第26話 王子 VS 皇子
「……!」
驚きのあまり、レイリアは言葉を失う。
そのレイリアをちらり、と見ると、クレイストはステファンを睨み付けた。
「この聖女はあなたの聖女ではない。返していただきますよ」
「感動の兄弟の再会なのに、女の話ばかりか。冷たい弟だな」
剣を突きつけられたまま、ステファンは笑った。「なぜ、俺に剣を向ける?」
「おや。説明されなければ分かりませんか?」
「そんなにこの聖女が大事か」
「もちろん、大事な商売道具ですから」
「その商売道具でやってきたことは、王国の弱体化、だろう? その先に求めるのは破滅。違うか」
「……」
ステファンの問いにクレイストは沈黙をもって答えた。
「俺とお前は同じ目的に向かって進んでいる。兄弟仲良く手をとって、憎き王国を斃そうではないか」
「あなたと私の目的が同じですって? 馬鹿言わないでください」
眼鏡のブリッジを押し上げると、クレイストは好戦的な笑みを浮かべた。
「本当にあなたの目的が王国を滅ぼすことだというのなら、レイリアに手を出す必要はありませんよ。そんなに私が憎いんですかねぇ。そこまで執着される覚えはないんですが」
「お前もお前の母も、自分の欲望のままに周囲を巻き込む。自由気ままで人を惹きつける害毒だ。魔王というものが本当に存在するのなら、それはお前たちのことだと俺は思っている」
「母に八つ当たりできないからといって、息子である私にそれを肩代わりさせるのはどうかと思いますよ」
「お前の母である聖女は、王妃となった後心を病み、衰弱して死んだと聞いた」
レイリアの裏にクレイストの母の姿が蘇る。
もっともそれは肖像画で、レイリアは本人に会ったことはない。
レイリアがクレイストに助け出されたのは、王妃の葬儀の直後だったという。
そしてそれを淡々と話す当時のクレイストに、レイリアは違和感を覚えていた。
「私の母の死が何か? あなたにとっては、仇の末路のようなものでしょう」
「お前の父である国王が必要だったのは、聖女という肩書きを持った女であって、お前の母ではなかった」
「だから?」
「お前も、父親と同じだろう、と言っている」
「……」
ステファンはレイリアに目を向けた。
「可愛そうな聖女よ。お前は聖女であったから命を救われ、また聖女であったから今までこの男に連れ回されてきたのだ。このままこの男と一緒にいると、この男の母のように聖女として使い捨てられるぞ」
「聖女であるから利用してきたことは否定しませんよ。捨てる気はさらさらありませんけどね」
「これは驚いた!」
高らかに笑うと、ステファンはパンと手を叩いた。
「まだ否定すれば良心の呵責ぐらいは残っているのかと思ったが、流石はあのクソ王子の息子!
人でないものからは人でなししか生まれないらしい!」
ステファンはクレイストの突きつけた剣を握った。
白い手袋から赤い血がにじみ出る。
「なぜ、ひと思いにこの剣で喉をつかない。
それで全てが終わるだろうに」
「それはできない約束でしてね。クリスタニア、いい加減にあなたの用事も済ませてくれませんかね」
クレイストの後ろに控えていた女性が、静かにかぶり物を脱いだ。
そこには、衰弱した顔のクリスタニアがたたずんでいた。
「クリス……」
「なぜなのです……」
クリスタニアが一歩踏み出す。
クリスタニアの手で光の珠がはじけた。
「……!」
一瞬目をつむったクレイストの剣を掴み挙げ、投げ捨てるステファン。
そのステファンの手がレイリアに伸びるが、横から伸びた手にレイリアを奪われる。
気づけば、レイリアはクリスタニアに捕らわれていた。
クリスタニアの手には、光の刃がある。
レイリアを捕らえたまま、クリスタニアは震える声でステファンに言った。
「なぜ、私ではいけないのです」
クリスはステファンに詰め寄った。
「私も聖女です。確かにあなたが破滅させたい男の聖女ではありませんが、あなたに彼の国を滅ぼすだけの軍事力を与えることはできるでしょう。
私の方が、その子よりもずっと聖女の力を持っているのに!」
「かの国などどうでもいいのだ」
ステファンは表情のない声で言い放った。
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