第10話 英会話教室 ② 修学旅行編 Ⅰ

 英会話教室に通い始めて2年位した時に、士郎先生が、英会話教室のメンバー2人と教育委員会の人と4人で、夏休みにプライベートでアメリカ旅行に行った話をされたので、「士郎先生、私もアメリカ旅行行きたかったです。今度行く時は誘って下さいね」と半分冗談半分本気で言ったら、他の人達も口々に、「行きたい」「行きたい」と言い出したので、「う~ん、そうですね、考えておきましょう」と言われました。

そうは言っても私はあまり本気に捉えていませんでした。

行きたい気持ちは嘘ではないけど、士郎先生と一緒に行けるとは思っていなかったからです。


 それから丸4年目を迎えたある日、士郎先生が、今年度が終了したら、アメリカに帰るお話をされました。

みんなから、(えぇ~!)という驚きと悲しみのどよめきが起きました。

私も、何よりも楽しみにしていた英会話教室だったので、(士郎先生のいない英会話教室なんて意味ないよ)と、がっかりしました。

 すると、士郎先生から、「僕が英語を教えて4年になるので、自分の英語力を本場のアメリカで試してみませんか?教育委員会と相談して、修学旅行を企画しました。参加者を募りますので、希望者は〇月〇日までに申し出て下さい」と言われたのです。

途端に、みんなの顔が輝きました。勿論、私は(やったぁ!)と心の中で叫びました。

憧れのアメリカに行けるチャンスが巡ってきた!

それまでに、グアムとハワイの海外旅行経験はあったけど、私の中ではアメリカは格別だと思っていました。

もう、心はアメリカです(*^▽^*)


 しかし、しかし、私には大問題がありました。

当時、私は長男(16歳)次男(14歳)長女(12歳)と4人暮らしでした。そう、シングルマザーだったのです。

子供達だけにして1週間近く家を空けるなんてできない……。

ここは泣く泣くあきらめるしかないか……(;´д`)トホホ

そこで私は、意を決して子供達を集め、家族会議を始めました。

実は私、シングルマザーになってから、朝から晩まで忙しく働きまわっていた為、子供達と過ごす時間が少なくなっていたので、毎週金曜日の夜、夕食が終わった後に家族会議を開いていたのです。

4人が集まって、飲み物とおやつも少し用意して、一人一人、言いたい事を包み隠さず話しましょうという時間を設けていたのです。

しっかり子供達の1週間の出来事や不満や悩みなどを聞いた後、私は話を切り出すことにしました。

それまで私が週1回の「英会話教室」の参加で、夜家を空ける事は子供達も了解してくれていました。

が、1週間近く家を空けると言えば、子供達はどんな反応を示すだろうかとドキドキでした。


「今度ね、お母さんが行ってる英会話教室の修学旅行があるのよ」

「修学旅行?」

子供達は一斉に怪訝な顔をしました。無理もありません。

「そう、お母さん達が習った英会話を本場のアメリカに行って、実際に英語が通じるか試しに行くのよ」と得意げに言ってみました。

「えぇっ!母さん英語全然話せないじゃん」えっ!そこ~?まぁ、確かにあってるけど。

気を取り直して

「士郎先生が9月にアメリカに帰っちゃうのよ。だから、先生と一緒に修学旅行に行こうってなってね、お母さん、行ってみたいなぁって思ってるわけよ」私は恐る恐る子供達の顔を伺いながら言ってみました。

士郎先生は、子供達が通っている、小学校、中学校、高等学校にも英語を時々教えに行っているし、教育委員会主催の交際交流会にも子供達と何度か参加していて顔なじみになっていました。

「母さんが行きたければ行けばぁ」と長男と次男。おぉ~、ありがたや。てか、私がいない方がいいとか?

長女は「お母さんだけ良いな」というので、

「桃(長女の名、仮名)も修学旅行、行くでしょ?」


 色々話しあった結果、最終的には、子供達は了解してくれました。やったぁ!

しかし、子供達だけにして家を空ける訳にはいきません。

そこで、同じ町内に住んでいる両親に、両親の家から学校に通わせてもらうように、お願いに行きました。

両親も何とか了承してくれました。

ただ、長男、次男は学校給食がないので、お弁当が要ります。

長男は「やったぁ!コンビニで好きなものが買える!」と喜びました。

ところが次男は、「手作り弁当じゃないと嫌だ!」と言います。あじゃぁ~、そう来たか!

そこは、母に頼んでお弁当を作ってもらう事にしました。ありがとう!お母さん!

それで次男も納得してくれました。

あぁ~、子育て中の母親が長期間、家を空けるのは大変な事だな。しかし、私の願いを叶えてくれました。

この時ばかりは、両親、子供達に感謝しました。

そうそう、会社にも無理を言ってお休みを頂きました。社長さん、ありがとうございます。

それから、会社で積み立てていた財形貯蓄を一部降ろして、今回の旅行費用に充てました。


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