「私ね、あと1年で死んじゃうんだって。」


いつものように放課後、君と教室で話していると、突然君は言った。表情の無い顔で。まるで、他人事のように。


「...ぇ?」


君の横で向かい合わずに君の話を聞いていた僕は驚きのあまり声にならないような声を出して、君の顔を見た。


「原因も、治し方も分からない。ただ、最期は段々と息が苦しくなって止まるってお医者さんは言ってた。」

「本当?ほんとのほんと?」


思わず子供のように何回も聞き返してしまう。だって、そんな事...


「本当。だからせめて、出来るだけ長く学校に通わせてってお願いしたの。友達とか、大輝くんとか、大好きな人達と一緒に居たいって。」


「そんな...なんとか治療法見つけられないの?」


言った後に思う。治療法があったら"治し方がわからない"なんて言葉の選択はしなかっただろう。


「" 無理 "って、症例が少な過ぎるんだって。あっ他の友達には内緒にしてね。腫れ物扱いはされたくないから。」


「大輝くんは特別で、この世の誰よりも大切にしたい人だから」


君は、これ以上僕に質問をさせないようにゆっくりと、隙を僕に与えず話した。


君は、どこか諦めたような、光の無い目をしていた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢


その日から君は前よりもっと笑うようになった。クラスメイトの前では意地でも弱ったところは見せたく無いらしく、僕にはたまに、その笑顔は作っているようにも見えた。


「ねぇ大輝くん!これ!美味しそう!!今日の帰りに行こうよ〜」


「今度のホームルームのレクリエーション、楽しみだね!」


そして、2人きりになると、よく泣くようになった。まるで、自分の中の溜め込んだ不安や毒を全て吐き出すように。


時には放課後の教室で。帰り道の時もあったし、お互いの家に行った時もあった。


「ねぇ大輝くん、生きたいよ....不安なの...すごく...もう...今度こそ...朝起きたら息ができないんじゃないかって....」


「ごめんね..こんなに面倒な彼女で」


僕は君の隣に居たい。君が安心して気持ちをさらけ出せる場所に僕はなりたい。そんなことを思った。


「あー先生になりたかったな〜」


いつものように2人で居て、不意に君が脈絡なく発した言葉。

"なりたかった" その言葉でフラッシュバックした。

****


「私ね、叶えたい夢があるんだ〜」

「どんな夢?」

「それはね〜中学校の先生になること。」


「私、頑張るよ!」

「うん、応援してるよ。」


****


クレープを食べた後に君が僕に話した夢や憧れも、すっかり過去のものになってしまったのだと実感した。



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