第三章『魔導学園へ』

第18話『日本屋敷とメイドさん』

「見えてきました、彼処あそこに見えるのが拙者の──シノノメ家の屋敷ですね」

 魔力生成所マナプラントでの出来事から数週間後、王都『テライトアイ』へと辿り着いたアーサー達はその足で王都領内にあるアヤメの生家である大きな日本屋敷様式の建築物──シノノメ邸へと向かって行った。

「アヤメのお母さんって料理上手いんだろ? やっとアルファのめしから解放されるぜ」

 アーサーのそんな愚痴にアルファは不満気味に反論する。

「俺しか料理が出来るやつがいないんだから文句言うな。別に不味くはないだろ?」

「不味くはねぇけどよ……何日も何日も同じ味付けじゃ飽きるんだよ!」

「カレーは毎日食べても飽きないが?」

「あの変わった味、“かれー”って言うんだ」

「拙者は結構好きでしたよ、あの味。お腹の下辺りに沁みるような」

 そんな他愛のない会話を交えつつ四人はシノノメ邸の大きな門扉の前へと辿り着いた。

 そこでは飾り気のまったくない古典的なメイド服を着た少女が門前の掃除をしている。

「いや、古式ゆかしい日本屋敷にメイド服って……」

 そんな様子を見たアルファの何の気なしのつぶやきを聞き、少女は身なりを非難されたと慌てふためくが、アヤメが横から庇うように言葉を挟む。

「おや、異国では“めいど服”なる呼び方をするのですか? この国では一般的な使用人の恰好なのですが」

「ん、あぁ、そうだよな、基準で言えばそっちが普通だよな。アヤメさんの恰好や、この屋敷の方がどちらかと言えば変な方か」

「──いくら事実でも“変”扱いは傷つきますよ? これでも先祖代々継いできた伝統ある物です」

 怒気はないが“圧”を発するアヤメの言葉に軽く謝罪するアルファだった。

「あ、あの、ところでアヤメ様、そちらのお三方さんかたは一体どちら様なのですか……?」

 そんな二人の様子が落ち着くと見るとメイド服の少女は見知らぬ一行に対して気持ち距離を置きつつ怖ず怖ずとアヤメに質問をした。

「あぁ、紹介が遅れましたね。こちらゆえあって拙者に協力してくださる──」

「アルファ」

「アーサーだ!よろしくな」

「……イヴ」

 アヤメの紹介を受け三者三様の名乗りを上げる。

「そして、この子が──」

「ひゃい! ヴァ、ヴァッサと言います! 訳あってシノノメ家の使用人をさせて頂いています!」

「と、まぁ、少しそそっかしいですが、仕事を真面目にこなす良い子なんですよ。──いや、使用人と言っても、まともな給金を出せていないので食客みたいなものですけどね……」

「そっ、そんなことありません!孤児で行くあての無かった私に寝る所や食事を与えてくださるどころか働き口の面倒までみてもらっているのに更にお賃金だなんて──」

 情けない有り様と言わんばかりのアヤメの言葉にメイドの少女──ヴァッサは食い気味に言葉を返した。

 そんなやり取りを横目にアルファは率直な感想を漏らす。

「ふーん。アヤメさん、やっぱり他にも孤児を引き取ってるんだな。『武士は食わねど高楊枝』とは言うが、お前さんが無理をした所でどうにかなる問題でも無いだろうに」

「確かに魔導士殿が言うように拙者一人がどうこう出来る問題ではありませんが、それでも拙者一人がどうにか出来る事──責務は果たしたいと思います。それに、楽ではありませんが母上や拙者は勿論、ヴァッサやアーサー殿とイヴ殿を食べさせられるぐらいには稼いでいますので」

「……あれ、俺の分は?」

「魔導士殿は大人なのですから自分で働いて適度に食い扶持を稼いでください」

「えぇ……。まぁ、別に働かなくてもきんの一つや二つ、顕現ロードさせれば事足りるんだが」

 言うが早いか、アルファは杖の中から金の塊一つを雑に出す。

 その様子を見たヴァッサは見たことはおろか想像したことも無い大きさの金と、それを何の気なしに石ころを取り出すかのようなアルファの仕草にとんでもない地位の人間であると勘違いし、目を回して倒れてしまう。

「ヴァッサ!? ──魔導士殿、今のは見なかったことにするので、きちんと働いてくださいね」

「はいはい」

 そして倒れたヴァッサをアヤメは軽く介抱すると、ヴァッサに屋敷内の案内を頼んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る