第23話 隠されていた真実 2……?
「教会の古い記録を探してみたら、確かにその書類が出てきた」
ぺらり、と一枚の紙を見せるステファン。
古びた紙には、教会の印が押されていた。
「え……。私、帝国の生まれだったんですか……」
「信じるなよ、お嬢ちゃん! さっき、この国の教会の連中は信用ならないって話をしたばかりだろ!」
ステファンから書類をひったくると、ロランは真っ二つに破った。
「……ご丁寧に古紙を装っているが、わずかに残る臭いから察するに茶葉を使った加工がされている。お前を帝国の聖女に仕立てるためのでっち上げだ」
「いくらでも破ればいい。そんな物、すぐに作れるからな」
「そこまでして私と結婚しなくても、本当の聖女であるクリスタニアさんとすればいいじゃないですか!」
ステファンは小さく鼻を鳴らした。
「もとより、クリスタニアは拘束する予定だった。クリスタニアでは、俺の願いは叶わないのだ」
「どういう……ことですか」
ステファンが1歩レイリアに近づき、その前にロランが立ちはだかる。
「……叔父上、邪魔だてされるか」
「……」
剣こそ抜かないが断固たる態度で立つロランに、ステファンは悲しげな笑みを浮かべた。
「母と俺は聖女と王子に全てを奪われたが、あなたですら、弟・クレイストにつくのか」
「……っ」
ステファンが1歩近づき、ロランはふっと横にそれた。
「ロランさん……」
「……すまない」
ステファンはレイリアの腕を引き、ぐっと抱き寄せた。
「……!」
「クレイストの聖女、お前は私と結婚して皇妃となり、共に王国を滅ぼすのだ。歪んだ世界をただすことこそ、聖女の役割だとは思わぬか」
レイリアはキッとステファンを睨み付けた。
「私は誰かに優しくしたくて生きてるの! 誰かを傷つける戦争なんて、絶対に嫌よ!」
特にクレイストを傷つけるなんて、絶対に許さない!
レイリアは、心の中で叫ぶ。
一瞬目を見開いた後、ステファンはふっと寂しげに笑った。
「お前の言うことは分からぬ。俺は優しくされたことなどないからな」
レイリアの脳裏に、なぜか前世の自分がよぎった。
「俺の父は母と乳兄弟の不義を疑い、母は俺が王子の子であることを父に告げなかった。俺は二人の不信の証であり、像徴だった」
ステファンを見る度に、彼の両親はお互いへの疑念と悔恨を募らせたのだろうか。
本来なら、第一王子と公爵令嬢の息子として、華々しい未来が約束されていたはずの自分。
その場所を奪い、その場所を捨てたクレイストに対するステファンの燃えるような思いが、焼けるようにレイリアには伝わってきた。
優しさのない世界で、ステファンはどのように生きてきたのだろうか。
レイリアに騙された振りをして甘い言葉を吐き、優しげに触れてきたステファンだったが、そこに真実の思いは感じられなかった。
誰にも優しくしなかった代わりに、誰にも優しくされなかったと言った、悲しい前世の自分と重なる。
しかし、今のレイリアには分かっている。
優しくされなかったのではない。
優しさを理解することができなかったのだ。
ステファンは、前世の自分と同じだと、レイリアは思った。
だから、優しくされるために自分ができることが、分からないのだ。
優しさが抜けた穴を埋める方法が、見つからなくていらだっている。
ステファンの行動はレイリアにはそう見えた。
「では、私があなたに優しさを教えます」
ステファンはレイリアの顎を指で掴み上を向かせると獰猛な笑みを浮かべた。
「ならば俺の言葉に従い、皇妃となれ。そうすれば万に一つも、俺はお前の優しさを感じ取り、言葉に耳をかすかもしれぬぞ」
噛みつくようにキスをしようとしたステファンは、ふと真顔になり、レイリアをロランに放り投げた。
ロランに支えられ、レイリアはほっと息をついた。
「接吻は式までとっておいてやる。それで聖女としての力を失っては、元も子もないのでな」
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