第25話 即位式兼結婚式
「皇太子ステファン、前へ」
王宮の上にある「聖女の神殿」。
別名「天空回廊」は。文字通り空に浮いているような形をしている。
ただでさえ高層建築の城の上に何本もの支柱に支えられた大地を造り、その上に白亜の神殿が経っているのだ。
しかもその床はどうやって作ったかは知らないが分厚いガラス板を何枚も重ねてできており、高所恐怖症な人間だったら一発で気絶しかねない絶景を足下にも誇っていた。
「……この耐久性、信用できるんでしょうね」
高所恐怖症ではないものの、さすがに恐怖感を覚えてレイリアは呟いた。
そう言えば、前世で東京スカイツリーに上ったとき、これに似たものを体験したな、と思い出す。
この比ではないが。
そこで即位式兼結婚式が華々しく行われていた。 聖女の教会よりも数倍の大きさの白い神像と聖女像が、新皇帝と皇妃を見下ろしている。
その背後には各国の要人たちが祝いに訪れており、厳粛な雰囲気を彩っていた。
結局逃げる手立ても見つからず、レイリアは婚礼衣装を身につけ、ステファンの横に立たされていた。
婚礼衣装は聖女であることを見せつけるために、背中ががっつり空いているデザインだ。
厳粛な式にこんな破廉恥な格好で良いのだろうか、と首を傾げるレイリアだったが、式典の衣装など大体こんなものかもしれない、と思い返した。(せっかく綺麗に着れたんだから、クレイストにも見せたかったな……)
いつも別れさせ屋でドレスを着てもなかなか褒めてくれないクレイストだが、このいかにも「聖女」なドレスなら、なんだか認めて貰えそうな気がした。
何しろ、クレイストは「聖女」であることでレイリアを見いだし、一緒にいてくれたのだから。
ロランは近衛騎士が並ぶ場所に参列しているが、その実、横の騎士らに剣を向けられており、身動きできない状態だ。
壇上のステファンとレイリアに、次々と要人が祝いの言葉をかけていく。
「王国第二王子、コランドル殿下」
司祭に名を読み上げられ、頭からすっぽりと白いかぶり物を被った紳士と、その連れの女性が立ち上がる。
(あれが、クレイストの弟か……)
初めてやった別れさせ屋の仕事の際、隣国に留学していた弟・コランドルにレイリアは会うことはなかった。
きっちりと格式を守った歩き方に、レイリアは小さく微笑んだ。
(兄弟だけあって、動きがそっくりだな)
もし廃嫡されていなかったら、ここにいたのはクレイストの筈だっただろう。
コランドルと女性がステファンとレイリアの前に立ち、言祝ぎを述べた。
「あなたは一体、誰の物に手を出そうとしているか、分かっているのでしょうか?」
朗々と述べられた言葉と共にローブの下から突き上げられた剣は、ステファンの喉元に突きつけられた。
近衛騎士が動こうとした瞬間、ロランが動き、周囲の近衛騎士が崩れ落ちる。
「やれやれ、やっとご登場か。待ちくたびれたぜ」
コランドルは肩をすくめた。
「そちらこそ。レイリアを巻き込んでおいて、なんの手立ても打っていないなんて。無責任にも程がありますね」
「俺が無理に動かなくても、どうせお前が動くと思ったんだよ」
むくれると、ロランは司祭に剣を向けた。
ひっ、と司祭が小さく声を上げる。
「なあ、この結婚は無効だよな?」
「な、何を言っているのですか……」
「この人は、この国の聖女なんかではありませんよ。私の聖女だと言っているんです」
コランドルはかぶり物を脱ぎ捨てた。
その下にあったのは、廃嫡王子・クレイストの顔だった。
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