第22話 隠されていた真実 1
「私に弟はいませんが。便宜上」
「いや、今そういうの、いいですから。本当に本物のクレイスト兄上?」
「まあ、これは私の言葉ではないのですが」
コランドルは心底ほっとした顔をした。
クレイストはそれがどこか腹立たしい。
「……まあ、そういうわけで。子どもの遊びをそろそろ卒業する私は、優しい言葉をかけなければいけないのですよ」
「私に……ですか」
「まさか」
人間ここまで冷たい声が出せるのか、というほどの感情のない声を聞いて、逆にコランドルは安堵した。
「そのためにはまず、悪の大王に捕らわれているお姫様を救出する方法を考えねば。ふむ……。コランドル、あなた、そう言えばこの国には何をしに来たのですか」
「皇帝即位のお祝いに参ったのですよ。即位式となる聖女様との結婚式への招待状が届けられているのです」
ふっふっふ、と低い声で笑う兄に恐怖し、コランドルは1歩下がった。
「コランドル。あなた、お手柄です。いや、『あなたの立場』が非情に都合がよろしい。私にこんな無駄な時間を使わせた分、しっかり役に立ってもらいますよ」
「なんでもさせていただきます」
初めて見た兄のあまりに美しく、優しい笑顔にコランドルは「世界の終末は近いのかも知れない」と逆に恐怖を感じ、そう言わざるを得なかった。
そして、自分に兄とは違う半分の血を与えてくれた父に、心の底から感謝した。
場内がやけに慌ただしい。
「そりゃあ、即位式と結婚式のせいだな」
すっかりレイリアの部屋に居着いたロランが答えた。
「この町に入るときに言ったろ。皇帝になる条件は帝国の聖女と結婚することだって。だから帝国では即位式と結婚式が一緒なんだよ」
「じゃあ、お祝い事が一度で済むんだ」
「……そんな誕生日と年始めが一緒になった子どもみたいなこと言われるとな」
「……前から思っていたんだけど、帝国って代替わりの時に必ず聖女がいるの? その決まりだと聖女がいないときは即位できないことになるけど」
「まあ、建前上は、だろうね。本当の聖女かどうかなんて、服を脱がせるか魔王を倒すかしないと証明できないんだし、その辺は教会の神官たちのさじ加減だと俺は思うけど」
「なんか、いい加減だなあ……」
その時、突然扉が開き、ロランが身構える。
そこにいたのは、純白のドレスや装飾品を手にしたメイドたちだった。
「……なに?」
「お衣装の直しに参りました」
言うなりメイドたちはテキパキと室内を作業しやすいように整えていく。
ドレスを脱がせようとメイドたちが手を伸ばし、レイリアは慌てて自分を抱きしめて後じさった。
「な、なんで私のドレスを脱がせようとするんですか!」
「お衣装を聖女レイリア様にあわせて直すためです。本来なら新しいドレスをお作りするのが筋なのですが、時間が足りないもので」
「あ、新しいドレスってなんですか?」
「即位式の婚礼衣装に決まっている」
ふいに響いた声に、レイリアははっと振り返った。
「お前用に作ったものはないが、なに結婚した後いくらでも好きな物を作らせてやる。我慢しろ」
ステファンが腕を組んで立っていた。
人払いされ、メイドたちが外へ出て行く。
「いや別にドレスとか欲しいわけじゃ……って、なんで私が殿下と結婚することになっているんですか! クリスタニアさんはどうしたんですか!」
「牢に放り込んである」
「……は?」
レイリアはぽかん、と口を開いた。
「なんで……。クリスタニアさんはあなたの味方で、あなたが皇帝になるために必要な人で……。それに、私と結婚しても、他国の聖女では皇位継承権はないのでは……」
「お前は親も知れぬ孤児だったそうだな」
「え……あ……。よくご存じで」
前世はともかく、気づいたときには親は無く、スラムで生きてきた。
クレイストに出会う前のことを、随分と久しぶりに思い出した。
「お前の親は帝国の者だったそうだ。行商で王国に赴いた際、事故に遭って亡くなり、お前は行方不明になったそうだぞ」
「え……。そ……うだったんですか?」
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