第7話 初配信後と課題と授業

 何だろう、彼方ちゃんの配信が終わってからというもの頭がふわふわする。

 普通なら熱があるのだろうと思うだろうが、この感覚には覚えがあった。

 何度もある感覚だ。

 彼方ちゃんの配信が起こるたびにこれは起こる。

 恐らくだが、この感覚は彼方ちゃんの配信を聞いて幸せな時に起こる感覚だ。

 彼方ちゃんの配信を見たり聞いたりしただけで幸せなのだ。

 そうだ、奏にこの気持ちを共有しよう。

 そう言ってスマホを取り出す。


「今日も彼方ちゃん可愛かったな!!」

 

 メッセージを送り少しして、「電話してもいい?」と彼女から返信が返ってくる。

 きっと同じ気持ちを共有したいのだろう。

 文字にするより通話で言葉で感想を語り合いたいに違いない。

 奏でさえよければ僕は全然OKだ。

 返事を送ると、彼女の方から電話がかかってくる。


「彼方ちゃん可愛かったねぇ~」

「だよな!! めっちゃ可愛かった!! 初配信で緊張してアタフタしている姿とか特に栄養満点だったよな!!」

「……クスッ、栄養って……ドジして困ってる女の子で心の栄養とってるの?」

「そこがいいんだよ、完璧に見えてドジしちゃうギャップ、素晴らしいじゃないか」

「蓮人って時々ぶっ飛んでるよね」

「ぶっ飛ぶとか言うな、至って健全だ!!」


 そう、これは思春期男子にはよくあるはずだ。


「だって蓮人って時々理解できなもん」

「それはお前、彼方ちゃんの願人ねがいびととしてまだまだだな」


 彼方ちゃんのリスナーは願人という名前がある。

 願人は叶うという意味を込めて彼方ちゃんの公式リスナーをさす言葉だ。

 因みに蓮人はファンクラブ会員ナンバー13でもある。

 

「それは一部の変態の願人だけだと思うけど」 

「おい、言いすぎだろ」

「あはは」


 こいつは本当に僕に遠慮がないな。

 そんなこんなで彼女と話していると、時間は深夜2時を超えていた。


「2時になったし、そろそろ寝るね」

「あぁ、お休み」

「お休み~!!」


 奏ではそう言って通話を切った。 

 寝るか。

 そうして眠りにつこうとベットで横になるが、眼が冴えて眠れない。

 彼方ちゃんの配信前に寝たのが効いてる。

 全く眠たくない。

 ゲームでもするか。

 そう言ってソシャゲを開き通常クエストをしていると、宿題をしていない事に気づいた。

 

「リアルはちゃんとする事」


 彼方ちゃんの言葉が頭をよぎる。

 やるしかない。

 そう思っていると奏から「起きてる?」のメッセージが送られてくる。


「眠れん」

「私も~、ねぇもう少し話さない?」

「あぁ良いぞ」


 そう言って再び通話を繋ぐ。

 

「大丈夫? 無理してない?」


 奏に付き合ってると思われたのだろう。

 もうしわけなさそうな声で僕に問いかけてきた。


「大丈夫、本当に眠れなかったから」

「そっか」

「それより奏はどうして眠れないんだ?」

「う~ん、少し仮眠取っちゃったからかな? 蓮人は?」

「僕も彼方ちゃんの配信前に少し寝たから眠れない」

「同じか」

「同じだねぇ~、それより今日の課題はやった?」

「あ~」

「やってないんだね、駄目だよ彼方ちゃんとの約束破っちゃ」

「面目ない、そういう奏は終わってたり……」

「見せないからね」


 ですよねぇ~。

 声だけで呆れているのがわかる。

 

「眠れないなら、いまやりな~。 わからないとこは教えてあげるから」

「感謝!! 圧倒的感謝!!」

「対価はもらうからね~」


 そんなしょうもない話をしながら蓮人は机に向かい、課題に向かうのだった。

 そのまま朝になり、奏と待ち合わせをしシャワーを浴びて着替えを済ませると学校へ向かうのだった。


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「起きな~、昼だよぉ~」


 マジか。

 どうやら昼まで爆睡していたようだ。

 結局あの後寝ずに学行き、くそ暑い外から教室の涼しさに加え一限目の英語が眠りを誘ってきたのだ。

 抗えるはずもない。


「これ、ノートだよ。 貸し1だからね」

「……ありがと」

「ふぁ~、ねむい~」


 流石に彼女も眠いのか、口に手を当て気怠そうに欠伸をした。

 彼女も朝まで話していたので相当眠いだろう。

 それでも授業きちんと受けるんだから凄いなと思う。

 

「奏ちん、ご飯行こ~」


 小倉さんと晴斗がこっちに来てそう言った。 

 晴斗に聞いた話だが、遊びに行くくらいには仲が戻ったらしい。

 よりを戻すのも時間の問題と言っていたのでよかった。

 まぁ、三か月も時間が経って遅い気がするが、人それぞれのタイミングがあるのだろうから奏と共に見守ることにした。

 そうして皆で食堂へ向かうと、女子二人は席を取りに向かう。

 二人とも弁当なので、先に取りに行ってもらう事にした。

 

「俺、今度のデートで告白するわ」

「そうか、頑張れよ」


 やっとか。

 小倉さんの雰囲気を見るになんとなくだが成功しそうな気がする。

 

「成功したらなんか奢ってくれよ」

「おう、任せとけ」


 そんな話をしていると食事が出来、受け取ると二人のとっている席に向かい四人で楽しく食事を済ませるのだった。


 昼休みを終え、午後の授業が始まり昼寝をしたおかげか眠気が覚め授業を真面目に受けられていた。

 横を見ると、奏が眠そうにウトウトしていた。

 昼まで起きていたのに加え、ご飯を食べた事で眠いようだった。

 紙に「次の体育の時に起こしてやるから寝ときな」と書いて隙を見て隣の席の彼女に渡す。

 紙に気づいた彼女はそれを見て何かと疑う様なジトっとした目で見てくる。

 何かを企んでいると警戒しているようだ。

 以前に悪戯の為に小倉さんと共にやったのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「何を企んでるの?」

「企んでないよ」

「嘘だ~、咲奈と何か企んでるでしょ」

「企んでないってば、寝不足で次の体育倒れられでもしたら僕の罪悪感が酷いってだけ」


 正直次の体育は女子は体育館とはいえ、暑いので熱中症等になったら大変だ。

 

「じゃあ、私ともう少しこうして話してようよ」

「ばれたら不味いだろ」

「ばれないようにすれば大丈夫だよ」


 紙での交換会話とはいえ、流石にばれたら不味い。

 とはいえ教壇から席はかなり離れているのでバレる事はない。


「仕方ない」

「やった」

 

 そう言って彼女と会話を続けると、授業が終わりのチャイムが鳴り響いた。


「乗り切ったぁ~!!」


 彼女はそう言って背筋を伸ばしそう言うと、着替えが入っているであろう袋を手に取る。


「奏ちん、いこ~」


 小倉さんが奏に声を掛ける。

 

「それじゃ、行ってくる」 

「おう、寝不足で怪我すんなよ」

 

 そう言って彼女は小倉さんと共に教室を出て行く。

 着替えを終え外を見ると元々天気が悪かったのもあるのか、雨が降り出した。

 少しして教師から体育館でバスケをすると言われ体育館へ向かう。

 なんだか、男子の目の色が変わっている。

 女子がいるのでいい所を見せたいのだろう。

 なんてわかりやすいやつらだ。

 まぁ、横の晴斗もその一人なのだが。

 小倉さんと良い所を見せたいと見ていてわかるくらい気合が入っていた。

 僕はまぁ、ほどほどに怒られない程度に頑張ることにした。

 そうしてバスケが始まると、男共は血走るような目で必死にボールを追いかけていた。

 特にバスケ部はいい所見せれると思って初心者に対する遠慮なく点を取りに行っている。

 しかし、運が悪いのか晴斗が相手だ。

 いい所見せようにも今回は晴斗も気合が入っているせいか動きがいつにもましてきれている。


 あ、こっちにパスするな。

 

 晴斗の方と僕の方にいる生徒の間に入ると、ボールが飛んできたので受け取り走り出す。

 そのまま晴斗は既に走り出していたので渡す。

 持ち前の脚力を生かし、一気にゴールへ向かいシュートを決めた。

 いい感じに決めれた晴斗は同じくバスケをしている女子達、否小倉さんの方を見てニコリと笑いかける。

 その笑顔に女子達は盛り上がっているが、本命の小倉さんはというと晴斗が笑いかけるとプイッと顔を逸らした。

 晴斗は小倉さんに無視されたのがショックだったのだろう、その後の動きは見るに耐えないほど無惨なものだった。

 

「晴斗、しっかりしろ」


 声をかけるが、『もう駄目だ』と落ち込み具合が重症だった。

 やがて時間は進み、逆転まであと一歩と言うところまで追い詰められていた。

 ここにきて負けるのは流石の蓮人も嫌だった。

 圧倒的な差や相手のリードで負けるのなら仕方ない。

 だけど、大差から逆転されるのだけは彼の中で許せない。

 だが現実とは無情で逆転されてしまった。


「晴斗〜!! 何してんの〜!!」

 

 逆転された瞬間、小倉さんが大声で晴斗を呼んだ。


「あんたが唯一格好良く輝ける場なんだから、しっかりやれ!!」

 

 その言葉に先程まで無気力だった晴斗の雰囲気が変わる。

 単純な奴。

 

「唯一ってのは余計だ」


 そう言って彼は駆け巡る。

 先程まで好き勝手にやっていたバスケ部員が再び足止めを食う。

 ここを決められれば負け、残り一分だ。

 やる気になった晴斗をまた不利になったら大抵やることは決まってる。

 こっちにパスだよな。

  

「ナイス蓮人!!」


 そう言うと、晴人は一気に駆け出した。

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