第14話『契約者』

『難儀しタ。覇業器われらの使うナノマシンとここまでバージョンが違っていたのカ。それとも童子わらべ──契約者が特別なのカ? ザガンには情報が足りなイ』

 微妙に抑揚が違う、声のようなものがまた響く。

『なんだ……ザガン……なのか?』

『おォ、契約者ヨ、ザガンが脳の力を補助してるとはいエ、表層意識が落ちてる中でも我と会話できるとハ。根性があるというやつカ?』

『なんか……思ってたやつと違うな、お前』

『そうであるカ? そうであるかも知れン。ザガンは目覚めて間もなイ。自己を規定する何かが無イ。故に人の子が思い描くそれとは違うかも知れン。謝る。フカブカ』

『いや、謝る必要はねぇけど……え、なにこの状況、夢でも見てんのか?』

 余りにも素っ頓狂な状態に現実感を失うアーサーだったが、ザガンが補足しつつ話を続ける。

『その例えは近イ。だが正確ではなイ。意識の伝達はゼロ距離ゆえに高速で行えるが物理時間は有限であル。ゆえに簡潔に問ウ。ザガンを使うカ?契約者』


『──使う……って、お前の力を使えるのか!?』

『汝が契約者であるが故に当然であル』

『じゃあ、今までなんで……?』

同調チャンネルするのに時間が掛ったのもあるガ、それ以上に我は汝のことを知りたかっタ。ザガンを使う事で汝の本質が変容することを恐れタ。故にザガンは出来うる限り深層意識化にて記憶を辿たどり汝の事を知ろうとしタ。しかし状況が変わっタ』

『どういうことだ?』

『汝は変わろうとしタ。ザガンとは関係なク。自らの意思デ。我はそれを好ましく思ウ。故に今こうして此処ここに居ル。──居られル? ともあれ変わらんとするならザガンの力を差しだそウ』

 言葉の抑揚は可笑しなままだったが、その“色”はとても穏やかだった。

『再度問おう契約者。ザガンの力を使うカ? 使うのであれば“何”の為に使ウ?』

『“何”のためって──もちろんみんなのために──』

『それは“結果”の話であろウ。我が求めるは──うム、どう言えば良いカ──うーム? ……そう、そうだ。“理由”ダ。因果の始点となる“望み”ダ。我は“それ”が知りたイ』

『みんなが平和に幸せに暮らせるようになる──じゃあダメなのかよ』

『駄目ではなイ。それが契約者の“理由”であり“望み”であるなら、我はそれに従おウ。“それ”が人にとって善きモノにせよ悪しきモノにせよ、“それ”はザガンが力を差し出すに妨げる要因とはなりえなイ。ただ──』

『ただ?』

『ただ我は汝の事が知りたいだけなのダ。汝の言葉で教えて欲しいだけなのダ。汝をたらしめ規定する“何か”を。故にもし“それ”が嘘や欺瞞であると我は悲しい。そう、とても悲しい──』

 その言葉はアーサーを疑う訳ではない、ザガンの純粋な吐露であった。

 それを受け、アーサーは綺麗事で包み隠していた本心を強く意識する。それは表層意識でない真黒まくろな世界だからこそ余計な理性いいわけが働かず、無防備な心と向き合わざるを得ない為だったが、それ以上にザガンの不思議な真っ直ぐさがある言葉がアーサーに真摯に答えなければいけないという気持ちを引き出させた。


『…………きっと──きっと、オレは“特別”になりたかっただけなんだ。「オレはこの世界に必要なんだ」って、みんなに──誰かに認めて欲しかっただけなんだ』

 言葉にすれば至極単純なものだった。

 一度認めてしまえば、何も成していない空虚な、何者でも無い自分が現われる。

『ははっ、なんかすげぇ……凄くつまんない理由だな。アルファが言う「一つの国を滅ぼす力」を使う理由になんかなりはしない。そんなの、きっとそんなオレなんかが力を使っちゃいけないんだ』

『そうカ? 我は嬉しイ。汝の一片──一篇?──を知れるのは、とても嬉しイ。それに我は言った、“それ”が何であろうと我は力を差し出す、ト』

『え?』

『それに、特別でありたいという願いであれば叶っていル。

汝は既に我にとっての特別なのだから──契約者アーサー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る