第7.5話 血鬼の魔人(3)

 あれから、丸一日が経過した。ファルバート率いる十番隊とナルミ達は、休みを交代で挟みながら迅速に対応したのでロズの支配区域が全部片付いた。なので、残りはサフィラの支配区域だけになったのだが、ナルミ達は休みを挟みながらでも疲れが溜まっていた。


「だけど、残りは二箇所だけっすよ」


「私は、疲れましたわ。少し休ませて下さいまし」


「そうですね。メグミさんは、四箇所連続で対応してるので後は僕達に任せて下さい」


 メグミは、メグミ班を率いてナルミとファルバートの負担をなるべく増やさない様に心掛けていたので、後処理や戦闘などの殆どがメグミ班を中心に片付けていた。しかも、移動中しか車の中で休憩を取る事をしてなかったので、逆にメグミとメグミ班が負担を背負っていた。


「お願いしますわ。けど、戦闘が終わったら教えて下さいまし。私達が後処理をしますわ」


「えぇ!? だ、大丈夫ですよ! メグミさん達は、最後まで休んでて下さい!」


「嫌ですわ。とにかく、終わったら呼んで下さいまし」


「は、はい……」


 ナルミは、一番働いてるメグミを労ろうとしたが本人に断られてしまった。しかし、メグミはその気持ちを受け取った上で自身が後処理を受け持つ事にした。


 ファルバート率いる十番隊には、今回の任務で出動しているのはファルバートと六人の非魔人だけである。その非魔人達は、ファルバートと契約を交わしているので同じ能力を使う事ができる。なので、ファルバートはその非魔人達に人数を増やす様に命令した。すると、非魔人達はカッターやナイフを取り出して自身の手首を傷つけた。


「うわぁ……。凄いですね……」


 ナルミは、出血した血が人間の形に作られている光景に呆気に取られていた。ファルバートの部下達は、それこそが能力の一環なので手慣れている。


「これこそが、俺達の能力っすよ」


 ファルバートは、無事に人数が増えたのでナルミにも休憩の指示を出した。ナルミは、行って少しでも役に立ちたかったがメグミにも話があると止められた。なので、ナルミはファルバートの戦闘が終わるまでの間にメグミと話す事になった。


「話とは何ですか?」


「貴方には、少し話したい気分になっただけですわ」


 メグミは、ナルミを隣に座らせて自身の過去について話す事にした。メグミは、父親が政治家で母親が外交官と言うお金に困らない家庭で育った。そのお陰で、メグミは英才教育を受けて東京の私立難関高校を首席で合格した。


「とても頭良いじゃ無いですか!?」


「それほどでもありませんわ。けど、そこまで行けたのは親友のお陰なんですわよ」


「親友? 両親じゃなくてですか?」


「えぇ、私の親は仕事が忙しくて家に全く居ませんでしたもの。だから、夜も寂しくて寝れませんでしたわ」


 しかし、そんな寂しさを埋めてくれたのが中学時代に出会った同級生だった。当時のメグミは、とても優秀であるが為に他の人達から煙たがられていた。しかし、その子だけはメグミに近づいて仲良くなろうと明るく話しかけてくれた。メグミは、その子と居る事で寂しさが徐々に無くなってきた。


「その子は、お世辞にも成績が良くありませんでしたわ。なので、私が勉強を教えていましたが不思議な事に寂しい気持ちが無くなっていましたの」


「家でも、助けてくれる人や話を聞いてくれる人は居ませんでしたからね。そう言うのは、全く不思議では無いと思います」


 ナルミの言う通りで、メグミはその子と居る時間が恋しくなった。その子も同じで、メグミと居る時間がとても幸せの様に感じていた。


 しかし、その光景を見てメグミに嫉妬した同じクラスの子がメグミの親友に目をつけて嫌がらせを始めた。クラスの子は、メグミに気づかれない様に親友の体操服を捨てたりなどの悪質な虐めをして精神的な攻撃を仕掛けた。


 それから、親友はメグミに虐められている事について相談した。メグミは、相談されてから初めてその事に気付いたので怒りが先に来てしまった。それで、メグミはクラスの子が親友を虐めている所を証拠に収めて問い詰めた。


 その刹那、クラスの子の様子がおかしくなった。クラスの子は、一緒に企んでいたその仲間を操るかの様にその証拠を取り上げる事を指示した。


 その仲間は、意識が無くクラスの子の指示しか聞けない状態でメグミ達を襲った。クラスの子は、メグミと親友が襲われて制服を脱がされている様を見て生き甲斐を感じているかの様に喜んでいた。


「今でも、思い出すと震えが止まりませんわ」


「あまり無理しないで下さい」


「そうですわね。けど、貴方なら話しても良い気分ですわ」


 メグミは、過去の事をナルミに話して魔人に対する鬱憤を晴らしたい気持ちだった。実は、クラスの子は魔人に唆されていた被害者だったが、その子はそれを知らずに魔人の言う事を従っていた。


 しかし、クラスの子は嫉妬した気持ちがエスカレートしてしまい、親友をメグミの目の前で殺してしまった。その時には、魔人に意識を乗っ取られているので本人は記憶がない状態であった。


 メグミは、親友が殺された事で恐怖より怒りが込み上げてしまった。しかし、魔人はメグミを殺さない代わりに仲間に服を脱がして犯す様に命令した。メグミは、好きでもない人間に犯されるよりかは殺された方がマシだと思った。


「だけど、そんな時にキース様が助けて下さいましたの」


 キースは、メグミに親友が殺された事を聞いて間に合わなかった事に謝罪していたが、メグミはそんな事より大切な親友を殺しておいて魔人は姿を現さなかった事に復讐心を剥き出してしまった。それを聞いたキースは、メグミの気持ちを汲み取って契約を交わした。


「私は、今でもその魔人を殺したくて堪りませんわ。たった一人の大切な人を、殺しておいて姿も現さないなんて卑怯ですわ」


「確かに、僕の場合も他人を乗っ取らせていました。なので、お気持ちはお察しできます」


 しかし、メグミの場合はナルミと違ってまだ魔人の正体が判明されていなかった。ナルミの場合は、モルサの能力で魔人の正体が判明したが、メグミは未だに判明できていなかった。


「僕は、すぐに判明できたのにおかしいと思います。そもそも、僕もメグミさんも殆ど間に合ってないじゃないですか!?」


「そうですわね。ただ、私達は助かりましたから文句は言えませんわ。それに、キース様が親友を救って下さったらと思うより魔人の討伐をして寂しさを埋めたいと思ってますわ」


「それだと、あの時の僕と同じになると思います」


 ナルミは、どんなに事件を起こしたユボルグを討伐しても今度は魔人と言う存在を消したいと復讐心が増幅してしまった。しかし、メグミは犯人である魔人の正体が知らない上に討伐できてないのでその気持ちが強くなるのは仕方ないとナルミは感じていた。


「僕は、メグミさんの過去の事を聞いて色んな事が理解できました。それでも、メグミさんを困らせている魔人は僕に討伐させて下さい」


「そうですわね。それでも、私の大切な人を殺した魔人を討伐したくて堪りませんわ。それに、私事なので見守っていて欲しいですわね」


「確かにそうですね。なんかすみません」


「ふふ。全然良いですわよ」


「でも、もしその魔人を殺したとしてメグミさんが道を外れそうになったら、今度は僕が止めます」


「そうですわね。頼みましたわ」


 ナルミとメグミは、その後もお互いの過去について語り合った。メグミは、ナルミと話す事で自身を客観的に見る事ができた。それだけで無く、ナルミに対して好感度が上がっている事にも感じていた。


ドゴォォォォンンン!!!


 その刹那、指定場所の方から大きな物音が聞こえてきた。その場所では、ファルバート率いる十番隊が任務を遂行している場所である。メグミは、その騒音を聞いてナルミとの話を中断して後処理の準備へと移った。


「戻って来たっすよ」


「離せ! こらぁ!」


 すると、ファルバートが叫びながら抵抗している敵を難なく引き摺りながらナルミ達の方へと近づいた。今回の敵は、男性の非魔人が多く配置されていた。しかし、敵よりもファルバートの方が一枚上手だったのでサフィラから貰った能力が全く使えずに捕縛された。


「では、メグミさん。後はお願いっすね」


「任せて下さいまし」


 ファルバート達は、気絶させた敵をトラックに乗せたり元の建物に治したりと処理作業を進めた。なので、ナルミもファルバートの作業を手伝う事にした。


 それから、任務が残り一箇所になった所でファルバートはとある提案をナルミ達にした。その提案は、十番隊だけで最後の任務に挑むと言う事だった。ファルバートは、最後の場所こそが不安に駆られる場所であった。なので、メグミ班とナルミには抗争の戦力に加わって欲しいと考えていた。


「ナルミさんは勿論すけど、メグミさんもこの抗争で何か魔人の手掛かりが掴めるんではないかと思ったんすよ」


「確かにそうですわね。でも、残り一箇所なので最後までお供しますわ」


「僕もです。お気持ちは嬉しいですけど」


「いやぁ、こっちが困るんすよね。万が一、君達が被害に遭われたら二人の隊長に会うのが怖いんすよね」


 ファルバートは、なるべく他の隊員が被害に遭わない為に最後の任務だけはさせない様にと心掛けていた。なので、ナルミ達が協力的であっても申し訳ない気持ちで断った。


「分かりました。なら、この事をユリシアさんに報告していきます」


「頼んだっすよ」


 ナルミとメグミは、ファルバートの提案を受け入れて抗争に間に合う様に帰る支度をする事になった。

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