第31話 聖女様の秘密のお仕事の終わり 1
「な、何?!」
「演技でなく、こういった場所に出ることは初めてでですね」
ふっと目元に優しい笑みをたたえてクレイストがレイリアを見る。
「そ、そうだね!」
クレイストに抱かれることなど珍しくもないのに、急に恥ずかしくなってレイリアはそっぽを向いた。
今日のクレイストは、いつものように自らの美貌を強調するような煌びやかな服装はしていない。
いつもの金古美色の髪を下ろし、同じ色の装飾がついたくすんだ藍色の礼服に身を包んでいる。
あえて目立とうとはしていないところが、余計に素地の美貌を引き立てているように見えた。
「おや。どうしましたか? 改めて私の美貌に惚れてしまったとか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ。見慣れているわよ、あんたの美貌なんて」
「そうですか。残念ですね。私はあなたの美しさに惚れ直していたところなのに」
「……え」
嫌みとも思えない口調に見れば、レイリアも今日はいつもと違う様相だった。
黒いつややかな髪は、いつものピンクブロンドの鬘で隠されることなく、たなびいている。
その髪には、澄んだ青い色の宝石がついた髪飾りがついている。
ドレスはくすんだ黄色で、どこか金古美色を思わせる光沢を放って輝いている。
背中が大胆に空いたデザインになっているが羽はたたまれ、襟元から流れる長いレースのケープでうまいこと隠されていた。
「これは……」
「私の目の色の髪飾りと髪の色のドレスですね。この時間軸の私はなかなか良い仕事をしたようです」
レイリアを抱き寄せると、その頭にクレイストは音を立ててキスをした。
「ちょ……! クレイスト……! 別に今は誰にあてつけなくてもいいでしょ!」
「前々から思っていたのですがね」
レイリアを抱き寄せたまま、クレイストは周囲に鋭い目を放った。
その迫力に、近くにいたレイリアと同じ年ぐらいの青年たちがそそくさと退散していく。
「私がここにいるのに、何の勝算があってレイリアに近づこうというのでしょうね。『お客様』の接待でもないのに、そんなことを私が許すわけがないではないですか」
「……えーと、つまり、それは……」
「別れさせ屋の最後の仕事は終わりました」
壇上ではステファンとクリスタニアが結婚の証明のキスをするところだった。
「これからは、私だけの聖女でいてくださいね。
なにせあなたは、私の婚約者なのですから」
そう囁き、クレイストはレイリアを抱きしめた。
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