第7.75話 血鬼の魔人(4)

 魔人会のトップであるセデスは、抗争に向けて準備を先に進めている中で残党が魔人討伐団体に狙われている事を想定していた。そして、セデスの下に付いているサフィラはその事を把握しているので、サフィラ組の中で最強の魔人を残党側に配置させていた。


 だが、ロズだけはその事を知らずに拠点の配置作業を続けていた。ロズは、セデスとサフィラが何か企んでいる事だけは把握しており、セデスに対する嫌悪感をひっそりと抱き始めていた。


「お前は、終わったか?」


「はい。セデス様から、頼まれた怪人の設置を完了しました」


「そうか。なら、外の見回りをお願いして良いか?」


「分かりました」


 ロズは、セデスに頼まれて秘密兵器である怪人をこの学校に設置させた。怪人とは、ロズ組に配属している『怪儡の魔人デモルス』と言う女性の魔人によって生み出された兵器をそう呼ばれている。


 デモルスは、ロズの魔力を貰いながら生み出す事で厄災レベルの怪人を短時間で三体も生み出す事ができた。もし仮に、一人でやるとしたら一体を生み出すのに一日は確実にかかってしまう。それに、デモルスは自身が怪人化する事もできるのでロズの魔力をいつでも貰える様に側にいる事をセデスから指示された。


 そして、サフィラに関してはセデスと共に性行為をしながらお互いの魔力を高めていた。魔人は、この世界の負のエネルギーで魔力の回復を担う事ができるが、セデスの場合は幸福エネルギーでも魔力を高める事ができる。


 セデス達は、部下に拠点を作らせている間に自身の強化へと励んでいた。サフィラは、それを手伝っていると言う名目ではあるが、本人がこの時を一番楽しんでいた。


 抗争の大まかなルールとしては、どちらかのリーダーを討ち取れば勝ちとなる。魔人会は、会長のセデスが討ち取られれば負けとなる。そして、魔人討伐団体は団長のムルスがリーダーとして討ち取られない様に死守しなければならない。だが、どちらも全滅するまで戦い続ける気持ちで望んでいた。


 なので、セデスは自身が生き残る為に何個も対策を練っていた。しかし、もし逃げる様な事になったらサフィラだけでも連れて逃げようとお互いに企んでいた。


 そんな感じで、魔人会が対策を練っている間に魔人討伐団体も作戦を立てていた。団長のムルスは、自身が後方に立ってユリシア率いる六番隊を先頭に攻め込むと言う作戦を作った。しかも、ムルスは幻覚魔法を一人の非戦闘員の本部の人に付与して自身そっくりの姿をさせると言う誤魔化し作戦も立てていた。


「おい、ユリシア。六番隊は、全員で出動できるのか?」


「分からないわ。一応、マイラ以外は出動可能よ」


 抗争に選ばれたキースとユリシアは、ムルスの立てた作戦を参考にメンバーの編成や対策の修正などを行っていた。一番隊は、約三割の人材が抗争に駆り出されているが、他の任務も重なっているのでそんなに参加させる事ができない。なので、キースは一人でも欠けてしまうと大損害の気分になるのだ。


「なるべく、あいつにも参加してほしい所だ」


「怪我人を、参加させるなんて無理よ」


「しかし、あいつの実力は信頼できる。少しだけでも構わない」


「まぁ、本人に聞いてみましょう。でも、隊長として部下の体調管理はしてるのよ。もし何かあれば、私の責任なんだからね」


「分かっている。しかし、あいつが居るだけでも助かると言う事だ。本当に、病み上がりの奴を参加させようとはあまり考えていない」


「でも、なるべく参加させない方向で行くわ」


「分かった」


 キースは、十番隊が任務に出動してから半日が経過した頃に意識が回復したばかりのマイラをメンバーに組み込もうとした。キースは、わざわざ行かせなくても良いのではないかと言う部下の反対を押し切る程にマイラの事を信頼している。それに、タクミが居なくなるとマイラが不安になって体調不良になるのでマイラが現場に来ないとタクミも参加できなくなる。


 それから、夕方五時と言う抗争まで残り僅かな時間になった。その頃には、ナルミとメグミ班が本部へと帰還して来ていた。ナルミ達は、捕まえた魔人会の残党を本部が管理している刑務所に預けて団長に報告を済ませた。


「あら? ファルバートが居ないわね」


「ファルバートさんは、十番隊だけで最後の任務に出動しています。なので、ファルバートさんの指示で僕達だけが帰還して来ました」


 ナルミは、ファルバートの指示でメグミ班と共に早めに帰還する様に指示された。ファルバートからは、抗争に間に合わせる為にナルミ達を本部に向かわせてユリシアと合流する様にも伝えられている。


「ファルバートらしいわね。でも、不安だわ」


「どう言う意味ですか? 僕は、ファルバートさんなら大丈夫だと信じてます」


「だと良いわね」


 ユリシアは、ファルバートが最後の一件だけを残してナルミ達を帰還させた事に疑念を抱きながら自前のランプの形をしたパイプタバコを吸っていた。


 しかし、ユリシアに心配されたファルバートは危機的状況に陥っていた。最後の場所で、とんでもない強さを秘めた魔人がファルバート率いる十番隊を襲っており、ファルバートは手も足も出せない状況だった。


「やばいっすね……。まさか、こんな魔人が居るとは思わなかったっすよ……」


「隊長……。魔力切れです。ほ、補給を……。お願いします」


「分かったっすよ。シンジ君、少し目を瞑っていて下さいっすよ」


 ファルバートは、同じ物陰に隠れている自身の非魔人であるシンジが補給を求めていたので魔力を提供しようと唇を交わそうとした。今の状況では、ファルバートが入れた魔力瓶が切れているのでキスをする事しか魔力供給はできなかった。


 その刹那、シンジの頭部に銃弾みたいな物が突き刺さってしまった。その衝撃により、シンジは魔力を補給できずにファルバートの前で死んでしまった。


「シ、シンジ君!?」


 ファルバートは、驚く事しかできずに死んでしまったシンジの遺体を眺めていた。すると、ファルバートの元に魔人のオーラを放ちながら何者かが近付いてきた。


「お前の能力、ワイにくれぇ〜い」


 その魔人は、ファルバートに銃弾を向けながら話しかけた。その魔人の名は、『魔鏡の魔人イボルナット』と言ってセデスの監視をする為にサフィラ組の魔人として君臨していた。


「もう……。しちゃってるじゃないっすか」


「イキキキキ! バレてるんかぁ〜い」


 イボルナットは、不気味な笑い声を出しながらファルバートの能力をコピーしていた。イボルナットの能力は、物が鏡に映る事でコピー能力を発動する事ができる。それに、鏡に自身の姿を映し出して分身体を作る事もできる。


「まぁ、良いわぁ。セデスには落ち目が付いてきたし、これからは魔人会ではなくてワイ達がこの世界に魔人を拡散していくんでねぇ」


 イボルナットは、ファルバートを銃を発砲して胸元に傷をつけた。ファルバートは、その振動で近くの鏡にもたれ付いてしまった。その時に、イボルナットは分身体を使ってファルバートを鏡の中に引き摺り込もうとした。


「な、何をするんすか……」


「ワイ達は、面白いゲームをして世界に広めようと計画してるんだよねぇ。だから、その一人としてお前を選んだって訳だよねぇ」


 イボルナットは、自身の能力として鏡の世界に相手を放り込む事ができる。それに、自身だけは死ぬまでずっと居れるので安心して鏡の世界を楽しむ事ができる。


 そして、イボルナットは自身の所属している組織の上司から頼まれた指示を行う為にファルバートを完全に鏡の世界に閉じ込めた。上司からの指示とは、イボルナット主催のてゲームを始める為に魔人討伐団体から人員を集めると言う事だった。


「これで、残るはあと三人だねぇ」


 イボルナットは、魔人会に所属する魔人や非魔人を無差別に殺していた。その後に、自身の本当の部下を呼び出して周りに転がっている死体を運ばせた。


「上手くいった様ですね」


「教祖様、いらっしゃってたんですかぁい?」


「えぇ、これからセデスの所に行って処罰を下しに行きます。けど、少しの間だけでも抗争の行方を見守りましょう」


「だよねぇ。でも、あいつはどんな罪なのかぁい?」


「彼は、『縁月の十傑』としての自覚が足らな過ぎました。なので、彼は死刑ですよ」


「良いねぇ」


「これからは、『魔神信仰教団』が魔神様の為に面白くして行きますよ」


 イボルナットは、教祖様と言う存在の部下であるので教祖様の指示を第一に考えていた。教祖様とは、魔神派のトップとして君臨している魔人である。そして、魔神を直接支える十人の魔人である『縁月の十傑』の一人として罪を犯したセデスを処刑しにいくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る