第72話 アルバイト ⑤
本業の仕事をしながらのバイトは子供達が自立していくまで続けていました。
長男は進学しなかったのですが、次男が大学に行き、長女が専門学校に行くようになったら、それぞれ家を出てアパートや寮に入ったので、授業料や子供達の生活費など莫大なお金が必要になって、とてもお金が回らなくなりました。
次男はそんな家庭の事情を十分、分かっていて授業料のあまりかからない県立大学を受けて、もし受からなければ就職すると言っていました。
なので私も「分かった。もし合格したら大学の授業料はお母さんが何とかするから頑張って!」と。
すると、有難いことに県立大学に無事合格することが出来ました。
私は合格通知が来た時は、嬉しくって泣きながら部屋中を駆け回って喜びました。
その時次男が言ったのです。
「僕は就職してすぐに借金を返していくのは嫌なので奨学金は借りたくない。だから生活費は自分で何とかするからお母さん授業料だけは宜しくお願いします」と。
次男は高校の時からずっとバイトを続けて、車の免許も自分のバイト代で払い、車も自分のお金で買いました。
そして宣言通り、大学中もバイトを続けて、生活費は自分で何とかしてくれました。
だから私は殆んど次男に仕送りをしませんでした。というか出来なかったのです。
次男が大学三年生になった時、長女が専門学校に行くことになりました。
こうなるとダブルで授業料が要り、もちろん長女の時は奨学金を利用しましたが、とても生活費までは出すことが出来ず、教育ローンも借りました。
しかしながら、私は私で生活をしなければならず、お金が回らなくなりました。
その時は私はアパートで一人暮らしだったので、本業の仕事以外にも今度はスナックでも働くことに決めました。
地元のスナックでは知り合いに出会ったらなんとなくバツが悪いので、隣の市のスナックでバイトをすることにしました。
求人広告で募集していたスナックに連絡を入れ面接に行くと、ママはとても気さくな方で私の事情も察してくれて、「すぐにでも来て頂戴」と言って頂きました。
そしてその時ママが「うちの店で以前働いてくれてた女の子が『志乃ちゃん』と言って凄く人気があったのであなたの名前も『志乃ちゃん』でいいかしら?」と私のお店の名前も決めてくれました。
私はその時からお店では『志乃ちゃん』と呼ばれるようになりました。
バイト時間は夜八時から十二時までの四時間でした。
たまにお客様が多いと延長もありました。
時給も弾んで下さいました。ラッキー!
私は本業の仕事が終わると夕食を済ませて、ちょっと濃いめの化粧をして、身なりもちょっとお洒落にしてスナックに通いました。
車を運転して行っていたので、お店ではお酒は一切飲みませんでした。
客層はとても良くてママの馴染みのお客様が殆んどでした。
皆様が期待してるようなお触りもありませんよ。
健全なスナックです( ´艸`)
こんな私でも「志乃ちゃん」「志乃ちゃん」と言って来てくれるお客様も出来ました。
なんでも私、素人っぽくてそれがいいとか。
しかも聞き上手です。
ニコニコしながら聞くのは得意でした( ´艸`)
ママも凄く可愛がってくれて、私は今でも感謝しています。
五年位前に店も閉められて神戸に実家があるからと神戸に帰られたのですが、帰られる前に一度、お店を辞めて何十年振りかに会いました。
久しぶりのママはちっとも変ってなくて相変わらず私を「志乃ちゃん」と呼んで下さりバイトをしていた頃の話で盛り上がりました。
あの時のバイト料で私は何とかあの窮地を乗り越えることが出来ました。
今では懐かしいバイトのお話しでした。
バイト編のおまけもあります。
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