気づく。そして。

あの日、君が学校の屋上で自分の考えをほぼ僕にぶつけたであろうあの日。


実は自分の家に帰る事ができたのは、僕だけだった。 


屋上から降りて、帰路に着く。君と横に並んでいつものように歩く。


僕はふと思い立ってさりげなく君の手を繋ごうとする。でも、僕の手が君の手をすり抜けた。



一瞬、フリーズ。



凍った空気を君が取り繕うように、明るくいられるように話し始める。


「バレちゃったか〜最期くらい明るく終わりたかったんだけど。ごめんね。私、もう、死んじゃってるんだ。」


君は困ったように眉を下げる。


僕は理解に困った。まだ、学校に通えるくらい元気だったのに。どうして?どうして?




....その答えは君がすぐにくれた。




「私ね、交通事故に遭ったんだ。歩いてたら後ろから車がぶつかったの。一年前の今日。中学生の時に。ちょうどこの場所で。」


「...え?」

理解が追いつかない。そんなの聞いてない。知らない。


「学校では、先生達以外は知らないと思うよ?もしかしたら感付いてた人はいるかもだけど。お父さんとお母さんは私が幽霊としているのを知ってる。」


「私がお願いしたの。『消えちゃうまでは、普通にしてて。死んじゃった事は内緒にしていて』って。」


君は僕の心が読めているのではと思うくらい、僕が疑問に思った事の答え合わせをしていく。


「病気って言うのも嘘。その時にはもう死んじゃってたし。ただ、生きたいっていうのは本当だよ?あと、夢の話。先生になりたかったのも本当。もっともーーっと長くて楽しい人生でいたかった。それでね、事故にあった時に死にたくないって強く想ったら、1年だけ、猶予をもらえたの。に。」


さっきより力強い目で、真っ直ぐとこっちを見て、君は話す。


「大輝くんが私に触れたのは、私が触られるって認識して、少し意識を集中させるとこの世の生き物も、私に触れることができるから。」


つまり、高校生になってから僕が見ていた君は、幽霊だったというわけだ。


「ごめんなさい。嘘をついて。」


君は頭を下げた。僕は、何も言えなかった。


「もう少しで私は消えちゃう。大輝くんに気づかれなければ今頃自分の部屋でひっそりと消えていたんだけど、もう、そうもいかないね」


君はまた、さっき屋上で見たような寂しそうな笑顔を見せた。僕は言いたい事がたくさんあったけどあまりにも大きい衝撃で、何も言えなかった。


君は突然空を見上げた。


「そろそろ、消えちゃうみたい。ねえ大輝くん。私がいなくなっても、ちゃんと生きてね。お願い。約束。じゃあ、バイバイ。」


そう言うと君はもう暗くなった宇宙そらに、溶けていった。


急すぎる。僕はまだ、話したい事がいっぱいあったのに、君は最期までマイペースに先に行ってしまった。 


残酷なほどの夜の暗闇に僕は取り残された。








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