第29話 聖女降臨

「……魔王が現れたから?」


 怒り狂うクリスタニアには、元の儚げな美しさは微塵もない。


「そんなわけ、ないじゃないですか」


 ため息をつくと、クレイストは小さくため息をついてレイリアの背中に手を回す。


「なにを……!」


 クレイストがかきあげるようにレイリアの背中を撫でると、ぶわああっ! と羽毛を散らして白い大きな羽根が広がった。


「う……うわああああっ?! 何コレ?! うわっ! 羽根だ! 気持ち悪っ! うわ! これ、動く!」


 ばっさばっさと羽根を羽ばたかせるレイリアに、クレイストはわざとらしくため息をつく。


「もっとこう……神聖な感じで覚醒、とかできませんかね?」


「だって、これ、私の背中から生えてるんだよ! うそでしょ!」


「どこか体調に問題は?」


「……羽根の付け根、痒い」


「……問題は……ないようですね!」 


 レイリアを抱いて飛んできた瓦礫から逃れたクレイストは、至極真面目な顔で言った。


「では聖女様。早速聖なる力で過去へ飛んでください」


「……はあっ?!」


「理論上はできるはずなんですよ」


 荒れ狂う暴風雨と瓦礫のせいで、教会はすでに崩れ始めていた。


「過去へって……自分で羽根で飛ぶことすらできないのに、時間まで遡れと?!」


「やれやれ、これはいきなり究極の二択、ということになりそうですね」


「二択?」


 クレイストはにっこりと笑った。


「ええ。今ここで二人で死ぬか、過去へ飛ぶか、です」


 言った瞬間に、クレイストとレイリアの足場が崩れた。


「天空回廊」は何本もの支柱に支えられて立っている。


 その足場が、もろくも崩れ、床が粉砕されていた。


「さて、二択のどちらを選ぶことになりますかね」


「だから……高層建築には耐久性に気をつけた方がいいと言ったじゃないの~!」


 抱き合ったまま、レイリアとクレイストは真っ逆さまに落ちていった。




 遠くでフクロウが鳴いている声が聞こえる。


 ふっと目を覚ましたとき、目の前は真っ暗だった。


「……地獄?」


 言った瞬間、頬をつねられた。


「いたっ!」


「おや、残念ながら地獄では無かったようですね」


「自分の頬でやれー!」


 痛む頬を撫でながら、レイリアは飛び起きた。 横にはクレイストが座っていた。


「……ここは」


「帝都ではありませんね。高い建物はあれしかありません」


 クレイストが指さす先には、森の中にたたずむ白い城があった。


「あれは……」


「帝国の辺境伯の城。『境界の守り火』と呼ばれている物だと思います」


「境界の守り?」


「王国と帝国の境にあって、両者の均衡を守るためにその武力と知力を持って戦っている辺境伯爵が住まう城だと聞いています」


「辺境伯の城……ステファンの生まれた場所?」


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