第15話 《夜天》戦闘

「な、なんだ!?」


 突然の遠吠えに驚き、揺らぎから目を離す。次の瞬間、何かに叩き飛ばされる。

 何とか受け身を取りダメージを軽減する。


「ッ!ヒール!」


 すぐさまダメージの回復を行い万全な状態にすると同時に重識の天秤座リブラの魔レンズによるアナライズが完了する。

 揺らぎの正体は『夜天のリュカオン』。魔レンズを通さないとよく見えてなかったのは、見慣れていなかったから。夜天のリュカオンの毛皮はその場に溶け込む光学迷彩で、見分けるのは至難の技。現在は魔レンズを通さなくても視認可能。

 へぇ、夜天のリュカオン……。リュカオン!?

 見るとそこには巨大な狼がいた。

 魔道書庫アーカイブの『知恵の神獣と行商人』で呼び出す賢狼も大きかったが、それよりもふた回りほど大きい。


「まさか、そっちから来てくれるとはね、先輩」


 ……?先輩?何で今、夜天のリュカオンの事を先輩なんて言ったんだろう?

 疑問を浮かべているところにリュカオンは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

 疑問を後回しにして、今は勝つ生き残る事を考えねば。

 魔道書庫アーカイブを閉じて重識の天秤座の魔レンズを解除する。魔レンズが消えてもリュカオンを視認できる事を確認し、すぐさま魔道書庫を開いて接続を開始する。


「『十二星座の王と巫女』に接続、現れよ、雷光の獅子座レグルス!!」


 雷光の獅子座が現れリュカオンとぶつかり合う。リュカオンと雷光の獅子座のぶつかり合いは凄まじく、一進一退の攻防であった。

 魔力がぐんぐん持ってかれている感覚がある。これはもしかしなくても劣勢なのか。……短期決着を狙うか。


雷光らいこう獅子ししよ、我が身にまといてころもと化せ!」


 雷光の獅子座レグルスが輝きを放ち、俺の身に纏う衣となる。そのためリュカオンの攻撃は空振りをする。

 さぁここからは時間体力との勝負だ!

 地を蹴り飛び出す。リュカオンの懐に潜り込みアッパーを繰り出すが浅く、少し掠めていく。

 リュカオンの前足による払いが迫り、後ろへ跳んで回避する。


「雷光!!」


 雷光の魔力弾をリュカオンの顔面に向けて放つ。リュカオンは向かい来る魔力弾に噛みつき喰らった。

 今、少し苦しそうなうめき声を上げたような……。魔力弾が効いたのか?となると可能性は3つ。1、雷属性の攻撃が有効。2、光属性の攻撃が有効。3、雷光の攻撃が有効。

 少しであった事を考慮すると、3の攻撃ではない。ならおそらく、1か2のどちらかはリュカオンに対して特効属性である。左手に雷属性、右手に光属性を集中させる。


「ヤッ!」


 気合いを入れ直し、再度接近し近接格闘による攻撃を行うと同時に観察を行う。

 するとリュカオンは右手の攻撃を避け嫌っている節がある。おそらくは光属性の攻撃はリュカオンに対して有利な特効属性に当たるのだろう。

 じゃあ何で有利な属性を持つ雷光の獅子座が劣勢になったんだ?何か見落としがあるんじゃ……

 攻め手より思考にリソースを割いた瞬間、それをリュカオンは見逃さなかった。迫り来るリュカオンの払い攻撃への反応が遅れてしまった。


「がはっ!」


 避けきれず、攻撃を受けて吹っ飛ばされた。もろに攻撃をくらい、ダメージを負いながらも立ち上がる。


「はぁ、はぁ……ヤバイな」


 呟くと同時に気付いた。夜天のリュカオンは、遊んでいるだけだ。リュカオンの攻撃は、払い踏みつけ体当たり主体。一番の武器であろう牙による攻撃は一度もない。おそらく……いや確定で本気を出していない。遊ばれている。実力的にかなりの差は覚悟していたが、よもやここまでとは……。

 獅子王の衣レグルスネメアを纏っていられる時間はおそらく、そう残っていない。次の一撃が雷光の獅子座の衣状態でのラストの攻撃になるだろう。

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