第3話『歩兵型《ポーンタイプ》の機兵』
そして次の日、アルファとアーサーの二人は“目的の場所”へと辿り着いていた。
「でっけぇなぁ……これって“遺跡”ってやつか? 初めて見た……」
アーサーは目の前の自らの身の丈を大きく超えた岩と土の間から見える金属の光沢を鈍く放つ扉を見上げつつ感嘆の声も上げる。
「いや、この感じだと単なる格納庫。
しかし、地域のライフラインたる
(まぁ、この星も大分広い上に、俺達も撃墜されたり行方不明になったりした量産型空母艦の全てを把握できているわけじゃないからな。やれやれ……だ)
自らの“不始末”を思い、もの憂げに扉を見上げるアルファだが、直ぐに気を取り直して周辺を探る。
「しっかし、相変わらずアンタがなに言ってるのか分からねぇ……」
「ははっ、理解されたら俺が困るって言ってるだろ。──っと、
アルファは物珍しそうに覗き込むアーサーを気に留めもせず作業を続ける。
(中の情報は
そう考えたアルファは空中に投影された板──
「って、ちょっとしか開いてないじゃねーか」
「俺が
アルファが言うように大の男一人がようやく通れるかどうかの幅しか開いていないその扉の奥は全くの暗闇と静寂で満たされており中に何があるのか、アーサーには皆目見当も付かなかった。
「さてと、俺はこれからこの格納庫の中を調査するわけだが。アーサー、お前はここに残れよ?」
「は? なんでだよ」
「当たり前だろ、お前みたいな子供をこんな危険な場所に連れて行けるか、俺はお前のお守りじゃないんだからな」
実際の所は、アルファの見立てでは中にあるだろう量産型機兵は全て沈黙しており、万が一動力が生きていても魔人とその関係者以外には攻撃できない
「なっ、オレだって自分の身ぐらい自分で守れるぞ!」
「こっから先は子供だろうと大人だろうと危険な──なんならこの国ぐらいなら簡単に滅ぼせるような代物が眠ってるんだ、お前さんが居るだけ調査の邪魔ってわけ」
「ちくしょう、またバカにしやがって……!」
(別にバカにしてるわけじゃないんだがな)とアルファは思うが、口頭でフォローしたところで火に油を注ぎかねないので、そのまま喉奥へ言葉を押し込んだ。
「ともかく、少年はそこら辺でおとなしく待っていてくれよ」
そう告げると振り返りもせずアルファは格納庫の奥へと歩を進める。
背にした扉から差し込む光も届かないぐらい先へと進むアルファ。辺りは既に常人の目では何があるのかも分からない程の暗闇で覆われていたが彼は危なげも無く進んでいく。
(非常用動力も既に死んでるか……それにあちこち機兵のジャンクばかりで歩きにくいったらありゃしない。自壊したのか? なんにせよ、やっぱりアーサーを置いてきて正解だったな)
暗闇の中でも視覚に頼らず行動できるアルファだったが、それでも同行者の動きや安全に気を配れるほど余裕があるわけではないので、アーサーを置いてきた選択はひとまず正解だったことに彼は安堵していた。
(さて、こうも暗いと調査もしづらいな……灯りを点けたいところだが──)
だが、機兵が灯り──魔力に反応して何か誤作動を起こさないとも限らず、それがアルファを慎重にさせていた。
(まぁ、でも、ここの格納庫は最下級機兵の
思案し、結論として調査の効率化を選んだアルファは多少のリスクを承知で灯りを点けようとするが、突如辺りが真昼のように明るくなる。
「なんだ!?」
不意の出来事に警戒心を最大にして身構えるアルファの前に機械の唸りを上げて巨大な物体が立ち上がる。その姿は四角く簡略化された鋼鉄の四本足の蜘蛛を思わせた。
「
その驚愕の声をかき消すようにその
「うおっ!? とっと……」
そこから放たれた光の線はアルファを的確に捉えたが彼を直撃はせず直前で打ち消された。防御魔法の一つである『プロテクション』の効果だ。
「なんだよ、ビックリさせやがって、
彼にとって、その砲撃は実際そよ風のような物であったが、それでも
「それによく見れば継ぎ接ぎだらけでまともじゃないな……誰かが直したのか?」
間髪入れずに連射される砲撃を意にも介さずに目の前の機兵を観察するアルファは、その不細工に蘇った遺物をどうするか考えあぐねていた。
(ぶっ壊すだけなら簡単だが、誰かが
しかし、そんな思索を背後からの声がかき消した。
「なっ、なんだよこいつ!?」
「アーサー!? なんで入って来た!?」
砲撃はアルファを狙ってはいたが、ガタが来ているのかブレた照準はアーサーへと向かう。
アルファはアーサーを守ろうと咄嗟に遠隔防御魔法である『シールド』を発動させるが、長い一人旅ゆえにこのような不測の事態に僅かに対応が遅れ、哀れアーサーは身体の半分を吹き飛ばされてしまう。
「畜生! 起きろバエル!」
アルファが咄嗟に叫ぶと彼は眩い閃光に包まれ、刹那、
「まったく……寝覚めが悪い」
アルファは崩れ落ち完全に沈黙した
「まさか、俺を助けにでも来たつもりだったのか? なんにせよ、つまらん死に方をしたな」
まだアーサーは辛うじて生きてはいたが、既に死を待つ状態でしかなかったし、アルファには彼を再生させるほどの力は無かった。だからこその言い草ではあったが、その悪態はアルファ自らの無力さにも向けられていた。
「さて……と。俺に出来るのはせいぜい痛みと苦しみのないまま静かに眠らせてやるぐらいなんだが……遺体をあの二人に預けるべきかどうか……はぁ、殆ど他人だってのに面倒を掛けさせるなよな……」
アルファは憂鬱だった。あの酒場の老主人と少女は、この少年のことを家族のように思っていることは明白だったので、そんな彼の死を告げあの二人を悲しみに沈めるのは、とても気が重く避けたい事態だったからだ。
しかし、そんな憂慮を文字通り頭から蹴飛ばすような声がアルファの脳内に響く。
『おイ、こノ小僧のカラダを我に明け渡セ』
その抑揚のおかしな声の主はアルファの腰に着けられていた鍵束──ゴエティアの中の一つから発せられていた。
『なんだ? ザガンか? 藪から棒になにを言い出すんだ、お前は』
同じくアルファも、ザガンと呼んだそれに向かって念話魔法を飛ばし通信する。
『オレはコの
『はぁ!? マジか!? マジで言ってんのか!?お前!?』
『マじダ』
アルファは別方向から降って湧いたような提案に思わず頭を抱える。それは年端もいかぬ少年に預けるには余りにも過ぎた力だったからだ。しかし、少年を死の淵から救い出すには他に手立てもなかった。そして十分に検討を重ねるには時間が余りにも足りなかった。
「だあああああ! もうどうなっても知らねーぞ!!」
踏ん切りを付けるようにアルファが叫ぶとゴエティアから鍵を一つ乱暴に外し、それをアーサーに辛うじて残った身体へと差し込んだ。
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