第7話『真夜中の闖入者』
「では、明朝にここで」
なし崩し的に明日もアヤメと共に行動し調査することになったアーサーとアルファは、宿の正面口で待ち合わせることになった。
「おや、アーサー少年と魔導士殿は同じ部屋ではないのですか?」
そんなアヤメの疑問に「なんでコイツと一緒の部屋で寝なきゃいけなんだ」とアーサーとアルファは口を揃えて答える。
「いえ、てっきり身内か何かかと思い込んでいたので。まぁ、事情も人それぞれ、あえて何故かは聞きません。えぇ、あえて」
興味あるそぶりを隠そうともしなかったが、言葉通りそれ以上何も聞かずにアヤメは自分の宿泊室へと向かっていった。
「身内……身内ねぇ……、ま、似たようなものか」
「ザガンってやつがオレの中に居るからか?」
「そうだな、厳密には違うんだが、そこの違いに特に意味はないからな──それよりだ」
「な、なんだよ」
急に詰め寄るアルファにたじろぐアーサー。
「そのザガンとは、まだ対話できてないのか?」
ザガンをその身に宿すアーサーの単純な力は、その辺の子供はおろか並の大人をも凌ぐほど増強されていたが、意思ある覇業器の真なる力を引き出すには“その意思”と対話し
「いい加減、正式に
「夜眠れるなら十分じゃねぇか……」
「まぁ、俺が
「そんなに掛かるのかよ!?」
「さぁ? 明日には意識が接触してくるかも知れないし、死ぬまで
「それが出来るなら苦労はしねぇよ……」
「昔の人は『苦労は買ってでもしろ』って言ってたらしいぞ」
「買ってでもしたくねぇよ」
そんなとりとめもない会話で締めて二人はそれぞれの宿泊室へと入っていった。
「もしかして、適合率が低いから対話できないのか?」
ふと思いついた理由をアルファは口にするが「まぁ、それこそ俺がどうこうできる話じゃないか」と、そのまま宿泊室へと入っていった。
誰もが寝静まり鳥と虫の音だけが響く真夜中。アヤメの宿泊室に忍び込もうとする男がいた。
身なりはそれなりで強盗や野党といった
「領主様から貰った薬と酒で寝入ってる筈だ。近衛騎士だかなんだか知らねぇが、ここで始末すれば……」
よからぬ事を口走り、ある種の自己暗示を掛けている男は慎重に扉を開け、息と足音を殺し、寝床へ忍び寄り、手にした短刀をアヤメに突き立てようとする。
「ふむ、やはりあのお酒には混ぜ物がしてあったのですね」
聞くが早いか、アヤメは既に男の背に周り腕の関節を決める。
「料理の質に対して、妙に味が落ちてると思ってたんですよね」
「な、なんで平気なツラしてるんだ!?」
「まぁ、役職柄毒味役もこなすこともあるので、ある程度の薬物には耐性があるんですよ。あと解毒剤も飲みましたし」
なんのことはないとアヤメは男に説明する。
「じゃあ少し痛みますが我慢してくださいね」
と、そのまま腕を捻り上げられ男は短い
「おっと、気絶してしまいましたか。根性が足りませんね」
さして気に留めるでもなく男の拘束準備へと掛かるアヤメの耳に戸を叩く音が聞こえた。
「入って大丈夫か?」
と、開かれた扉の横からアルファが尋ねる。
「まぁ、扉は既に
「一応、礼儀だしな」
「ふむ、中々の心掛け。ですが婦女子の寝室に立ち入るのは感心しません」
「そうは言ってもな、アーサーが
アルファの指摘にアヤメはばつが悪そうに答える。
「いやぁ、この程度で気絶するとは思いもしなかったもので──それよりも、アーサー少年が
と、アヤメは
「そんな慌てたところで見つかるものでも無いだろう」
「いえ!少年を巻き込んでしまったのは拙者の落ち度、今から追えば誘拐者も見つかるはずです!」
そんな言葉の勢いと共にアヤメは飛び出そうとするが、アルファの手は振り解けなかった。
「だから待てってば。アーサーの居場所なら大体判るから慌てる必要は無い。身の安全も──まぁ、最悪ザガンがなんとかするだろう」
とアルファは言うものの、ザガン──覇業器とその契約者の基本的な関係として片方が滅すれば一方も同じく滅するというような一蓮托生というものではなく、どちらかが滅しようが契約が破棄されるだけの非常に割り切ったものであり、どこまで契約者の身の安全を覇業器──ザガンが守るかは未知数だった。
「それよりも、アーサーがどこに連れて行かれるか判った方が色々手っ取り早い」
と、冷静な言葉でアルファは〆る。
「思ってたよりも魔導士殿は冷たいのですね。拙者の見立てでは、もっとこう……いい人だと思っていたのですが」
「俺が? 善人にでも見えたのか?」
アヤメの判断を鼻で笑うアルファだったが、アヤメは特に気分を害するでもなく話を続けた。
「ともかく、魔導士殿の言葉を信じてアーサー少年のことは後で考えるとして、屋敷の前であれだけ騒いで町でも聞き込みなどをしていれば、なんらかの反応をしてくるとは思っていましたが、想定以上の早さでしたね、まさか一日経たずにとは」
「それだけ領民ぐるみで子供を“生贄”にしてたってことだろ。いくら周辺地域に力を持ってるとはいえ、ここまで迅速に町民を動かせるってことは、ある程度の人間とは共犯関係なんだろうな」
気絶した男を見やりアルファは言う。
「それにしても生贄……ですか、穏やかではありませんね。いえ、孤児といった行くあての無い子供を利用した“なにか”をしている時点でまともだとは思ってはおりませんでしたが……。それは邪教といった
「さぁな、真相についてはもっと調べないことには解らないが、俺が思うにおそらくここの
「まなぷらんと? えねるぎー?」
聞き慣れない単語にアヤメは思わず間の抜けた言葉を返す。
「ん? あぁ、ここの言葉でいうところの霊脈のことだな」
「霊脈……やはり」
「やはり?」
「え!? あぁ、いえ、なんでもありませんよ」
アルファに聞き返されたアヤメは慌てて取り繕う。そんな彼女を見てアルファは彼女なりに思い当たる節があることを察するが、ひとまず“それ”は頭の片隅に置いておくことにした。
「やや! ではその“まなぷらんと”とやらを破壊するなり何なりすれば、万事解決ということでしょうか!?」
閃いたと言わんばかりのアヤメの提案をアルファは却下する。
「ダメだ。そんなことをすればこの土地の住民が暮らすのが難しくなる」
しかし、それに対しアヤメは反論する。
「ですが、悪徳を為している者に健やかに暮らす権利などあるのでしょうか」
その言葉にアルファは異論を唱える口を詰まらせた。彼もその反論に感情的にいえば賛同しそうだったからだ。
「でもダメだ。
その言葉にアヤメも理性で納得したのか、それ以上のことは言わなかった。
「まぁ、どうしても破壊したいというのなら、それもこの国に住んでいる人間の決定だ。俺もとやかく言うつもりは無いが」
と、アルファはアヤメの判断を否定した訳ではないという言葉を重ねる。
「いえ、それこそ拙者の手に負える話ではなさそうなので。それにしても、何故そのような
表面上は落ち着いているが、まだ怒りがくすぶっているのか、トゲを含んだ言葉を発するアヤメ。
「いや、まぁ、元々は宇宙航行用動力炉の転用だからな。
「ちょっと何を言ってるのか分かりません」
「そう……」
「あっ、いえ、魔導士殿を責めた訳ではなくてですね、拙者の勉強不足というか──」
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