第3話 死愛の魔人(1)

 ユリシア率いる十二番隊は、今回の任務で大きな痛手を負った。しかも、今回の結果でユリシアに対する評価が変わりつつあった。


「ユリシア、大丈夫?」


 ユリシアが目覚めると、横にはナルミとアドフレスとマイラとタクミが佇んでいた。ユリシアは、ユボルグの戦闘後に安堵しつつ体力の限界に達してしまい倒れてしまった。


「あれ……。ミサキは……?」


「彼女は、他の病室で休んでいるからあなたも安心して横になってなさい」


 ユリシアは、ミサキの事が心配になって身体を起こそうとしたが、マイラに止められてしまった。マイラは、ユリシアが気絶した後に到着して倒れている一般人や非魔人達をトラックに乗せて基地まで運んできた。


 救援を呼んだのはアドフレスだ。ユボルグによってトラックが襲われた際に、怖くなって六番隊に救援を呼んだ。マイラとユリシアは、同期として仲が良いのでお互いに困った時は助け合うのだ。


「そう……。私って、情けないわね」


「まぁ、そんな時もあるよね。って言いたい所だけど、亡くなった数が多すぎて何とも言えない」


 今回の任務では、出動した人数は二四人であり、そのうち亡くなった人数は十六人、負傷した人数は六人であったと記録された。実質、無傷なのはアドフレスとナルミの二人だけだった。そして、魔人によって亡くなった人や負傷した人は基地の中にある病院に搬送された。


「な、なら! 海彦達も、あそこに!?」


 ナルミは、マイラの説明によって海彦達の事を思い出した。魔人が起こした事件に巻き込まれてしまい、今頃は楽しい思いをしていたのにそれが台無しになった。ナルミは、もし仮にまだ間に合うのなら紗枝や海彦達に会えると思った。


「まだ、火葬されてないと思うわ」


「なら……。会っても良いでしょうか?」


「良いわ。心の準備ができてるならね」


「こんな時にすみません……。行ってきます!」


「あっ! ちょっと!?」


「マイラ、良いのよ」


 ナルミは、ユリシアに助言されて息を荒くしながらユリシアの病室を後にした。マイラは、ナルミの行動に驚いてナルミを止め様としたがユリシアは見逃した。ユリシアは、自身の事より親友の事を優先した事を咎めなかった。この現実にナルミは、どう向き合うべきかをユリシアは学んでほしいとマイラに告げた。


「あの子の為にも、行かせた方が良いのよ」


「そう言う事ね。分かった」


 すると、病室の入り口から扉の開く音が聞こえた。そこには、年配の男性と高身長の男性がユリシアの病室に入室してきた。


「大丈夫かね?」


「あ! ジヤルドのおっちゃん。げっ! キースまで居るじゃん……」


「あ? 居て悪いか?」


「嫌味を言いに来たんなら、出て行ってよね」


 年配の男性は、『改竄の魔人ジヤルド』と呼ばれる魔人でチーム非魔人の非戦闘員である。主に、魔人による被害に会ってしまった一般人の記憶を書き換える事で被害者の辛い気持ちをリセットする記憶手術を得意とする魔人だ。


 一方の高身長男性は、『魔盗の魔人キース』と呼ばれる魔人で一番隊隊長を務める実力者である。異世界では、名の知れた盗賊団の幹部であった。なので、その経験を生かして現実世界では他の魔人の能力を盗んで自分の物にする事ができるのだ。そして、盗まれた魔人はキースを殺すかキースに返して貰わない限り自身の力が使えなくなってしまうのだ。


「俺に力を盗まれたいのか?」


「キース、そこまでにしときんしゃい」


「さすが、ジヤルドのおっちゃんだね。どっかの隊長と大違いじゃん」


「はぁ? 誰だそいつ……。言ってみろよ」


「マイラもいい加減にせんか! ユリシアの病室で喧嘩しに来たんじゃないわ!」


「はーい。すみませーん」


「ふん」


 ジヤルドは、マイラとキースの口喧嘩に止めに入った。毎回の事であり、ユリシアは呆れて相手にもしていなかった。


「ところで、ユリシアは大丈夫なんか?」


「身体は大丈夫よ。ただ、気持ちはまだ無理かも」


「まぁ、こんな後だから無理もないわい」


「その事だが、今回の任務で十二番隊の信頼は落ちている。だから、十二番隊の管理地区を一旦、一番隊が受け持つ事になった」


「そう……」


 ユリシアは、キースによる厳しい連絡に落ち込みつつも驚く事なく受け入れた。キースは、その事を言った後にユリシアの病室を後にした。マイラは、キースの不謹慎さに呆れながらもユリシアの事を気にかけていた。


「でもさ、目標の魔人は討伐できたし一般人の保護も完了したんだから良いでしょ」


「しかし、被害は最小限に留めるまでが任務内容なんじゃよ」


「で、でも……」


「良いのよ、マイラ。いつもありがとね」


 ユリシアのいつもと違う反応にマイラ達はやりづらさがあった。しかし、気まずい雰囲気の中、ジヤルドは本題へと入った。


「今回、十二番隊が相手したユボルグっちゅう奴なんじゃがな……」


「こんな時に何よ」


「大事な内容じゃ。マイラは、少し黙っといてくれるか?」


「へーい」


「そいつの非魔人じゃったシンゴっちゅう奴の記憶に入り込んだら、相手の情報が一部じゃが分かったんじゃよ」


 ジヤルドの話に全員が釘付けになった。ジヤルドによれば、『魔人会』と言う魔人が率いる暴力団組織にユボルグが組員として関わっていると言う事が分かった。


 他にも、消費者金融を経営している事も冤罪にかけられた事もジヤルドは語った。しかし、肝心の情報が見つからなかった。魔人会を治める統治者の情報をシンゴの記憶を辿っても見つける事はできなかった。


「残念じゃが、下っ端の奴には分からないようにしているらしい」


「だと思ったわ」


「でもさ、ユボルグっていう魔人の方は何か知ってるんでしょ? そっちの方を探ればいいじゃん」


「実は、試しにやってみたんじゃが、脳みそも死んでおったから無理じゃった」


「でしょうね」


「分かってんなら、聞くんじゃないわい」


 ジヤルドは、ユボルグの記憶を探る為に死体の頭に触れて能力を駆使した。しかし、五分以上経っているので人間同様に死んでいる事が分かった。マイラは、もしかしたら人間とは違って何か分かるのではないかと思い、ジヤルドに質問したが予想通りの返しがきたのでつまらなく感じた。


「じゃから、あいつがどんなに尽力しても無理じゃったし、わしも無理となると別の方法をとるしかないわい」


「あいつって、モルサの事でしょ?」


「そうじゃよ。あいつの監視を避けれる奴なんかとんでもない奴じゃよ」


 マイラが口にしたモルサとは、『電脳の魔人モルサ』と言う情報に優れたチーム非魔人の非戦闘員である。モルサは、周りにある防犯カメラやSNS等に侵入して情報を割り出す事ができる。ちなみに、その魔人の力でユボルグの居場所が特定できた。


 しかし、そのモルサがどんなに相手の統治者を割り出そうと尽力しても情報が見当たらないのだ。ただ、用心深い事だけはチーム全体が把握できた内容である。


「亡くなった人の数と糧になった数が割りに合わないね」


 マイラは、ユリシアの肩に手を乗せて無言で励ました。ユリシアは、心配したマイラの顔をただ眺める事しかできなかった。マイラは話が終わったと思い、ユリシアの病室を後にしようとするとジヤルドはまだ話が終わってないと告げた。


「え? まだ話あんの?」


「そうじゃよ。最後の話なのじゃが、これはマイラにも重要な事じゃ」


 ジヤルドは、今まで以上に真剣な顔で語りだした。ジヤルドの話では、マイラ率いる六番隊とユリシア率いる十二番隊が次の任務から一緒に出動する事が決定された。


「どういう事よ」


 十二番隊の管理地区を、一番隊が受け待った代わりに六番隊の管理地区に十二番隊も入る事が決定された。理由は、六番隊の人数が一番少ないからであり、マイラと相性の合う非魔人がタクミ以外現れなかった事に関係がある。


「マイラが、タクミに執着しすぎるから六番隊に戦闘員が送り込めないんじゃよ」


「そりゃそうでしょ! タクミ以外の非魔人なんてどうでもいいの。でも、タクミを助けてくれたユリシアは別なの」


「そういうとこじゃよ、マイラ」


「はあ?」


 非魔人には三つの種類がある。一つ目は、ナルミやミサキの様な魔人と契約に成功した非魔人Ⅰ型、カケルやケイスケの様な魔人との契約に失敗してしまい暴走したが手術を経てパッチン式ネクタイの様な魔道具を頼りに契約を完了した非魔人Ⅱ型、異世界人としてまだ魔人に覚醒できておらず魔道具を使用している非魔人Ⅲ型がある。近年、それは差別用語としてチーム内で大きな訴えがあったのでそれら全てを『非魔人』として省略した。


 その非魔人は、魔人を中心に成り立っている。しかし、マイラの場合はタクミとの相性が良すぎて他の非魔人を人数合わせで増やそうとしてもそれが邪魔して上手く増えないと言う難点がある。


 しかし、隊長に抜擢する程の実力があるので隊長の枠にマイラが座らざる負えないのだ。だが、ユリシアとマイラならお互い隊長として協力し合える仲だからこそ、今回の件で一緒になる事を団長は決定した。


「そんな事言われても、私は悪くないし他の奴が情けないからでしょ」


「確かに、その分の実力があるからこそ隊長を変えずにタクミ以外増やさない事を団長は結論されたんじゃ」


 ジヤルドは、ユリシア率いる十二番隊とマイラ率いる六番隊がタッグを組めば、六番隊の悩みは解消され、一つの隊として成立する事を団長は待ち望んでいる。


「そういう事ね」


「そ、そしたら十二番隊はどうなるのですか?」


 その刹那、今まで黙って聞いていたアドフレスからジヤルドに向けて質問が届いた。今の段階では、二つの隊が協力して管理地区を守る形となっているが、先に隊長にふさわしい魔人が現れたなら六番隊と十二番隊は合併して空席になった隊に新しくメンバーが編成される。しかし、その前にユリシアの全体的な復活が出来れば十二番隊に新しく戦闘員が編成される事になっていた。


「キースの奴、それだったらちゃんと説明をしなさいよね」


「キースなりに気を使った様に見えたんじゃがね」


「分かりにくいわよ、そんなの。でも、私は隊長を降りるわ」


「なぜじゃ? マイラが降りる事はないじゃろう」


「私の代わりにユリシアが六番隊の隊長になってほしいな」


「でも、今は無理よ。マイラ」


「何言ってんのよ。あんたはできるよ。私が引っ張っていくからさ」


「それはいくら何でも無責任じゃよ。マイラ」


 本当は、隊長として器が無いと言う事をマイラは自覚している。しかし、理由は分からずとも団長は六番隊にマイラを隊長として容認している。ただ、折角ユリシアと一緒に任務ができるとなればマイラは心置きなく戦えると発言した。


 ユリシアは、マイラに手を握られながらお願いされた。気持ち的に弱っている所を元気づけ様としているマイラを見ているとユリシアはどうしても断れ切れずに了承してしまった。


「だけど、私でいいのかしら?」


「大丈夫よ! 私よりユリシアの方が隊長として向いているんだから。それに、その方が私もやりやすいのよ」


「そういう事になったんじゃったら、わしから団長に言っとこうかの」


 マイラは、隊長の座を降りてユリシアを六番隊の隊長として譲り受け、自身がユリシアの隊に入ると言う事を提案した。ジヤルドは、自分勝手なマイラに呆れつつもその方が良いと判断したので団長に話を付ける事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る