第17話『マナプラント』
名付けで思い悩むそんなアーサーを横目に女の子は
「ねぇ、この中に“くべられた”子達は助からないの?」
「“くべられた”? あぁ、
「そんなことどうでもいい。それより、どうなの?」
アルファの
「まぁ、可能性の有る無しで言えば可能だ」
淡々と答えるアルファの言葉に女の子は一喜一憂する訳でもなく、静かに言葉の続きを待つ。
「やっぱり落ち着きあるな──まぁ、この国も大分荒れてるみたいだから子供も普通じゃ居られない、か──ともかく可能ではあるが相当困難な可能性だ」
「できない理由でもあるの?」
「そうだな、まず
「それだと普通に死んじゃうと思うんだけど」
「肉体は所詮、
唐突な言葉に疑問符を浮かべる女の子だったが、アルファは気にせず言葉を続ける。
「この機能が働くのはあくまで物質──つまり人の肉体までで、人の精神あるいは意識情報までは
「じゃあ、体を用意できれば復活できるの?」
「──そこに思い至るとは中々見込みあるな。だが、
「そうなんだ」
アルファから提示された回答に、至って平静なまま女の子は言葉を返す。そして、また一つ質問をする。
「……それでも、精神が残り続けたらどうなるの?」
「なんだ、随分食い下がるな。誰か大事な──友達でも居るのか?」
アルファの疑問には答えず、女の子は無言で質問の回答を求めてた。
「まぁ、子供であっても精神の強度が高ければ、ある程度の時間は自我を保てるだろうが、明確な“個”の情報を保有し連続性を担保出来る肉体が無い以上、遅かれ早かれ意識は拡散し霧散するか、あるいは──」
「あるいは?」
「まったく違う“なにか”として変容するか、だ──とりあえず
アルファはそう言い切ると
「“なにか”って……人間じゃなくなるってこと……?」
それは誰に向かって放たれた言葉でなく女の子の独り言のようなものであったが、アルファはそれを質問として受け取り言葉を返す。
「何をして“人間”と定義づけるかだな。生物学的な厳密さを求めるか、形而上学的な曖昧さを求めるか、どちらが正しいのか──少なくとも俺に明確な
そう締めくくるアルファに女の子はそれ以上を求める事はしなかった。
「ま、何千年経とうとも人間は悩み続けるしかないって事だ。昔の人も『我思う、故に我あり』って言ってたらしいからな」
「そんな簡単な事で良いの?」
「そんな簡単な事で良いんだろう、人間なんて」
そんな二人の言葉を打ち消さんばかりに、突然にアーサーの大きな声が響く。
「急に大声を上げるな──で、なんだって?」
「イヴだよ!イヴ! その子の名前!」
素晴らしい閃きだと言わんばかりのアーサーの調子にやや気圧されるアルファだったが、気を取り直して言葉を返す。
「イヴ、イヴねぇ……お前、意味が分かっているのか?」
「え……、『楽しい事のある日の前の夜のお祝い』って意味があるのを、昔、エレインが言ってたのを思い出したんだけど……え?ち、違うのか?」
「あぁ、そっち、そっちの方か。いや、悪かったな変に聞き返して。俺が思い浮かべた方も別に悪い意味じゃないから安心して良いぞ」
「なんだよ、気になるじゃねぇか」
「俺がわざわざ教えるような事でもない。それに大事なのはその子が気に入るかどうかだろ」
「気に入った」
「即決」
悩む様子もない女の子──イヴに呆気にとられるアルファだった。
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