第8話 リアルとラジオと相談事

「ふぅ、疲れたなぁ~」

「だなぁ~」


 僕らの試合が終わり、もう一人の試合が始まり少しの休憩となった。

 周りは授業という事を忘れそれぞれが休みの間好きなように喋っていた。

 

「お疲れ、頑張ってたじゃん」


 小倉さんと奏が声を掛けてきた。


「お前な、あの言い方はどうかと思うぞ?」

「何か間違ったことを言ったかね?」

「唯一輝けるは違うだろ」

「あはは」

「笑ってごまかすな」


 そう言って僕らは何気ない話をしていると、全ての試合が終わり少しの自由時間が訪れた。


「せっかくだし、シュートの勝負でもしない?」

「勝負?」

「十本勝負で多く入れた方が勝ち!!」

「勝負の賭けは何だ?」

「う~ん、何にする?」


 咲奈は奏に問いかける。

 何も考えてなかったんだな。


「そうだな~、ジュースとか?」

「よし、そうしよう!!」


 そう言って唐突に勝負が始まった。

 中学の時から小倉さんは何かにつけて良く晴斗と勝負をしていた。

 まぁ、大抵は晴斗が勝っていたのだが。

 そうして僕と奏を巻き込んだシュート勝負が幕を開けた。

 シュート、苦手なんだよなぁ~。

 苦手だからこそ、晴斗に全て任せていたのだ。

 

「気張ってけ~」


 晴斗にそう言われシュートを放つと、リングにあたりながらも何とか入った。


「じゃあ、次は私だね。 えい」


 そう言って片手で奏は投げると、ボールはゴールに吸い込まれるように綺麗な軌道を描き入っていった。

 内心よし!!っと思った自分の心を打ち砕くほど綺麗なシュートだった。

 奏は手を使うスポーツは訳の分からないくらいうまいのだ。


「いいぞ、かなちん!!」

「ほい、次は咲奈。 いいでしょ?」

「構わないよ、な、晴斗」

「あぁ、構わないぜ」


 奏は小倉さんにボールを渡し彼女は緊張しながらもなんとかゴールにいれる。


「しゃ~!! リード!!」


 そう言ってルンルンでボールを取りに行き晴斗に渡す。


「ほい」


 晴斗は直ぐに入れ、小倉さんは悔しそうにしている流石エース。

 そうして次の僕はゴールを外し、奏はあっさりと入れる。

 そうして繰り返し、主に僕と小倉さんのどちらがシュートを外すかが勝負の決め手となった。


「同点か」


 七対七、僕と小倉さんがそれぞれ三回外し、この結果となった。

 延長戦になりそうな時に先生が片付けの指示を出したので対決は同点終了となった。


「あのままだったら私達が勝ってたのに」

「い~や、俺だね!! ってかお前半分以上外してたじゃねぇか、よく言えたな」

「う、うるさい!! よし、じゃあ今度はこのコートどっちが多くモップかけれるか勝負だ」

「あ、お前汚ねぇぞ!!」


 なんだかんだ仲いいな、あいつら。

 そんなこんなで体育の授業は幕を閉じた。

 

  そうして放課後になり、僕は奏と共に帰路に着く。

 

「今日は楽しかったねぇ~」

「そうだな」


 なんだかんだ、運動というものは楽しい。

 シュートを決めなくてもそれなりに身体を動かすのはとても楽しいのだ。


「蓮人、活躍してたじゃん」

「そうか?」

「うん、パスカットしたり周りを見てパスしたり、運動センスいいと思うよ」

「それを言うなら奏だってシュートどんどん決めてたじゃないか」


 端から見ていたが、彼女は投げ方は適当ではあるが全て点が入っていた。

 彼女は両利きでもある為、右手と左手の両方でシュートが撃てるのだ。


「偶々だよぉ~」


 そんなこんなで話していると、自販機を見つけ彼女は駆けだす。

 

「そう言えば、賭けの件だけど」


 そう言って人差し指で飲みたいジュースを指差す。

 奢れという事だろう。


「引き分けだろ? 奢る義理は……」

「シュートいれた本数は私の方が上だよね?」

「そっちの賭けはしてないだろうが!!」

「いいじゃん奢ってよぉ~、今月お小遣いピンチなんだよぉ~」

「いつもじゃねえか」

「ちぇ、ケチ」

「ケチで結構」


 そう言うと、彼女は拗ねたように頬を膨らませていた。

 面倒くさい。


「今回だけな」

「やった、愛してるぅ~」

「現金な奴だな」


 そう言われながらも、彼女の笑顔でいる姿が嬉しい自分がいる。

 単純な奴だと我ながら呆れてしまう。


「ありがと」

「ん」


 そう言って彼女に奢らされるとそのまま家へと向かう。

  

「それじゃ、また明日」

「あぁ、また明日」


 そう言って彼女と別れ、僕も家に向かう。

 家に着き風呂に入り、着替えてベッドに横たわりスマホを見ていると19時から彼方ちゃんの至急求むというタイトルで枠を取っていた。

 何だろ、至急求むって。

 何か困りごとかな?

 そう思っているのは僕だけではないのか、待機コメント欄に不安のコメントが流れている。

 中には物騒な憶測も飛び交っている。


「なんだろ、至急求むって」

「何だろねぇ~、もしかしたら方向性の相談かもよ?」

「方向性?」

「ラジオもやりつつ、雑談枠みたいな色んな事をしたいんじゃないかな?」


 そういう事か。

 何か方向性という可能性を考えていなかった。


「そうだよなぁ~」

「そうだよ!!」


 そんな話をしていると、そろそろ配信時間になった。


「ごめんなさい」


 開口一番、彼方ちゃんは謝罪をした。

 

「書き方が悪かったです。 SNSで見て気づきました。 見直してみれば、皆心配する書き方でした」


 そう言うと、申し訳なさそうな声でもう一度「申し訳ありませんでした」と謝罪をした。

 コメントでは「よかった」など、安堵のコメントが多数流れていた。

 僕も言われずとも、そのコメントを送った一人である。

 何かあって配信がなくなれば、僕の癒しがなくなり廃人になってしまう。


「至急求むの言い方は金銭的なものじゃないです、活動方針の相談です」


 奏の言う通りだった。

 まぁ、お金の件だったら僕は今から単発のバイトをしてすぐにでも送るけど。

 

「私の活動でラジオ以外だと、何をしてほしいですか?」


 何をしてほしいか……おいコラ。

 一部のコメントで少しイラっとした。

 そこには「実写生配信」とか禁忌を書き込んだ奴がいたのだ。

 愚かな奴だ。

 

「皆、生配信が見たいの?」


 「いえ、そんなことは……」「別にいい」「無理しないで」「危ないよ!!」など様々な声が上がっていた。

 正直、生配信は伸びるのにはいいだろうが、顔を世界中に晒すため危険が伴うので僕は賛成できない。

 見たくないと言ったら嘘になるが、彼女の安全を考えたらしない方がいいのだ。

 

「長く続けたいならそれはやめた方がいいですよっか、分かった!!」

「では、今日もお便りを読んでいきたいと思います」


 そうしていつものお便りコーナーが始まった。


「彼方さんこんばんわ、またラジオ配信見れて感謝感激雨豪雨です。 彼方さんのチャンネルの目標とかってありますか? よければ教えてください」

「燃やしの干乾びさんお便りありがとう~、前のラジオからの古参さんだぁ~いつも応援ありがと~」

「そうだねぇ~、チャンネルの目標……う~ん…………特にないかなぁ~、皆と一緒にラジオ配信出来たら、それで私は満足かな」

「向上心足りないかな? そのままでいい? よかった~。 答えにならなくてごめんね」

「それじゃ次、ぶるぶるぶるうんさんから、凄い名前だな」

「かなたんこんばんわ、彼方ちゃんの最近の嬉しかった話を教えてください」

「嬉しかった話か~、何かあるかなぁ~。 あるとすればまた配信が続けられることが嬉しかったことだけど、これじゃ駄目だよね? え、いいの?」

「それじゃ、次行くね、踊る大修羅場線さん、今日は個性的なのが多いな~」

「初めまして叶彼方さん。

 私事なのですが、元カノと付き合っていた時に喧嘩してしまいました。

 私は仲直りして出来れば彼氏彼女に戻りたいのですが、どうすればよいでしょうか?」

 

 あ、晴斗だ。

 ってか踊る大修羅場線ってなんだよ、地味に面白いじゃねぇかクソ!!

 そんなことを思いながら、晴斗の相談について彼方ちゃんの回答が気になった。


 


 

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