ここにいるよ

碧海雨優(あおみふらう)

一つ目 橋

 ひらりひらりと、新聞紙が風に流されていくのが見えた。

 横目に眺めつつ、ただそこに立つ。


 どうしても飲み込めない心を抱えたままに、たまにはそこから飛んでみる。


 何度も、何度も、ただそれだけを。




「誰かー! いますかー!?」

 新聞を震わせる大音量が聞こえ、そちらに目だけ移す。


「誰かー!」

 夏とはいえ夜冷えのする橋の上に似つかわしくない、Tシャツ姿の若者が首を動かしていた。


 少し体を震わせながら、それでも何かを証明しようとばかりにレンズを構える姿に、興味を惹かれる。


 周りの人達は動かない。


 それゆえ何となしに躊躇い、それ自体に馬鹿馬鹿しくなって声をかける。


「なにがのぞみ?」


「うわっ!?」

 文字通り飛び上がる若者に、目を細めた。


 すごい速さで鳴っているであろう鼓動を待ち、もう一度、声をかける。


「どうしたの?」


 今度は答えてくれた。


「話が聞きたくて!」

 勢い付きすぎて息を切らす若者に、キョロりと目が向けられる。


 それはどんどん増えていく。


 面倒だな、と思った拍子に、若者の表情が消えた。


 ゆっくりと周りを見回し、橋の下を覗き込む。


「あぁ……」

 喘鳴を漏らし、若者は橋に手をかける。


 そして



 思わず瞑った目を開けさせたのは、喧しいサイレンだった。

 橋の下で見つけて、と泣きじゃくっているのは、Tシャツの彼。


 私は、ここにいるよ、と言いたくてたまらなくなった。

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