第7話 血鬼の魔人(1)

「忙しい中、集まってくれた事に感謝する」


 魔人討伐団体の団長であるムルスは、三人の隊長を集めて会議を行った。この会議室は、本来の会議室とは違って四人用の小さな丸いテーブルを中心に造られていた。なので、ユリシアが先程まで佇んでいた待合室と何ら変わらなかった。


「と言うか、何すかここは? あっちの方のでかい会議室じゃ駄目だったんすか?」


「別に良いでしょ。忙しい時に団長が時間を作って下さったんだから、こう言う場所でも受け入れないといけないわよ」


「ユリシア君、気遣ってくれて感謝する」


 ムルスは、十番隊の隊長である『血鬼の魔人ファルバート』の失言を論破したユリシアに感謝の意を示した。今の魔人討伐団体は、事件が一斉に発生しているので手付かずであった。なので、団長がいつも居る会議室には副団長が団長の代わりに別の会議の進行をしていた。


 ファルバートは、異世界から来た吸血鬼だった。ファルバートは、沢山の人間の血を吸う事で自身の力へと変えてきた。しかし、吸血鬼はユボルグみたいな鬼人とは別の存在だった。だからこそ、同じ吸血鬼の者同士で肩身を狭くしながら過ごしてきた。


 しかし、吸血鬼は人間に限らず生物の血を吸わないとやっていけない体質の魔物だった。その体質が仇となってしまった時があり、それから生きるのが面倒臭くなった。


 だが、その時に黄色の月神が現れてこの世界にいきなり転移されてしまった。それから、路頭に迷っていたファルバートは警察に保護されてしまい、そのまま魔人討伐団体に引き渡されたのだった。


 そんなファルバートは、この世界の人間の血を見た途端に恐怖に襲われる体質になってしまった。だが、その試練を乗り越えて魔人に覚醒する事ができた。それから、実力や実績が認められる様になったので十番隊の隊長に任命される様になった。そして、今は隊長として会議に参加している。


 この会議は、魔人会との抗争について話し合う事になっている。魔人会は、全勢力を上げて魔人討伐団体に抗争を挑む事になっており、その拠点がとある高校に建てられている。


「しかし、魔人会の三割近くは殲滅する事に成功している」


「三割では少ないわね」


「その通りだよ、ユリシア君」


 魔人会は、ブロイド組とガレッズ組を殲滅されたので三割の戦力を削がれてしまった。しかし、ムルスはその事に納得がいかなかった。何故なら、残りの七割は強力なサフィラ組とロズ組で構成されているからだ。


 特にサフィラ組が、異常な程までに凶悪で最恐なのでムルスにとっては何とかしたいと言う事を三人の隊長に告げた。


「ならば、この俺が率いる一番隊がロズ組を何とかすれば、多少は肩の荷が降りると言う事だな」


「なんで、ロズ組なのよ。問題は、サフィラ組って言われたばかりでしょ」


「異常な方を潰してる暇はない。なら、確実な方を潰して抗争までには有利な状況を少しでも作るって事だ」


 キースの作戦は、抗争が明後日なのでそれまでに少しでも相手の戦力を削ぎたいと言う事だ。しかし、サフィラ組を削ぐのは一番隊にも被害が出ると判断したので少しでも可能性のある方を削ぎたいと言う事だった。


「しかしだよ、キース君。相手は、そう簡単に戦力を削がさせてはくれないと思うんだよ」


 もし仮に、一番隊がロズ組を討伐しても抗争には関係無い戦力だとムルスは予想した。全勢力と言っても、何人かは囮として残した上で抗争に向けての人員の配置をするとムルスは思っていた。


 ムルスの予想が当たれば、キースの働きは無駄足になる。それなら、抗争に向けての訓練と作戦を立てた方が良いのではないかとキースに告げた。


「確かに、相手は抗争に出すメンバーを幻影魔法か何かで姿を隠してると思います。しかし、その残党がまた何か仕出かすと思うのです」


 キースは、抗争に出ないメンバーこそ注意した方が良いと告げたが、ムルスはその事についてはファルバートに任せる事を事前に考えていた事を話した。


「だから、俺が呼ばれたんすね」


 ファルバートは、他の隊長二人が会議の主役になっていたので呼ばれた意味があるのか疑問に思っていた。しかし、ファルバートの管理地区は一番隊と六番隊の次に魔人会のアジトに近かった。その他にも、呼ばれた理由は沢山あるがムルスが答えたのはこの理由だった。


「我々は、一番隊と六番隊で抗争に向けての編成をする。だから、ファルバート君はこれから十番隊を率いてロズ組とサフィラ組の残党を駆除してきてほしい」


「えぇ〜、サフィラ組もっすか!?」


「何よ、ファルバート。もしかして、団長の命令に逆らう気なの?」


「いやぁ〜、ウチらも請け負ってる任務が山積みなんすよね。だから、やるんだったら応援がほしいなぁって思うんすけど」


「なら、私の部下を一人だけ貸すわ」


「俺の部下も一班だけ貸そう」


「あざっす!」


「君達、話を勝手に進めないでくれ」


 ムルスは、ユリシアとキースがかなり優秀なのは把握している。だが、許可も無しに応援の話になったので少し懸念を抱いてしまった。しかし、十番隊に課せた任務での応援は認める事にした。なので、一番隊からはメグミ班が応援に行く事になり、六番隊からはナルミが出動する事になった。


「とにかく、今から渡す資料がモルサによって引き出された情報だ。頼んだぞ」


 ムルスは、そう言ってモルサが書き込んだ資料を三人に手渡した。ユリシアとキースの資料には、抗争に向けての作戦や編成などが書かれていた。そして、ファルバートにはロズ組とサフィラ組の思しき情報が記されていた。


 そんな感じで、一時間にも渡る隊長会議が終了したのでユリシアは六番隊メンバーが揃っているマイラとタクミの病室に迎った。病室には、マイラだけが意識が戻らずに寝込んでおり、後の四人がマイラの看病をしながらユリシアの帰りを待っていた。


「あら、タクミは目を覚ましたのね」


「あぁ、この姿になるのは久しぶりだ」


 タクミは、普段は熊のぬいぐるみの姿で活動しているが、本気を出したい時は元の姿に戻って仕事をするのがマイラとタクミの攻撃スタイルである。しかし、今はマイラが起きていないので身体的移動ができないでいた。


 タクミの本来の姿は、マイラの魔法袋に常に保管している。何故なら、そうしないとマイラの体調が悪くなってしまうのだ。なので、熊のぬいぐるみと言う仮初の姿で活動している。


「マイラは、まだ起きないのね。なんか、寂しいわね」


「そうだな。それより、何でここに全員を集めてるんだ?」


「話があるからに決まってるでしょ」


 ユリシアは、全員に会議の内容を話した。ナルミが応援に行く事や抗争に向けての編成などの話にナルミ以外の皆んなは頷いていた。


「僕も抗争に行かせてください!」


「そのつもりよ」


「なら、何で……」


 ユリシアは、自身からナルミを十番隊に推薦した。ナルミは、自身の母校に魔人の拠点を建てられている事が許せなかった。なので、抗争に行きたいと心構えしていたがユリシアからは別の任務を言い渡された。


 ユリシアは、お世話になった学校が壊れていく様をナルミが耐えきれるかどうか気にしていた。しかし、ナルミは何もせずにはいられないと強い意志をユリシアに見せた。ユリシアは、それを見たくてナルミには敢えて任務を両方させようとした。なので、応援に行かせる事は変えなかった。


「それでも、別の任務には行ってもらうわ」


「分かりました。どんな理由があろうと抗争までには間に合わせます」


「その強い意志を見れて良かったわ」


 ユリシアは、ナルミの強い意志を見れたので安心しており、ナルミは初めての救援と重大な任務の事で頭がいっぱいであった。


 そんな感じで、ナルミも六番隊の抗争に向けての動きをユリシアから聞く事になった。作戦は、学校の周りを一番隊が包囲した状態で六番隊を先頭に突撃する事になっている。一応、どんな魔法が仕掛けられているか分からないので事前に一番隊から数人が調査に駆り出される事になっている。


 そして、抗争は明後日なのでそれまでに他の勢力を殲滅する事になっている。そして、その担当は十番隊と一番隊のメグミ班と六番隊のナルミのメンバーである。


「そう言えば、もうすぐしたら十番隊が来る頃ね」


 その刹那、病室の扉からノック音が聞こえた。鳴らした主は、ユリシアが思っていた通りの者だった。


「噂をすれば、本人の登場ね」


「どうもっす」


「この方が十番隊の方ですか?」


「うっす。俺が、十番隊の隊長をやってるファルバートっすよ」


「よろしくお願いします」


「後は、一番隊のメグミ班だけね」


「私達も来てますわよ」


 ファルバートは、メグミ班を連れてナルミを迎えに来た。ナルミは、皆んなから見送られながらファルバート達の和の中に入った。


 この事に関しては、ナルミだけでなくメグミやファルバートが抗争までに間に合わせたいと思っていた。そう思いながら、ナルミ達はムルスから指定された任務を遂行する事になった。

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