第6話 仲直りの兆しと推しの初配信

「いえ~い!!」

 

 歌い終えると、彼女はと手をあげハイタッチする。

 歌っているうちに僕もテンションが上がってきた。

 やっぱり声を出したりするのはテンションが上がっていいものだ。

 そう思っていると、次の曲が流れる。

 次もデュエット曲だ。

 しかもこの歌……。


「はい、咲奈」


 そういう事か。

 彼女の思惑に乗るとする。

 

「ほれ、次はお前の番だ」


 晴斗にマイクを渡す。

 二人の思い出の曲だ。

 晴斗もよく言っていた。

 この曲は2人の初めて共通の好きな曲で二人きりで初めて歌った思い出深い曲だと。

 晴斗と小倉さんは戸惑っていたが、奏と僕がそれぞれの腕を引き無理矢理立たせる。

 初めはぎこちなかった二人だが、次第に緊張も解け普通に歌えるようになっていた。

 歌い終えると、二人は嬉しそうにほほ笑む。

 その姿はお似合いのカップルそのものだった。

 

「何だか、うまくいきそうだね」

「そうだな」


 なんだかんだ、二人は元通りになりそうな気がする。

 ちょっとしたすれ違いだ。

 仲直りすれば元通りになるだろう。

 仲直りしろよな。

 

 楽しそうに歌う二人を見ながら、僕はそう願った。


 カラオケ事件から数日後、待ちに待った彼方ちゃんの配信が数分後に迫っていた。

 楽しみで仕方がなかった。

 ウキウキとはこのことを言うのだろう。

 心がもの凄く高揚して時間が経つのが待ち遠しく感じる。

 そうして配信時間になり、OPMオープニングムービーが流れる。

 ショートカットに制服姿のミニキャラでとても可愛らしい感じだった。

 そうしてムービーが何度か流れると、ラジオを行っている彼方ちゃんのミニキャラがお便りを呼んでいる画像が現れた。

 Vtuberではないのかと落胆しているコメントも見受けられるが、そんなことはどうでもよかった。

 っというよりまた、配信が見れたという満足感、これに尽きた。


「どうも、叶彼方です!!」


 その声は紛れもない彼女だった。 

 瞬間コメント欄は阿鼻叫喚のように流れていく。

 同接を見ると3000人いた。

 エグイな。

 まぁ、彼方ちゃんは人気なのでこのくらい当然と言えば当然なのだが。


「え、3000人も見てるの!? 嬉しすぎ~!!」


 ……可愛い。

 今すぐスーパーチャットしたいくらいだ。

 収益化したら、即投げよう。

 

「さて、このチャンネルの方向性を初めての方にもわかるように説明していくよ!!」

「まずはこれを見てください!!」

 

 そう言うと、真ん中に何かが表示される。

 彼方ちゃんが考えたであろう配信5箇条と書かれていた。

 前の方針とはまた違った方針がいくつも見られた。

 

「まず初めましての方や以前のラジオ番組で視聴してくださった方の為に改めて叶彼方の配信心得五箇条についてご説明していこうと思います」

「あれ、どうやるんだ?」


 次に進もうとするが、慣れていないのか画面が次に切り替わらないみたいだ。

 何かできることないかな?


「ごめんね、ちょっと待ってね!!」

「もしもし!! この切り替え、どうすればいいですか!?」


 ミュートするのを忘れているので、丸聞こえである。

 コメントでは落ち着いて~っと優しいコメントにあふれている。

 流石古参勢は治安がいいというか、人として優しい人達が多い。 

 たまにバケモンみたいなコメントする人いるけど、まぁそれはそれで面白いからいいのだ。


「はい、はい、ここをこうして……出来ました!!」


 コメントでは「おめでとう」「よくできました!!」「よくできて偉い!!」などのコメントにあふれている。


「……え?」


 お、気が付いたか?


「ミュートにするの忘れた~!!」


 「お疲れ」「いいもん見れました」「栄養、いただきました」「焦ってる彼方ちゃん最高」「結婚してくれ」と焦る彼方ちゃんから栄養を取るバケモンコメントがあふれる。

 どの世界でも栄養ってあるんだな。

 僕も内心、焦る彼方ちゃんの栄養を取るバケモンの一人だった。


「……コホン、では気を取り直して配信七か条を読み上げていきますね」

 

 アタフタしていた彼女だったが、大きく息を吸い込むと咳払いをして進行を続ける。

 

「配信規約第一条、誹謗中傷をやめましょう。 これは私の配信内外問わず、皆の不快になるような発言は控えましょう」


 そんなことする奴がいたら、僕が否僕だけでなく彼女の配信の信者が黙ってはいないだろう。

 特にラジオネームガイネス、YというSNS名リオンのというリスナーは依然彼女に誹謗中傷した輩の住所や氏名、本名まで晒したことがあるのだ。

 正直、やりすぎの過激派だと思うだろうが、彼方ちゃんを傷つけるのは万死に値すると少なくとも僕は思う。

 だってそうだろ?

 人を特に推しを傷つけられて黙っているリスナーなどいない。

 

「第二条、ネットリテラシーを順守した質問をしましょう。 私の個人情報や私生活を探る投稿は場合によっては読まない場合があるので気をつけてね。 出来るだけ皆の質問には答えたいのでその辺、気をつけてくれると嬉しいかな」

「そして第三条、皆楽しく無理しない程度に私の配信を楽しむ事、これは以前も言った事だけど、この配信ではアーカイブが残るので、リアタイしたいからってリアルを疎かにしない事」


 これは彼方ちゃんのラジオ放送時から言っている事だ。

 やるべきことをやり、きっちり過ごしたうえで彼女の配信を楽しむ事、それが彼女のお願いである。


「第四条、ここからは少し配信向きになるね。」

「この配信は今は収益化してないけど、いずれ収益化する予定だから決めておいたよ」

「配信第四条、応援したいからって無理しない事、これは投げ銭という機能が収益化したらあるんだけど、それは無理しない程度にお願いします」 

「太く長く応援してもらいたいってのもあるからさ、皆と長く一緒に居たいからお願いね」

「そして第五条だけど、皆仲良く楽しくはっちゃけた配信にしよう!!」

「皆準備はいいか~!? あはは」


 そう言って彼女は楽しそうに笑った。

 彼女のこういう何に関しても全力で笑う声が凄く好きだ。

 元気になってくる。

 

「それじゃ、今日は最初だから雑談と行こうかな。 皆とお話ししたいし」


 そうして一時間ほど彼女は雑談をした頃。


「そろそろ一時間か、あっという間だったね」

「次回からはラジオ番組らしくお便りを読んでいきますので、次回もよろしくね」

「あ、高評価ってしてくれた? してくれたら私がとっても喜ぶから、お願い♡」


 男とは単純なもので、一気に高評価が増え散らかした。

 まぁ、僕も可愛らしい言い方でつられた愚かな男の一人なのだが。

 お願いの言い方、可愛すぎだろ。

 コメントは狂喜乱舞状態だった。

 そうして彼方ちゃんの初配信は狂喜乱舞の中、幕を閉じるのだった。

   

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???視点

 「それでは次回、お楽しみに!! 叶彼方でした」

 

 そう言って私は配信を切る。

 ふぅ……。

 今までのスタジオとは違う緊張感で少し疲労がする。

 スタジオでは番組のスタッフさんが進行のサポートがあったが、全てを管理するというのは中々にしんどい。


 これを毎週か、中々に骨が折れるな~。

 誰か手伝ってくれる人がいればなぁ~。

 そう思いスマホを開き、一人の男の子のメッセージを開く。

 彼なら、確実に手伝ってくれることは間違いないが……。

 いやいやいや、駄目駄目。

 私が彼方だと彼に知られるわけにはいかない。

 私だとわかれば、今の関係が壊れてしまうから。

 友達としての関係が壊れてしまいそうで怖いのだ。

 とはいえ、今後が心配だ。

 色々やらないといけない。

 お便りの選別や企画進行、やることは山ほどあるのだ。

 改めてスタッフのありがたさが身に染みてわかる。

 

「さて、頑張りますか」

 

 一応卒業まで一通り教えてもらったとはいえ、まだ手探り状態なのだ。

 

「う~んこれは……違うなぁ~」


 やればやるほどあれでもないこれでもないと一向に進まない。

 まだ時間があるし、今日は寝ようかな。

 そう言って布団に入り、スマホを見るとメッセージがあった。

 今日も彼方ちゃん可愛かったな!!

 その言葉で気分が高揚してニヤケてくる。

 嬉しいという感情が悩みのイライラを打ち消してくる。

 声、聴きたいな~。

 電話してもいい?とメッセージを送り、彼がOKのスタンプを押すと私は電話を掛けるのだった。


 

---------------------------------------------------------------------------------------------お久しぶりと初めまして

 ユウキ±です。 

 今回までの話はいかがでしたでしょうか?

 基本的に六話を分割投稿してそのあとまとめを投稿しているので、お楽しみにしてくださる方にはご迷惑おかけしてます。

 なるべく早く投稿しますので、お待ちいただけると幸いです。

 それでは次回、お楽しみいただけると嬉しいです。

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