第6話 金獣の魔人(1)

「良くぞ! 集まってくれた!」


 魔人討伐団体に見つからない様に幻覚魔法で身を隠している魔人会は、ガレッズの意識を乗っ取った際に魔人討伐団体と抗争する事が決まった。


 魔人会のトップである『邪帝の魔人セデス』は、ガレッズを除いて魔人会幹部の三人を魔人会本部へと徴収をかけた。照明によって黒光りする二人掛けのソファが二つあり、そこに組長達を腰を掛けさせた。会長専用の席から一歩も動かずにセデスは全員が揃った事を歓迎した。


「いえ、こちらこそ本部へとお招き頂きまして心から感謝を申し上げます。セデス様」


 魔人会幹部の一人である『狐美の魔人サフィラ』は、幹部統括としてセデスに挨拶を交わした。少し嫌悪感を漂わせているセデスを、和ませるかの様にサフィラは挨拶に愛を込めた。


「大丈夫だ。いつも気を遣ってくれてありがとう」


「いえ、とんでもありませんわ」


 サフィラの照れた様子を見たセデスは、いつも通り癒されていた。他の幹部二人は、いつもの光景を見ているかの様に無反応であった。


「良し! 早速、本題に入ろうか!」


 元気が出たセデスは、本題へと移った。ガレッズ組が全滅した事、魔人討伐団体と抗争する事が決まった事を簡潔にまとめて喋った。


「あらぁ、それはそうなのですね」


「しかし、ガレッズの野郎は何故やられたのです?」


 幹部の一人である『魔女の魔人ロズ』は、素朴な疑問をぶつけた。ロズは、サフィラに抜擢されて組長になった魔人である。


「運が悪かったからだと思うよ。元々は、ガレッズを利用して魔人の恐ろしさを全世界へと知らしめようと計画していたが相手が悪かったからか全く駄目だった。だから、こいつの意識を乗っ取って宣戦布告をしたんだ。最後に、役に立ったから良しとしているけどね」


「相変わらず、セデス様は部下を利用するのが上手いですね」


「彼も、セデス様の役に立ってさぞかし喜んでらっしゃると思いますわ」


「まぁね。ガレッズ組は、使えないやつばかりだからこうするしか無かったんだ。だが、それに比べてサフィラ組から育つ魔人は強くて安心する奴ばかりだよ」


「光栄です。セデス様の為に、尽力した甲斐がありましたわ」


 サフィラ組から育った魔人は、組長へと成り上がっている事が多い。それぐらい、セデスはサフィラの事が大好きであり信頼している。


 ロズの隣にいる魔人もサフィラ組から組長へと成り上がっていた。その魔人は『金獣の魔人ブロイド』と言って、ロズと同じサフィラに気に入られた男の魔人である。ブロイドは、無口な性格ではあるが感情が揺るがない限り喋る事が無い個性的な魔人だ。


 ガレッズとサフィラだけが、初期メンバーの魔人会幹部であった。そこから、数回の入れ替わりがあり今に至る。


 セデスは、ガレッズの事を忘れたかのようにもう一つの議題へと移った。ガレッズの意識を乗っ取った際に、ユリシアと抗争の約束を交わした件についてだ。


「これに関しては、今の戦力で立ち向かう事にする」


「そうですわね。今の私達で勝てると思いますわ」


「それもそうなんだが、新しく増やしてる暇は無いからね。後は、一刻も早く邪魔者を消したいからかな」


 魔人会の勢力は、東京都全体を占める程である。それに比べて魔人討伐団体は、日本全国に勢力を広げていた。しかし、人数に関してはさほど変わらないとセデスは考察していた。


 魔人会が、引き起こした事件に関わった相手の戦闘員を合計で見た結果が戦力も人数もそこまで気にする事では無いと考察を公表した。


「ともかく、東京を管理している戦闘員はそこまで強い気がしなかったからね。しかも、今回はサフィラ組を中心に戦力を固めようと思うから全く心配無いね」


「そうですわね。私が気に入った可愛い子はみんな強くて逞しい子ばっかですわ」


「しかし、抗争する場所は何処にするか決まってるんですか?」


「それはね、最初から決まってるんだ」


 セデスは、ロズの質問に微笑みながら即答した。セデスは、とある高校を乗っ取り抗争できる場所へと変えようと告げた。埼玉県の近くにある東京都清瀬市の高校『進藤高等学校』にすると決まった。


「何故、学校にしたんです? 学校じゃなくても人が多い場所は沢山ありますのに」


「そうじゃ無いんだ。学校は、沢山の人の不幸のエネルギーが詰まっている最高の場所なんだよ。それに比べて、ショッピングモールとかは幸せなエネルギーが多いから無理だ」


「しかし、この時期の学校は卒業ブームで幸せなエネルギーが多いのでは?」


「それがね、この学校だけは逆なんだよ」


 セデスの言葉に幹部達は、良い予感が鋭く突き刺さったように反応した。セデスが選んだ学校は、卒業した生徒が五人も亡くなっており先生や同級生、その両親が悲しみに暮れていた。


 その負のエネルギーが、どの学校よりも強く存在している為、より強い魔人の力が使えるとセデスは判断した。


「しかし、相手も負のエネルギー効果で強く変化するのでは?」


「相手は負のエネルギーを使い切れていない。だから、そこは気にしなくて良い」


「そうですわね。私を始めとしてロズとブロイドを含めた戦力で魔人討伐団体を潰しましょう! セデス様」


「いや、ロズだけでいい。ブロイド組は、残っておいてくれ」


「どういう事ですの?」


「ブロイドの彼女であるフィロちゃんが、魔人討伐団体の奴と交戦している。だから、急いで行った方がいい」


 すると、今まで無口で一言も喋らなかったブロイドが怒り狂った形相で立ち上がった。


「お、俺の彼女に手を出すなぁー!!」


 セデスは、魔人会に所属している魔人や非魔人の危険を素早く察知する事ができる。ブロイドの彼女である魔人のフィロウスという魔人と魔人討伐団体の戦闘員が戦っている様子を察知してブロイドに報告した。


「ブロイド、彼女だけではない。複数のブロイドの部下が魔人討伐団体と戦闘中のようだ」


「俺の! 俺の部下にも手を出すなぁー!!」


「それは、大変ですわね。しかも、何故ブロイドの方ばっかり……」


「とにかく、急いだ方がいい。素敵な情報を待っているよ。ブロイド」


「うっす!!」


「ブロイド! 百五十億を貴方に貯金するわ。頑張ってらっしゃい!」


「ありがとうございます! サフィラ様!」


 サフィラは、ブロイドに百五十億円の金額を渡した。ブロイドの能力は、与えられた分の金額がそのまま自身の力へと覚醒する事ができる。その為、サフィラは手持ちの約二割をブロイドへと差し上げた。


 その大金を貰ったブロイドは、すぐ使えるように金色の紋章を全身に出していた。それを、見届けたセデス達だがロズだけは少し焦りを見せていた。


「セデス様! 先程のは本当なんですか!?」


「君は、さっきからネガティブだね。ネガティブになっていいのは、人間派の魔人とこの世界の人間だけだ」


「し、しかし! 抗争が決まっているのに喧嘩をふっかけてくるとは卑怯過ぎます!」


「俺からしたら想定内だ。手を出すなっていう約束は交わしていないし、相手は仕事で来ているからね。先に戦力を削いでおかないと後が困るみたいだ」


「そうですわね。ロズ、貴方の戦力が私の次に強いのよ。だから、ブロイドを潰したって何の問題も無いわ」


 サフィラとセデスは、手を取り合ったように話の呼吸が合っている。ロズは、その恐ろしさを知り黙ることしか出来なかった。


「まぁ、とりあえずはブロイドを信じるとしようかな。後は、大規模な魔人討伐団体が弱ってくれる事を祈るしかないな」


 セデスとサフィラの考えに理解できなかったロズは、ブロイドが無事に終わる事を願うしかなかった。

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