第4話 闘神の魔人(1)

「素晴らしい案だ。感謝する」


 団長に呼ばれたナルミ達は、本部の基地に足を運んでいた。ナルミ達は、てっきり反対されるのではないかと身構えていたが、逆に感謝をされた。


 そして、マイラが出した案がすんなりと通り正式に実行れる事を告げられた。ナルミ達は何も言えずに、十二番隊が解体されて新しく六番隊が結成される所を黙って聴く事しかできなかった。


「これより、六番隊は隊長のユリシアを始め、ナルミ・ミサキ・マイラ・タクミ・アドフレスの六人で構成する。なお、新たに隊長にふさわしい魔人が現れるまでは、十二番隊は解体し十二番隊の管理地区を一番隊に任せる」


 ムルスの発言により、マイラの意見が認められた事が証言となり誰もが納得する様子であった。本部の会議室には、たくさんのパソコンと事務員が配置されている。パソコンの光を頼りに照らされている程、周りは暗く殺伐としている。しかし、この環境の中で団長のムルスはありふれた笑顔で自身の失敗を認めていた。


「いやぁ、我は自分の能力ばかりに囚われておったから、そんな発想はあまり思いつかなくてね。我も、歳で固い発想しかできなかったんだ」


 ムルスの反省に、ナルミ達は理解に苦しんでいた。ムルスの能力は、天秤にかけて物事を判断していく。異世界でのムルスは、魔法学校の理事長であり魔法使いの代表格に君臨する程の腕前であった。そのため、たくさんのプレッシャーに耐え状況に見合った判断を今まで下してきた。


 しかし、マイラが手にした能力がかなり厄介で『量より質』といった実力であった。人数を増やしたいが、マイラが認める者しか配属させる事が出来なかった。その為、六番隊の管理地区に被害を起こす魔人の実力が高くなり、亡くなっていく数の方が大きくなっていった。


 それでも、隊長にふさわしい実力の持ち主のためマイラとタクミだけになろうと隊長を交代する判断を下す事は考えなかった。何度も六番隊のメンバー交代や解体をした方が、組織の総戦力が上がるのではないかと思っていたが天秤にかけた結果、隊長を変えた時の危険性が高くなっていた。


 しかし、マイラの案と自身の判断を天秤にかけた時にマイラの方が危険度が軽くなっていた。微妙の差ではあるが、マイラの意見を受け入れた方が組織の為になると感じたのだ。


「これからも、何か意見があれば遠慮なく言ってきてほしい」


「あ、ありがとうございます!」


「うむ。では、解散!」


 すると、数分程度で会議は終わった。周りにいる事務員達は、『早く帰れ!』と言わんばかりの形相でナルミ達を睨んでいた。


「し、失礼します……」


 ナルミ達は、殺伐とした本部の雰囲気に耐えられずに即座に本部から出て行った。団長のムルスは、ナルミ達がいなくなったのと同時に髭を触りながらにやけていた。すると、ムルスの近くに座って聞いていた白い服を着て不愛想な表情をしている女性事務員にムルスは話しかけられた。


「良かったのですか?」


「何がだ?」


「異世界の事とか能力の事とか、ベラベラと喋っていたので」


「いいんだよ、サキルナ。特に、ナルミとか言う新人の子にはアピールしないと」


「相変わらず団長は、変なお趣味をお持ちですね」


「今回は、そうじゃないぞ。違う意味であの子を気に入ったんだよ」


「その意味とは良い意味ですか? それとも悪い意味ですか?」


「どっちもだ」


 ムルスは、自身の部下であるサキルナの質問に不気味な笑顔で答えた。しかし、何を考えているのかはサキルナでも分からなかった。


 そのムルスに気に入られている事に全く気付いていないナルミは、マイラとタクミに緊張していた事を告げた。緊張していたのは、マイラとタクミも同じであり、マイラに関しては呆気なさ過ぎて何か裏があるのではないかと述べていた。


「とりあえず、あの団長に気に入られたらおしまいよ」


「え? 何かあるのですか?」


「あの人は、若い男に興味を持ってるからね。特に、性的に」


「せ、性的に……」


「そうだよ。噂だけど、さっき居た事務員の男性と体の関係を何人か持っているのではないかってね」


「想像したくないです」


 マイラは笑いとばしているが、タクミとナルミは想像したくない噂を聞いて身体の震えが止まらなかった。男同士であり、しかもおじさんと初めての経験を想像してしまい、鳥肌が立ってしまった。タクミは、マイラと初めての経験は済んでいるが、ナルミは未経験なので余計にムルスに対して警戒心が強まった。


 ナルミ達は、六番隊の基地に移動している。六番隊は、マイラになってから人数が減ったが、それまでは一番隊の次に並ぶ程の人数が多かった。そのため、基地は広く設計されており、かなり寂しい雰囲気だった。しかし、マイラはタクミが生きている事以外は気にも留めていない。


 車に戻ってマイラが運転している間、ナルミはユリシアとミサキの様子を見ていたアドフレスに報告をする事をマイラに指示された。ミサキは、昨日の昼頃に意識が戻っており、身体も起こしてご飯も喉に通るぐらいに復帰できていた。なので、明日からユリシアと共に復帰して通常業務に入れる事をナルミ達は耳にした。


 ナルミは、携帯を片手にユリシアと電話をしている時にマイラは空腹を感じてタクミ達に昼食にしようと言葉をかけて承諾を得た。そして、六番隊の管理地区に入って基地から少し離れた所にある『東山闘技場』に並んでいる屋台の飯をお腹に入れようと思い、闘技場の私有地である駐車場に止めた。ナルミは電話中のため、タクミの好きな物とナルミの好きそうな物を適当に買ってくると伝えて車を後にした。


「そうですね。明日は、僕が迎いに行きます。その時に、合流して行きましょう。ユリシアさん達にも伝えておいてください。では、失礼します」


「ナルミ、電話終わったか? マイラが、昼飯買ってくるってよ。ついでに今日は、ここの闘技場で試合があるんだけど、見に行きたいよね?」


「終わりましたけど、その事はマイラさんに言ってくださいよ。僕はどっちでもいいので」


「そんな事言わずに一緒に見ようよぉ」


 味気ないナルミに、タクミは甘えるようにナルミの肩を揺さぶった。タクミは、総合格闘技にハマっており、ここの闘技場で試合がある事を把握していた。


 東山闘技場は、全国の中で有名な闘技場の一つであり、試合の度にマスコミ関係者や観客でいっぱいになる事がよくあるのだ。しかし、今回は新人同士の戦いであまり注目の試合ではないので観客もマスコミ関係者も少なかった。


「ただいま! タクミとナルミの分も買ってきたよ」


「マイラ、これ終わったら今日の試合見ないか?」


「そう言うと思ったから、チケット買っておいたよ」


「さすが、マイラだ。愛してるよぉ!」


「分かってるよ! だから、ここに寄ったんじゃない!」


「やっぱりか! さすが、俺の魔人だ!」


「二人とも、普段はこういうノリなんですね。ついていけそうにはないかも……」


 タクミとマイラは、嬉しくなるとこういうノリになってしまう。お互いが、依存していて知り尽くしているので隣に居るナルミはついていけてない。マイラは、タクミの大好物であるホットドッグにコーラとポテトを渡して、ナルミにはオレンジジュースと唐揚げ弁当を渡した。そして、自身には野菜炒め弁当とウーロン茶を購入していた。


「二人とも、私の奢りだからおいしく食べてね」


「ありがとうございます」


「ありがとう!」


 そして、ナルミ達三人で昼飯を食べた後は六番隊の基地に行かずに闘技場に入って試合を見に行く事になった。その様子を見ていたナルミは呆れていた。


「それより、基地に移動しなくて良いのですか?」


「途中で、大事な用事を思い出してね」


「タクミさんの趣味に付き合うという事がですか? はぁ……」


「ナルミは、分かってないな。彼女とデートか仕事に行くか、どっちが楽しいと思ってんだよ」


「そりゃ、デートですけど仕事には行かないといけませんし」


「当り前だ。なら、大切な人の葬式に行くのと仕事に行くのはどっちを優先する?」


「ど、どういうことですか?」


「昨日の昼頃に依頼主が来て、弟が無理やり試合に参加されてるから助けてほしいという依頼が来たのよ」


「そう言う例えだったんですね。しかも、大事な用事を忘れていたとは……」


 ナルミが非番の日に、組織の情報員を伝って連絡がきた。魔人という存在は、国民の混乱を招くため公にしていない。ただ、魔人という存在を誰にも口にしない代わりに記憶を残して魔人の存在を把握できるようにしている。その一部の女性から、弟が魔人に拉致されて無理やり総合格闘技に参加させられる事を聞いた。その女性は、弟の身体を改造して魔人の玩具になると言う事も聞いたので怖くなり連絡をしたとの事だった。


「弟の特徴は、泣き虫で体格も喧嘩も全くのひ弱だそうよ」


「そんな男が、総合格闘技だなんて向いてないぜ。しかも、気持ちがあればなんとかなるのによ、無理やりなんだぜ?」


「確かに、酷いですね」


 情報員は、どういう能力を見たのかを言ってほしいと述べたが、本人は中々言える状況ではなかった。それ以外の情報は、情報員のトップである『電脳の魔人モルサ』によって、どのような扱いを受けられているのか等を調べていた。


 その結果、討伐をしたユボルグと元非魔人のシンゴと同じ『魔人会』の仕業だと言う事が判明した。その結果、被害者の身体を改造して総合格闘技という一般人にも知られている所で公に魔人の能力を使って、魔人の恐ろしさを思い知らせようとしているのではないかとモルサによって予想された。


「さてと、行きましょうか」


「あ、あの! このやり方じゃ、絶対に公になるやつですよね!」


「あいつらも私達も公になりかねないでしょうね」


「だったら、表沙汰になる前に裏口に入って早く事を終わらせましょうよ」


「それは、駄目ね」


「な、なんで!?」


「だって、楽しみたいんだもん」


 マイラは、ナルミの警告を受け流してタクミと総合格闘技を優先した。その事に不安になったナルミは、一人で動く事をマイラに告げて踵を返した。マイラは、関心を示さずにタクミと二人で楽しもうと意気込むのであった。


「ほっといていいのか?」


「良いよ。そっちの方が安全だから」

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