。

 

「今日の配信、どうだった?」

「控えめに言って極上」

「……ふふっ、何それ最高じゃないの?」

「最高より上だろ、僕にとって彼方ちゃんの配信はいつも極上だよ」


 実際、彼女が配信してくれるだけで幸せな気持ちになるのだ。

 極上以外なんと言えようか。


「俺、やるわ!!」


 次の日、晴斗はやる気満々で僕に宣言してきやがった。

 とはいえ、小倉さんのいる教室で言わないのが晴斗らしいのだが……。


「つっても、次の計画はあるのかよ?」

「……?」


 ……ん?

 何かおかしなことを言っただろうか?

 晴斗はきょとんとした表情で首を傾げ、こちらを見ている。

 こいつ、もしかしてやる気が先行しているだけなんじゃ……。

 

「何も考えて、無いのか?」

「……(コクリ)」


 笑顔でこいつ頷きやがった!!

 今回はだめかもしれない。

 

「なぁ、蓮人」

「なんだよ」

「ダブルデートしねえか?」

「……は?」


 何を言っているのだろうかこいつは。

 デートと言うのは特定の恋人がいる人のことを言うのだ。

 僕にそういう相手がいないのをわかっていってるのだろうか?


「喧嘩売ってんのか? こっちとら彼女いない歴年齢なんだぞ?」

「言い方を間違えた、男女2体2でどうよ?」


 あぁ、そういう事か。

 要は僕と奏でサポートしてほしいと。

 でもなぁ~。

 正直、僕らに出来る事なんてもうない気がする。

 だけど、二人の行く末が気になるのもまた事実だった。


「何曜日に行く予定なんだ?」

「それは、そっちに合わせるよ。 俺も咲奈も空いてるし、調整できるから」

「わかった、奏にも確認とって連絡するよ」


 そう言って僕はチケットを二枚受け取ると、帰り道にそれとなく聞いてみる事にした。

「う~ん、今日も疲れたねぇ~」

「だなぁ~」


 放課後、何時ものように彼女と帰宅していた。

 

「今日の古文の授業、蓮人全然わかってなかったでしょ」

「まぁな」

「胸を張って言う事じゃないでしょ~、全く……そんなんで受験大丈夫なの?」

「まだ一年だぞ? 早くないか?」


 正直、早くとも高校二年になってからやろうとは僕も考えている。


「一年からやらないと、本格的にやるときにはもう遅いんだよ。 ほら勝負は準備の段階で決まるっていうじゃん」

「それは本番前にやるんだろ?」

「いやいや、準備ってのは計画的に行うものだよ? 計画を立て、それに向かった準備、そうして本番の三段階が必要って意味だと私は思うけど?」


 出たよ、奏の持論。

 明るくて前向きな性格で理想的で非計画的なのに、こういう所は現実的で計画的なのだ。


「大丈夫だって」

「それが大丈夫じゃないから言ってるの、受験の時を忘れたの?」

「う……」


 ぐぅの音も出ません、はい。

 正直な話、彼女がいなかったら今の高校には合格する事など出来なかっただろう。


「ちゃんとしないと駄目だよ?」

「お前は僕の母親か」

「言われるようなダメダメなのが悪いんだよ」


 雰囲気が悪い。

 この状況でチケットなんて渡せるわけがない。


 そうして次の日の昼休み

「渡せてないってマジかよ」


 晴斗と歩いていると、呆れたように僕に向かって言ってきた。

 ムカつくからドタキャンして二人きりにしてやろうか。


「別にまだ時間はあるからいいだろ」

「よくねえよ、二人きりとかマジで無理だぞ? 緊張で死ぬど?」

「なんでだよ、頑張れよ」


 無理な理由は分かるが、自分が出来ないからって人を責めるのは良くないと思う。

 まぁ、そう言った所でまた泣き事を言うので面倒なので言わないでおくが。

 

「頼むぜ、本当に」


 呆れたようにそういう晴斗。

 自分のことをちゃんとしてから言えよっと思う。


「そういうからには、お前もちゃんと小倉さんに気持ち伝えるんだよな?」

「任せとけって、俺だってやるときはやるんだぜ?」


 信用ならんな~。

 今までのチキンぶりから見て絶対に怯みそうな気がする。

 

「その言葉、忘れるんじゃねえぞ?」

「へいへい、わかってるよ」

 

 自身満々にそういった。

 ほんと、口だけは達者だな。

 小倉さんの前になったら絶対怯むという未来図が頭に浮かぶ。 


「なぁ奏」

「何かね? 蓮人君」


 探偵の様な「事件かね?」口調で言ってきた。

 毎度毎度、言語多様な事で。


「今週の土日って空いてるか?」

「なんで?」

「これなんだけど……」

「これって……」

「晴斗が小倉さんのデートについて来てほしいんだって」

「……え?」

「ん?」


 何かおかしなこと言っただろうか?

 彼女はきょとんとした顔でこっちを見る。


「あ~、そういう事ね……ちょっと待ってね……」

 

 そう言ってスマホをポチポチと弄って予定を見ている。

 彼女は予定は全てスマホに入っているのだ。









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