二つ目 ブラインド

 ぽたり、ぽたりと水が落ちる。


 雨が止んだ夕焼けに、屋根の縁から落ちる水が音を立てた。


 それを眺めていたのは幼子。表からは、太くむっちりとした手が、ブラインドからひょっこり覗く様が見えたことだろう。


 だが皆、ギョッとしたように青い顔をして早足に、その家の前を通り過ぎていくのだった。


 短い足をふりふりと楽しそうにしながら、幼子は外の景色に張り付いていた。


 表を歩く足音だけが響き、雨の名残に吸収されるようにして消えていく。静かな商店街では皆無表情ながら少しの幸福を滲ませていた。


「……え?」

 怯えた声が和やかな空間を切り裂く。

 途端に幼子の顔がパッと明るくなった。


「お兄ちゃん! 遊ぼ! こっち来て!」

 叫ぶと、お兄ちゃんと呼ばれた少年が顔を背ける。

 キョロキョロと逃げ道を探すように他の人を見るが、皆が皆、視線を逸らした。


 お兄ちゃん! ともう一度呼ぶ声が聞こえて、少年は諦めたように項垂れたまま幼子の方に身体だけ向けた。


「私の名前、ヤクタって言うの! お兄ちゃんは?」

「……みのる」

 みのるかぁ、と嬉しそうに足をバタつかせて顔を赤らめる幼子と対照的に、少年はどんどん青く染まっていった。


「それ、痛くないの?」


「それって?」

 首を傾げる幼子に、少年はそっと眉を下げる。


「またね」

「えっ? 待って!!!」

 必死の形相で呼び止める幼子を振り返りもせず、みのるは日常を駆け抜けて行った。



「あの家、女の子とご両親はどこ行っちゃったのかしらね?」

「どうやら警察が向かった時にはもう居なかったみたいなのよ」


 抑えきれぬ好奇心に目を鈍く輝かせながら、噂は駆け回っていく。


「あの家に行った警察官が何人かいなくなったらしいぞ。横澤さんが町会で話してた」


 どんどん巡る。


「ご両親は人付き合いよかったのに」


 そして、みんなが行き着く先には


「あれ? でも……」


 あの人たちが何か買っていたところ、見たことがない。

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