第16話 《夜天》決着

 雷光の魔力を練り上げ溜める。この一撃で体力の殆どを持っていかれるだろう。おそらく雷光の獅子座レグルスの召喚は解除されるので、倒しきれなければ武器を用いて抵抗する事になる。

 練り上げた魔力を右手に集中させる。右手に雷光の魔力がバチバチと激しく迸る。

 こちらの大技に気付いたのかリュカオンが遠吠えをする。そして勢いよく駆けて近付いて来た。

 こちらも地を蹴り走り出す。

 互いに接近しリュカオンは爪を振るい、俺は右手を打ち出す。


獅子王の砲撃ネメア・ブレイカー!!」


 ゼロ距離で魔力砲撃を放つ。砲撃はリュカオンへ命中し、魔力砲撃の爆発が響き渡る。砂煙が舞い辺り一帯の視界が悪くなった。


「はぁ……はぁ、ヒール」


 ゼロ距離で攻撃を行った結果、自身も衝撃の余波を受けた。ヒールをかけて傷を回復する。傷を治しても失った体力までは戻らない。予想通り獅子王の衣レグルスネメアひいては雷光の獅子座の召喚が解除される。

 さぁ、もう後はないぞ。


「『十二星座の王と巫女』に再接続、白銀の機剣!」


 本が白銀の機剣へ姿を変えた。白銀の機剣、夕姫を手に辺りを警戒する。

 あれで終わればいいけど、そんな簡単なわけがない。

 土煙が吹き飛ばされそこにはダメージは負っているがまだまだ余裕そうなリュカオンが立っていた。その表情はこれで終わりか?と挑発し勝ちを確信をしているように見える。


「勝ち誇るなよ……先輩!」


 こちらもまだ戦意喪失はしていない。機剣を構えリュカオンを睨む。それを受けてリュカオンは唸り声を上げ、爪を立てて攻撃してくる。


夕姫ゆうひめ!!」


 夕姫が淡く輝きその刃でリュカオンの攻撃を最小限の動きで迎え撃つ。空間切断の能力を発動させた刃は、リュカオンの爪を容易く切断した。

 夕姫の刃は通用する!それならこのまま攻める!


「ヤァァ!」


 リュカオンは唸り声を上げ応戦してくる。そのリュカオンの身に斬撃を与えていく。夕姫の刃はリュカオンを確実に斬り裂き、ダメージを与える。

 リュカオンが牙を剥き迫ってくる。こちらは夕姫を振るい真っ向から迎え撃つ。


「ハァァァ!!」


 リュカオンのあごと夕姫の刃がぶつかると一瞬空間に亀裂が走り元へ戻った。違和感と危険を感じ、リュカオンが顎を閉じきる前に、急いで距離を取る。

 リュカオンが顎を閉じると辺りの空間に穴が開く。その穴はすぐに修復され元通りになった。

 もしかしてリュカオンの顎は空間切断が?いや噛みついた瞬間に辺りの空間が削り取られた感じだから、次元喰らいディメンションイーターの可能性の方が高い。空間切断は空間ごと斬るわけだが、次元喰らいは喰われた空間の消失。次元喰らいに飲まれたら、死ぬのか別の次元へと飛ばされるのか……。謎ではあるが言えることは、この世界から消えるという事。

 ともかく間一髪で避けることに成功する。しかしここで、体力の限界を向かえてしまう。手にしていた白銀の機剣が本の姿へと戻る。


「はぁ……ここまでか」


 その場に仰向けに倒れ込む。もう動く体力が残っていない。


『なんだ、もう終わりか?』

「今出せる全力は出しきったよ……って誰?」

『我は夜天のリュカオン。夜と地を司る者。破壊神様が用意した試練、終焉をもたらすの眷獣の一体なり』


 ……意思の疎通が出来るのかよ。いや、出来て当たり前か。神様が生み出した眷獣なんだから、その辺の魔獣などの獣より賢いはずだ。


『なかなか楽しめたぞ』

「そりゃどーも」

『流石は******。力を制限された状態で、我と渡り合えるとはな』

「流石は……何って?」

『失言であったな。それより汝を見逃そう。強くなり再び挑むがいい。その時こそ、決着をつけようぞ』


 それだけ言うとリュカオンはどこかへ去っていく。

 見逃された……。どうやらリュカオンは俺の強さを測るために現れたようだ。俺の中の直感が言う。俺は破壊神様の試練、三体の眷獣を倒さなければいけない。己と神器を成長させ、強くなって再び挑もう。


「絶対負けない……!」








 決意を新たに、動ける程度まで休んでから王都へと戻る。王都到着したのは日が昇った頃だった。

 宿へ一度戻り休んだ後ギルドに向かい依頼の完了処理を行う。その時に夜間に出ていたことがバレてこっぴどく注意を受けたが、後悔はしていない。ついでに夜天のリュカオンと交戦したことを伝えると、リュカオン相手に逃げるのではなく交戦し生き残った事を実績として認められ、冒険者ランクがB級からS級になった。

 その際聞いたのだが、S級が存在しないのは遭遇して生き残った事を証明が出来ないからだとか。遭遇して運良く生き残っても、遭遇して生き残った証明。これが出来ないのだ。冒険カードに記録されるのは、討伐したとき。なので交戦しても記録が残らず証明が出来ない。しかし今回は、称号が交戦して生き残った事を証明していた。

 称号獲得の条件を訊ねられたが、正直に分からないと答えた。だって言われて初めて気づいたのだから、分からないと言うほか無いでしょ?

 とまぁそんな訳で、初のS級冒険者が誕生しました。いや自分の事だけど、ウソみたい。だって最近まで記憶がない冒険者でしかなかったのに……B級から一気にS級に昇格してんだもん。

 そうそう、リュカオンと交戦した事でステータスが成長していた。今は……


 アビリティ

 力:C→B

 耐久:B→A

 器用:A→S

 敏捷:B→A

 魔力:EX→∞


 スキル

 回復魔法、補助魔法、全耐性、空間収納アイテムボックス


 称号

 ****** 《夜天》の試練に挑みし者


 神器

 魔道書庫アーカイブ


 となっていた。わぁお……魔力がついに∞だって。要するに際限無し、魔力切れすることがないってことだよね。あとは体力さえつけば……。と言っても試練と言う激戦を乗り越えたから、ステータスに変化があったと考えれば、これら先はかなり普通に戦っても、ステータスはそう簡単には変化しない事だろう。

 ……それにしてもこのステータス、もしかしなくても俺ってただの人じゃない感じっぽいよな。聞き取れなかったけどリュカオンも何か言ってたし。

 ……おそらく、失われた記憶に何か秘密があるんだろうな。

 王都に留まっていたけど冒険者ランクもS級になったことだし、いい機会だ。本格的に旅をしよう。リュカオンや他の試練の眷獣たちを倒すことが出来るように、強くなるために……まずは体力作りと神器を使用した特訓を実践形式でやっていこう。

 それが俺の記憶を取り戻すためには、一番の近道な気がするから。

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