御刀さまと花婿たち

＊1＊ 雷と婿入り

　うさぎのすむ『つき』のように、『てまり』のように、まあるい『しま』がありました。

　そこには、いろんな『わるいもの』が、しおかぜにのってやってきます。

　でも、だいじょうぶ。『おかたなさま』がまもってくれるので、こわいものは、なんにもありません。

　だからひとびとも、よろこんで『おかたなさま』に『おれい』をさしだすのです。

　　＊　　＊　　＊

　厚い雲がかかり、薄暮（はくぼ）の空を鈍色（にびいろ）にぬりつぶした。

　風のわななくような笙（しょう）の音が舞いあがり、竜の咆哮のごとき雷鳴にかさなる。

　橙の灯明がゆらぐ石段をのぼった境内にたたずむのは、小柄な少女。

（今宵、彼（・）ら（・）がわたしの花婿となる）

　少女は漆黒の狩衣（かりぎぬ）を身にまとい、荒れ狂う灰色の景色を、ただ静かに見つめる。

　目前にある真白（ましろ）な綿帽子を、ひぃ、ふぅ、みぃとかぞえながら。

「それでは御刀（おかたな）さま──鼓御前（つづみごぜん）さま」

　閃光と雅楽（ががく）につつまれるなか、少女、鼓御前はまぶたをおろす。

　そして、手にした朱の盃（さかずき）をあおったのだった。

「はやく俺でいっぱいにしたいよ、姉（あね）さま」

　その花婿は、白無垢の胸もとに葵（あおい）の花の刺繍。

「お砂糖より甘く、蜂蜜よりとろとろに甘やかしますから、覚悟してくださいね？」

　その花婿は、白無垢の胸もとに菊（きく）の花の刺繍。

「やってやるさ。僕のものを取りもどすためなら、なんだってね」

　その花婿は、白無垢の胸もとに桐（きり）の花の刺繍。

　──さぁ、『おかたなさま』は、だれを『はなむこ』にえらぶのでしょう？

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ごらんくださり、ありがとうございます！

新作『御刀さまと花婿たち』がはじまりました。

純粋でちょっと抜けた女の子（刀の付喪神）が、弟や元主や生みの親に溺愛される、和風現代ファンタジーです。

あやかし退治あり、学園生活あり、イケメンありの、性癖ぶっこみ作品です。

近況ノートにキービジュアルイラストをアップしています。そちらもよろしければどうぞ。

それでは、これからごゆるりとお付き合いくださいませ。