第8話『最初の夢』
一方その頃、アーサーは深い眠りの中で夢を見ていた。
かつて見た、初めての夢。
「どうしたの?」
泣きじゃくる少年に少女が尋ねる。
「みんな、ぼくのことゴミだって言うんだ。なんのやくにも立たないゴミクズ。だからおかあさんやおとうさんにすてられたんだって」
泣き声混じりで話す少年の隣に少女が座る。
「五番房の子達ね、まったく弱い者いじめばかりして」
呆れた表情で少女は呟く。それも気を取り直して隣の少年へと語りかける。
「でもね、あの子達もあんまり恨まないでね。ここの子達はみんな親が居なくて寂しいの。だから、つい、こういうことをしちゃうのよ」
赤子をあやすような口調の少女は、隣の少年だけでなく、同じ孤児院の子供達全てに語りかけてるようだった。
「でも、ぼく、本当になんにもできなくて……やっぱりゴミだからすてられたんだ」
尚も卑下する少年を少女は優しく抱きしめる。
「そんなことないわ。どんな命だって意味があって生まれてくるの。君がここに居るのだって、きっとなにか特別な理由があるのよ」
「ほんと?」
「本当よ。子供を好きで捨てる親なんて居るはず無いもの。読んだ本にもそう沢山書いてあったわ」
その言葉に合わせて少女の手に力が僅かに入る。それは自分に対しても向けた言葉だった。そして、そんな彼女の震える手に応えるかのように少年の心に僅かばかりの火が灯る。闇夜に灯るかのようなか細い
少年は始めて誰かの為に何かをしてあげられればと
「ぼくにもなにかできるのかな?」
「きっと出来るわ、なんだって出来るわ」
少し声色が明るくなる少年を更に少女が励ます。
「ねぇ、あなたの名前、なんていうの?」
「わからない。“これ”とか“それ”とか、名前でなんてよばれたことないから」
「それは良くないわ──じゃあ、私が名前を付けてもいいかしら?」
とても素晴らしいことを思いついたと言わんばかりに明るく少女は言う。そんな彼女の言葉に少年は黙ってうなずく。
「そうね……それじゃあ私の一番好きな小説の主人公の名前なんてどうかしら? どこにでも居る普通の子供が色んな冒険をして勇者と呼ばれるようになって、一つの国の王様になって皆を幸せにする物語なの」
「そんなの……ぼくなんかにはもったいないよ」
「そんなことない。そんなことないわ。あなたなら──アーサーならきっと強い人になれるわ」
(忘れた事なんてなかったけど……随分昔の夢を見たな……。あの時から“オレ”は始まったんだ。でも、なんで急に夢になんて──)
おぼろな意識のまま思案するアーサーの脳裏に得も言われぬ影がチラ付く。
(ザガン……なのか? お前が夢を見せた?いや、見てるのか?)
直感的にその存在と意図を察し、問いかけようとするも影は何も語らず霧散する。
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