第20話
俺達が【ダンジョン】を攻略してから数日後。
【タウラスと牡牛】に報酬金が振り込まれると、ウキウキで臥牛さんと織納さんが銀行へと向かった日のことだった。
二人がギルドから出て直ぐに、「カラン」と喫茶店のような鈴の音が響いた。
忘れ物かと、掃除をしていた俺と生形さんが入口を見る。
そこに立っていたのは――、
「クジさん!?」
【ダンジョン】で別れてから、一度も姿を見せなかったクジさんだった。全身に包帯を巻き、両脇には松葉杖が抱えられていた。
「クジさん。大丈夫ですか!?」
俺と生形さんはクジさんに駆け寄る。【ダンジョン】で怪我はしていなかったのに、一体何が起こったのか?
俺達の心配を余所に、クジさんは松葉杖を手放し倒れるように膝を付いた。
「……俺がしっかり説明をしなかった所為で、お前達を危険な目に合わせて悪かった。反省はしている!」
どうやら、【ダンジョン】で危険な目に合わせたことを詫びているようだった。
「ちょっと、クジさん。顔を上げてください。別に気にしてませんから!」
そのことは本当に気にしていない。
なんだったら、傷だらけの身体で土下座を試みるクジさんの方が気になってしまう。生形さんと二人掛かりで何とか起き上がらせて、椅子に座らせた。
「一体、何があったんですか?」
「なに……大したことはないさ。三日連続で【凶】を引き当ててな。ここに帰ってくるまでにだいぶ時間を要したぞ。だから、【凶】の時は外に出たくないんだ」
「……」
運の悪さが連鎖してここまで辿り着くのに時間が掛ったらしい。
ある時は交通事故に巻き込まれ。
ある時は市街地に現れたモンスターに襲われ。
そんな生活をずっと続けていたようだ。
ある意味、密度の高い時間を過ごしたみたいだ……。
「ようやく、【吉】が出て――帰ってこれたんだ」
「……」
なんだろうな。
俺は自分の【
【ダンジョン】に入らずこんな大怪我とは……。
椅子に腰かけたまま、クジさんは再び大きく頭を下げた。
「兎に角。お前には何か詫びをせねば気が住まい。俺に出来ることなら何でも言ってくれ。どんな辱めも受ける覚悟だ。服を脱いでギルドの周りを逆立ちで三周しろでも、なんでも言ってくれ!」
「昨今、中々聞かない罰ゲームですね」
昔は漫画やアニメで良く聞いた気がするけどな。
全裸で校庭を逆立ちするとか。
まあ、そもそも、そんなことされても、何の得もないので望みはしないけど。
「……」
かと言って、ここまで頭を下げてくれているのを断るのはな……。
同じギルドの先輩にずっと気を使わせるのもマズいきがするな。
俺の望みか……。
何個か候補を絞り出し、実現可能な案をクジさんに提案した。
「あの、ギルド、【騎士の誇り】に行ってみたいんですけど、知り合いとかいますかね? 一人で行くのはちょっと心細くて……」
【騎士の誇り】は、国と連携する最大手のギルド。俺みたいな新人がひょこっと顔を出せるような雰囲気ではない。
クジさんの知り合いなら、人を纏める立場だろうし丁度いい。
「残念だが、俺にギルドの知り合いはいないな。ギャンブル仲間なら沢山紹介出来るんだが」
「……」
だが、そもそも【吉】以上が出ないと外出しないクジさんに知り合いはいなかった。
ギャンブル仲間は聞かなかったことにする。
「……それで、なんで【騎士の誇り】に行きたいんだ?」
沈黙する俺に、クジさんもギャンブル仲間は言わなかったことにしたらしい。
何食わぬ顔で質問してきた。伊達に【凶】で不運を味わっているわけではないのか、メンタルが強かった。
そんな先輩の問いに答えたのは、生形さんだった。
「沼沢くん……だよね?」
「うん」
【騎士の誇り】に、俺達学年の最後の生き残り――
彼には学園で散々な目に遭わされているので、良い感情は抱いてないけど、あのまま分かれたんじゃ心残りだ。
「なるほど……そう言うことか。それならば、打って付けの人間が【タウラスと牡牛】には所属してるぞ? 友好関係が広くてな。他のギルドにも友人が何人もいたはずだ」
「本当ですか!?」
「ああ。折角だ。俺がそいつを紹介してやろう」
「ありがとうございます!!」
俺はクジさんに対して勢いよく頭を下げる。【騎士の誇り】にいけるかも知れないことも勿論嬉しいが、何より――このギルドのメンバーに会えることが嬉しかった。
殆んど顔出さないし、臥牛さんたちは、「いざとなれば集まるから気にするな」の一点張りだ。
リーダーがそんな考えだからだろう。
俺達が【タウラスと牡牛】に何人メンバーが所属しているかも曖昧だった。
これをチャンスと睨んだのか、生形さんが聞いた。
「そう言えば、【タウラスと牡牛】って何人所属してるんですか? サイトみても何処にも乗ってないんですけど?」
ネット環境が発展した現代。
ギルドの詳細は検索すれば分かることが殆んどだ。最近では、メンバーを大体的に押し出し、アイドルのように活動しているギルドも少なくはない。
そんな時代にも関わらず、【タウラスと牡牛】は名前以外は検索しても出てこないギルドだった。
「あー。ウチはそう言うのやってないんだ。というか、出来る奴がいない。外注するほど金もないしな」
その理由は単純に機械に詳しい人間とお金がないからという、切実な理由だった。
「なるほど! それなら、今度、私が作ります!」
それを聞いた生形さんが勢いよく手を上げた。全てにおいて優秀な生形さんはデジダル作業も得意らしい。彼女の脳内がどうなっているか、一度見てみたい。
「本当か? それは助かると思うんだが、一応、臥牛と織納には話を通してくれな」
「はい!」
「……で、えっと【タウラスと牡牛】の人数だったよな。現在、所属してるのは、お前達を含めて八人だ」
「は、八人……」
その人数は俺が思っているよりも明らかに少なかった。だって、普通のギルドは少なくとも数十人で構成されているのに……。
あまりの人数に動揺を顔に出してしまった俺に、
「少ないと思ったら? 俺も思ってる」
クジさんも深く頷いた。
しかし、頷いた首が元の位置に戻るよりも早くクジさんは笑う。
「ま、でも【タウラスと牡牛】は最強だと俺は思うぜ? 今回はそんなメンバーの一人――
こんにゃく野郎は全てのダンジョンを攻略するようです~不遇と馬鹿にされた蒟蒻の能力は、実は変幻自在な『構築』の能力だったみたいです @yayuS
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