第7.25話 血鬼の魔人(2)

 魔人会では、明後日の抗争に向けての準備を昨日から始めており四日かけて拠点を作り上げていた。そして、会長のセデスは作戦の一環として相手にも情報を伝えた。


 セデスは、モルサの正体までは知らないもののそう言う存在が居る事は把握している。なので、情報を探らせない為に自身の能力を使ってコントロールしていた。


 その能力を知っている者は、四人の組長のみであり残る二人の組長がセデスの存在に怯えながらも信頼していた。


 そんな中、抗争に出ない組員達はいつも通りに仕事をこなしており、相手の魔人討伐団体に気をつけながら作業するようにセデスから言われていた。


「ロズ様、お気をつけて」


「うむ。留守番は頼んだ」


 ロズ組の組長であるロズは、部下達に留守番を任せて抗争場所に迎った。ロズ組からは、組長のロズと舎弟の男性数名が選ばれた。しかし、ロズと契約を交わした非魔人達は全員が選ばれる事なく留守番になった。


 ロズの能力は、この世界に存在する女性を意のままに操る事ができる。勿論、殺す事や能力を共有する事も可能である。しかし、女性しか洗脳をかける事ができない。しかも、契約をしてない者は一定時間が過ぎると強制的に洗脳が解けてしまう。


 なので、契約をしてる者はいつでもロズが残してくれた能力を死ぬまで存分に戦う事ができる。しかし、ロズはセデスに頼んで自身の非魔人達を残す事にした。


「あいつらは、俺の可愛い部下だ。あんな、恐ろしい場所には行かせれない」


 ロズは、その気持ちを共に出動する部下に話した。ロズの部下は、全員が女性でこの世界の人間だからこそ行かせたくなかった。セデスには、自身の部下の優秀さを売りにして居残りで本領発揮させたいと誤魔化していた。


 その気持ちを言われた部下は、サフィラの非魔人としてロズ組に配属された男性である。ロズ組は、サフィラ組の配属チームだったが組長の枠が一枠空いた事でサフィラの命令で、そのまま組長に昇格したのでサフィラの非魔人が混ざっている。


 そんな感じで、ロズが居なくなったロズ組の事務所は女性非魔人だけになった。基本は、ロズの命令で動いているのだが、今はロズが居ないので若頭である非魔人のサキネを筆頭に仕事をこなしていた。


 ロズと契約を交わしている非魔人は、異世界人の女性は誰一人として居なかった。ロズは、サフィラのお気に入りとして一番に優遇されていたので自身の好みでこの世界の女性だけと契約を交わしている。


「ロズ様が居ない分、しっかり働きなさい!」


 サキネは、ロズと一番最初に契約を交わした非魔人である。なので、先輩として後輩に厳しくしていた。ロズが居ると、どうしてもロズに甘えたくて仕方がないのだ。しかし、今は居ないのでロズの分までしっかりと務めを果たそうと心掛けている。


 サキネとの契約は、とても淫らな方法でロズと契約を交わした。魔人との契約は、基本的にDNAを摂取する事で契約が開始される。しかし、サキネは度が過ぎた行為によってロズに魅了されてしまった。


 ロズは、異世界では魔女王に生み出されたインキュバスとして存在していた。インキュバスとは、男性の淫魔として女性の性欲を掻き立てる悪魔である。魔女王は、ロズと言うインキュバスを生み出す事でロズは沢山の子種を世界にばら撒いて行った。


 しかし、魔女王が人間に公開処刑をされた事で次はインキュバスとサキュバスの殺害が始まってしまった。だが、ロズは逃げ惑っている途中に黄色の月神がいきなり現れて転移されてしまった。


 そんな感じで、いきなり知らない場所に飛ばされたロズはセデスと直接出会ってしまったので魔人会に加入する事になった。かなり展開が早いので、最初の頃は戸惑いやミスが沢山あったがサフィラのお陰で今の地位に立てている。


 その事は、若頭のサキネしか知らない情報である。サキネは、ロズの能力を一部共有しているので他の女性非魔人より味方の能力を向上させる事ができる。サキネは、こんな感じでロズから一番に優遇されているので人一倍にやる気を見出していた。


「レイナさん。この書類を……」


 その刹那、事務所の窓ガラスが一斉に勢いよく割れた。それと同時に、スーツを着た複数の男性が侵入してきた。


「な、何が起きたの!?」


 いきなりの事で、周りの女性非魔人は叫ぶ事しかできなかった。しかし、サキネは驚きながらも周りの状況を確認していた。


 侵入してきた者は、即座に周りに居る女性非魔人を拘束する為にゴム弾の入った銃で狙撃を開始した。それを見たサキネは、すぐに別の部屋へと後輩を連れて逃げ出したが別の部屋でも後輩達を狙撃して倒していた。


「こうなったら、私がやるしかないわね」


 サキネは、後輩達に自身の能力を向上させるように命じた。そして、サキネは後輩達に能力向上のスキルをかけてここから逃げるように伝えた。


 それから、サキネは一人で敵に反撃を開始した。銃を発砲してくる敵には、避けながら近づいて顔面と腹部を思いきり殴って攻撃した。そして、近接戦闘を仕掛けてくる敵にも同じ様に攻撃を避けながら相手の急所を何箇所も攻撃をした。


 しかし、敵は何度も立ち上がって襲いかかってきた。まるで、ゾンビの様な動きで感情が無く誰かの言いなりになっている様だった。なので、サキネは怒りながら渾身の飛び蹴りを一人の敵に与えた。


「とぉりゃぁぁぁあああ!!!」


 すると、その敵は血を派手にばら撒きながら原型が無くなった。先程までは、人間の姿をしていたが攻撃を受けた事で大量の血液を残しながら消えた。


「ど、どう言う事なの!?」


 サキネは、その状況に戸惑いながらも理解を得るより眼前の敵に集中した。この敵は、一定以上の威力を受けると先程みたいに大量の血を残して原型が無くなった。


「ありゃりゃ。ここは、やられてるっすね」


 すると、サキネの背後から若い男性が声をかけてきた。その男性は、金髪の頭に茶色の肌をしたスタイルの良いイケメンのファルバートだった。


「あんたは誰よ? もしかして、あんたがこんな事を?」


「俺がじゃ無いっすよ。俺達がっすよ」


 その刹那、ファルバートの背後からいきなり複数の男性が現れた。サキネは、自身にゴム弾が飛んできたのに対して反応が遅れたので頬を掠めてしまった。それから、何度もサキネに向かってゴム弾の銃で狙撃された。


 サキネは、何とか避けながら銃を向けてくる男性達に攻撃を喰らわせて先程の様になるまで倒し続けた。しかし、ファルバートはサキネの右肩にナイフを突き刺した。


「うぐっ!!」


 すると、サキネの傷口から血が地面では無くファルバートの掌へと迎っていた。ファルバートは、サキネの血を使って円球を作る様に集めていた。サキネは、理解が追いつけずにその光景を痛みながら眺める事しかできなかった。


「良い色をしてるじゃ無いっすか」


「な、何がどうなってんのよ……?」


「これは、君の血を抜いて新しく部下を作ってるんすよ。君が殺した部下は、こうやってできたんすからね」


 ファルバートは、サキネの血を少量抜いただけで新しく部下を一人作成した。ファルバートの能力は、この世界の全生物の血を自在に使う事ができる。


 そして、ファルバートは新しくできた部下に指示してゴム弾の銃で発砲させた。しかし、サキネはそのゴム弾を左手で受け止めて握り潰した。


「ありゃりゃ、その馬鹿力はどこから来るんすか?」


「うっさいわね。それより、あんたは一体誰なのよ!?」


「俺っすか? 俺は、魔人討伐団体の十番隊隊長のファルバートと言うっすよ」


 ファルバートは、そう言いながら今度はカッターを取り出して自身の手首を傷つけた。すると、手首から血が縄を作るかの様に宙に舞っていた。


「これが……。あんたの能力なのね」


「そうっすよ。俺含めて、この世界の生物の血を自在に操れるんすよ」


「なるほど……。だから、私は身動きができないのね」


「ありゃ、能力が効いてきたんすね」


 ファルバートは、魔力を掻き乱す魔法が付与しているナイフをサキネに刺したのでその事によりサキネは能力を使う事ができずに挙げ句の果てには身動きさえできなくなった。


 サキネは、諦めたかの様にファルバートが生成した縄に縛られていた。そのナイフは、本部から貰った支給品で活用したまでなのでファルバートの能力とは全く無関係だった。


「そもそも、今更私達を襲ってるのよ?」


「君達は、上司から抗争について何か言われてるんすよね?」


「えぇ、これが終わるまでは通常通りに業務をこなす事と……」


「事と? 後は、何か言われてるんすか?」


「後は、もし抗争に負けたら逃げなさいって言われたわ」


「だからっすよ」


「え?」


 ファルバートは、団長から抗争に出ない残党の処理を頼まれていた事についてサキネに伝えた。その残党が逃げた後に、また事件を引き起こされては困るので先に内密な処理をしているのだった。


「まぁ……。あんたはイケメンだからもう良いわよ」


「なんすかそれ」


「いやね、もしオタクみたいな顔の男だったら嫌だなって思ってたのよ」


「やっぱり、イケメン以外は男と認めないんすか?」


「そうね。男と言うか人間として認められないわ」


「うわぁ、出たっすよ。典型的なパターン」


 サキネは、ロズやファルバートみたいなイケメンな男性以外は人として見られないとの事だった。そう言う心理を、サキネは持っているからこそロズの非魔人に選ばれたのだ。だが、ファルバートはサキネの発言にムカついたので黙ってサキネを気絶させた。


「これだから、勘違いブス女は大嫌いなんすよね。と言っても、俺はイケメン扱いしてくれたから別に文句は言えないんすけど」


 ファルバートは、縛り上げたサキネを部下達に任せた。そして、ファルバートは裏門に居るナルミとメグミにどうなっているのか電話で確認した。


「こっちは完了しました。ファルバートさんはどんな感じですか?」


「こっちも終わってるっすよ。ナルミ君の方にも敵が来てたんすね」


「そうですね。複数の女性が来ましたが、全員非魔人なので殺さずに捕らえておきました」


 ナルミは、メグミと一緒に裏門で待機していたので裏道を辿って逃げてきた女性非魔人を捕縛した。そして、正門にはファルバート率いる十番隊が包囲していた。その事により、ナルミ達は最初の指定場所を処理する事ができた。


「次は、ここっすね」


「分かりました。とにかく行きましょう」


 ナルミは、何としても明後日の抗争の為に間に合わせる事を意識した。しかし、ファルバートは焦りすぎて内密に行動する事を忘れない様にナルミに優しく注意した。


「ご、ごめんなさい」


「分かれば良いんすよ。さぁ、この人達をトラックに乗せて次に行くっすよ」


 ファルバートは、捕縛した敵を回収用のトラックに乗せた後に暴れた痕跡も魔法で処理してから次の場所に行く事にした。指定されている場所は、今回の場所を含めて十箇所あるので抗争に間に合う様に迅速に迎う事にした。

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