第6.5話 金獣の魔人(3)
ブロイドは、彼女であるフィロウスを魔人討伐団体から救い出して魔人会本部に戻ろうとしていた。本部には、怪我を治せる魔人が居るので会長のセデスに頼んで治して貰おうと考えていた。その魔人は、セデスの許可が無いと能力が使えないからこそ余計に急いでいた。
「もうすぐ、着くからな」
「ブロイド様……」
ブロイドは、焦りながら建物の屋上を飛び跳ねて近道を通っていた。しかし、フィロウスの意識がどんどん薄くなってきていた。フィロウスは、自分の怪我を治せるが身体が思い通りに動かないでいた。
「何だ? 大丈夫か?」
「もう……。私は……」
フィロウスは、意識がなくなったかの様に身動きしなくなった。それを見たブロイドは、不思議に思いながらも生きている事を信じて本部に迎っていた。
その刹那、ブロイドの足元に大きな魔法陣が浮かんできた。それと同時に、技名を唱える女性の声が聞こえたのでブロイドは即座に反応して避けようとしたがいつも通りには飛べなかった。
「な、何だ!? 何で飛べないんだ!?」
「残念でしたわね。私が信頼するキース様の技に勝てる者など居ませんわよ。おーっほっほっほっほ!!」
ブロイドに向けて高笑いをした者は、キースの一番隊に所属する非魔人のメグミと言う女性だった。メグミは、親友の仇を取る為にキースと契約を交わした現実世界の者であり、最近では実績もかなり良いので班長と言う座を任せられている。なので、今は部下を連れてブロイドの前に現れたのだ。
「貴様! 何をしやがった!?」
「私は、メグミと言う素晴らしい名前を持っているのですわ。貴方なんかに貴様と言われる筋合いはありませんのよ」
「あるだろ! 何をしやがったってんだ!?」
「貴方の能力を奪ったのですわ。確か、能力はお金を積まれる事でその分の力を発揮できる能力でしたわね」
「貴様……。何故それを……? うぐっ!?」
その刹那、ブロイドは抱えているフィロウスを優しく地面に置いてもがき苦しんだ。それを見たメグミは、顔を真っ赤にして息を荒げながら興奮していた。
「良いですわ。良いですわ。もっと苦しんでくださいまし。貴方達の苦しんでいる所を見ると本当に興奮しますわ」
メグミは、苦しんでいるブロイドの方へと近づいてブロイドの顔を踏みつけた。踏みつけられたブロイドは、能力が使えないのでやり返す事ができずに屈辱を感じていた。
「貴様……。やめ……。ろ……」
「嫌ですわ。貴方は、ここで私に踏みつけられて屈辱を味わいながら死ぬんですわ」
「うるせぇ……。俺には……。彼女が……」
「もしかして、隣の子なんですの?」
「そうなんだ……。彼女だけでも……。助けなければ……」
「何をおっしゃってますの? この子は、とっくの昔に死んでますわ」
「嘘を……。言うなぁ……!!」
ブロイドは、メグミの安易な言葉にキレて立ち上がろうとしたが、メグミに頭を強く踏みつけられたので立ち上がれなかった。しかし、メグミが言っている事は本当であり、フィロウスはユリシアの術で死んでいた。
「わざわざ、嘘を言って私に何の得がありますの? しかも、誰かの術が効いて死んでますわね。もしかして、私と会う前に誰かと戦いましたの?」
「あぁ……。ユリシアとか言ってたな……」
「確か、六番隊隊長の方でしたわね。そう言えば、その方に救援を頼まれてましたの」
「なんだ……。と……」
「うるさいですわ。早く行かないといけませんのよ。さっさと死んで下さいまし」
メグミは、ブロイドから頂いた能力を活用して右足に魔力を込めながら踏み潰した。ブロイドは、完全に顔が潰れてしまったので息が途絶えてしまった。
止めを刺したメグミは、班長として数十名の班員を連れて次の任務であるユリシアの所へと迎う事にした。
「あら、もう来てくれたのね」
「えぇ、そうですわ。一番隊メグミ班 班長のメグミと言いますわ。そして、後ろに居るのが私の部下達ですわ」
それから、メグミ班はキースから頼まれた任務の場所に行くとユリシアとナルミとミサキの三人が佇んでいた。
「初めまして、ミサキです。こちらが、ナルミさんです」
「よろしくお願いします」
「よろしくですわ」
メグミ班とユリシア達は、魔人の犠牲になった一般人の救出作業に取り掛かる事にした。メグミの部下には、力が強い者や幻影魔法を使って他の一般人にバレない様にできる者が居るので作業がスムーズに片付いた。そして、全員を救出できた後にメグミ班専用の中型トラックが来て一般人を丁寧に乗せて本部まで運ばせた。
「これで、完了ですわ」
「メグミ、今日はありがとね」
「とんでも無いですわ」
メグミは、ユリシアから感謝の言葉を投げられて素直に受け入れた。だが、その後にユリシアから見覚えのある質問を言われた。
「そう言えば、女を抱えた男の魔人を見なかったかしら?」
「もしかして、ブロイドと言う魔人を言ってますの?」
「えぇ、そうよ」
「それでしたら、行き先の途中に私が討伐しましたわ」
ユリシア達は、メグミの言葉に驚いて声を一時的に失った気分だった。ユリシア達は、てっきりブロイドが復讐心剥き出しでこちらに戻って来ると思っていた。しかし、メグミがブロイドを討伐した事でユリシアとミサキは逆に手間が省けて安心していた。
だが、ナルミだけはどうしても自分の手で討伐したかったと悔やんでおり、顔が少し曇ってしまった。それを見たメグミは、ナルミを気にかけて声をかけた。
「僕は、どうしてもあの魔人を殺したかった」
「あまり、その事ばかり考えてると自分を見失いますわよ」
「え?」
「私は、逆に貴方が自滅しなくて安心しましたわ」
メグミは、ナルミにその言葉を告げて立ち去った。ナルミは、もし自分の手で討伐すると恨みが込み上げて元の自分に戻れなくなるのでは無いかと脳裏に過ぎった。
「そういう事よ、ナルミ」
「は、はい。お手数おかけしました……」
ナルミは、ユリシアの言葉だけでも心が変われなかったがメグミの他人事では無かった様な言葉に魅了されて心を入れ替える事にした。
それから、本部に戻って今回の事について報告する事にした。しかし、立て込んでいる様だったので待合室に待つ事になった。
「すみません、お待たせしました」
「何回も報告しに来てごめんなさいね」
「いえ、仕事ですので」
待合室に来たのは、本部に所属する非戦闘員のルイギーアが団長の代わりに来た。魔人討伐団体のルールとして、何が起きた場合は逐一報告する様にルールが課せられている。なので、任務が終わった場合などにはこうやって何回も報告に行かなければならない。勿論、電話だけでの報告も許されている。
「それで、ご報告とは一体何でしょうか?」
ユリシアは、ルイギーアに言われて今回の件について詳しく説明した。それを聞いたルイギーアは、驚きながらその報告と別の報告を照らし合わせていた。
「あら、どうしたのかしら?」
「いえ、先程の情報と繋がっているなと思いまして確認していた次第です」
その情報は、ブロイド組の組員と一番隊のバラレオ班が対峙していた時に相手が急に能力が使えなくなってしまったので、そのまま捕獲をして本部に連行したとの情報だった。
「なるほどね。確かに、メグミが討伐した事で能力が使えなくなったからそうなるわね」
「えぇ、お陰様でブロイド組の組員を全員捕獲しましたので必然的に壊滅となりました」
「かなりの収穫ね。でも、魔人会はその事なんか想定内と思ってるかもしれないわ」
「その事なんですけど、新たに情報が入りまして……」
「ん? どうしたのかしら?」
ルイギーアによると、魔人会から抗争について新たな情報が入ったとの事だった。それは、抗争場所が東京都清瀬市にある進藤高校に決まったとの事だ。
「魔人会によれば、もう拠点を学校の屋上に作っているとの事です」
「そこって……。僕が卒業した学校です……」
その刹那、ナルミの告白によって周りの空気が凍りついてしまった。ナルミは、数日前にこの学校で卒業した。その卒業祝いで、ナルミと演劇部のメンバーで近くのファミレスでお祝いをした。しかし、ナルミ以外のメンバーは魔人のせいで犠牲になった。
その負のオーラが、親戚から同じ学年の子達に行き届いてしまった。それだけでなく、学校全体に響き渡ってしまったので負のオーラは絶好調である。
「ぼ、僕は……。えっと……」
「もう言わなくて良いわ」
「は、はい」
ナルミは、あの出来事を思い出してしまったので息が少し荒くなってしまった。それを見たユリシアは、無理させない様にナルミを黙らせてルイギーアに報告の続きを言わせた。
「そうですね。時間帯は、明後日の夜中一時と言われました」
「なるほどね。本当にやる気なのね」
ユリシアは、この情報を聞いて次に団長がどう言う動きをするのか気になった。ルイギーアによれば、団長は二時間後に隊長会議を開くとの事だ。
「やっぱりこうなるのね。でも、全員と言う訳にはいかないでしょ? 五番隊と九番隊の管理地区は遠いんだから」
「はい。今回の隊長会議は一番隊・六番隊・十番隊の三隊のみです」
「あら、そうなのね。まぁ、良いわ。今から準備しましょうかね」
「ユリシアさん、どこに行くんですか?」
「会議室に決まってるでしょ」
「今からですか? なら、僕も行きます」
「ナルミとミサキは、アドフレスと合流してくれる? 確か、マイラ達の病室に居るから」
ユリシアは、二時間後に行われる隊長会議に向けて準備を始める事にした。ユリシアについて行こうとしたナルミだが、六番隊全員がマイラとタクミの居る病室に集合する様に命令されたのだった。
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