第24話 聖女様のお仕事……疑念
ステファンが去った後、メイドの大群が戻ってきて、あっという間にレイリア仕様にドレスは仕立てなおされた。
「嵐みたいな展開だった……」
「いや……。でも綺麗だったぜ」
ぐったりとソファに伸びるレイリアに、ロランは讃辞を述べる。
「ほんと? クレイストもそう言ってくれるかな」
ぱっと顔を輝かせるレイリアに、ロランは微妙な顔になる。
「そうだな……。怒り狂うんじゃないかな……」
「なんでよ!」
ぷっと頬を膨らませるレイリアに、ロランは「
なんでって、そりゃ……」と言葉を濁らせる。
「大体、なんで私と結婚することが殿下の願いを叶えることになるのか、よく分からないわよ。
殿下の狙いはクレイストの破滅なんでしょ。
全然繋がらないじゃない!」
「いや、多分、その計画の大部分を占めるのがお嬢ちゃんとの結婚なんだと思うんだけど……。
なんだかいっそ、可愛そうになってきたな、あいつ」
「可愛そう? 誰が?」
「……いや、それはそれとして、お嬢ちゃん本当にステファンと結婚するつもりなのか?」
「え? なんで? するわけないじゃん!」
ロランはえ? と目を丸くする。
「だって、あいつに優しさを教えてやるって、言ってただろ?」
「この結婚に、殿下が優しさを感じるとは思えないんだよね……」
レイリアは小首を傾げた。
「あくまでこの結婚は手段であって、目的では無いんだろうし」
「まあ、お前が同意しようがしまいが、即位式と結婚式はやる予定だろうからな」
レイリアは鉄格子の入った窓を見る。
頑健な造りのこの「牢獄」には、ステファンの頑なな態度を見るようでもあった。
「そもそも、人に優しさなんてどうやって教えるんだ? そんなもの、受け止める側次第でどうとでも変わっちまうだろう? ステファン殿下のご両親が互いに秘密を持ったのも、お互いを思っての優しさからだって考え方もある」
「誰に対する?」
「そりゃあ、息子だろうさ。しかし、その優しさがステファン殿下を傷つけていたのなら、結局ステファン殿下を救うのは優しさなんかじゃないってことにならないか?」
「でも、たとえクレイストを……その……やっつけたとしても、だよ、それでステファン殿下が幸せになるとは思えないんだけど」
「……うーん、まあ、幸せになりたいんじゃ無くて、クレイストを破滅させたいだけなんじゃないかな。俺にはちょっと、その辺の気持ちは分かる」
姉を殺された復讐をしようと、十年間雌伏の時を過ごしてきたロランの言葉だけに、レイリアは重みを感じた。
「じゃあ、なんでロランさんは復讐しようとしているの?」
「もう、復讐なんかしようとは思ってないよ」
レイリアの疑問に、ロランは笑って答えた。
「前にここに来たとき、あの馬鹿王子が誘拐されたと思って心臓が止まりそうになった。目の前が真っ暗になってさ。だから、あいつがひょっこり帰ってきたとき、思いっきり殴った。その後……、力の限り抱きしめたんだ」
ロランは遠い目をして自分の腕を見つめた。
「その時に気づいたんだ。俺、こいつのことが好きなんだなって。弟みたいでさ。傷つけるなんて、問題外だった。馬鹿だよな、本当。殺そうとして近づいたはずなのにさ」
ロランは、乾いた笑いを漏らした。
「今思えば、あんなクソ王子と結婚なんかしない方が姉上は幸せだったとも思うし、結局クレイスト自身にはなんの関係もないことなんだよ」
「ステファン殿下もそう思えたらいいのに……」
「難しいだろうなぁ」
ロランは腕を組んで空を仰いだ。
「自分が両親に愛されなかった原因を、異母兄弟に見いだしたときから、ステファン殿下は自分に呪いをかけちまったんだと思う。解けることのない、苦しみの呪いを、な」
「呪いを解くことこそ、聖女の務めなのにね」
レイリアは自分の背中にちらりと目をやった。
聖女だと言われても、結局自分にできるのは「別れさせ屋」の仕事だけなのだ。
できれば前皇帝とグレイシアが出会った時に、自分がそこにいられたのなら。
そうしたら、絶対にその二人の恋路を潰してみせるのに、とレイリアはため息をついた。
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