第9話 護衛依頼

「ちょ、敵じゃない!」

「信じられると思うか!」


 従者の子が短刀を振るい主が逃げる時間を稼ごうとする。


「マリヤ!その人は敵じゃない!」


 馬車からもう一人女の子が現れ、従者の子にやめるように声を掛けた。それを聞き従者の子は主の側まで戻り短剣を構えている。


「本当ですか、お嬢さま。よく見てくださいよ。」

「……取り敢えずマリヤ、この人に敵意は無いわ。剣をしまいなさい」

「お嬢さまがおっしゃるなら」


 従者の子が短刀をしまうのでこちらも神器をしまう。お嬢さまに何らかのスキルがあり、それによって判断しているようであった。

取り敢えず敵ではない事を示すためにも、一応自己紹介しておくべきか。


「え~っと、俺は冒険者のマシロ。今は王都へ向けて旅をしているところ、この現場に遭遇した感じだ。とりあえずキミたちの敵ではないよ」

「マシロさんですね……あの」

「お嬢さま、彼との話をする前にひとまず護衛たちを弔いませんか?放置しますと、魔獣が寄ってきてしまいます」

「っと、そうですね。マシロさんも手伝って貰っても良いですか?」

「じゃあ盗賊の処理を俺がやるよ」


 ひとまず警戒されつつも、遺体の処理をすることで話がまとまる。遺体は全て近くの茂み付近へ埋める。

 作業が終わるのを待ってお嬢さまが声をかけてきた。


「感謝します、マシロさん」

「お礼はいいよ。助けるかどうするか、一回悩んだし」

「でも見捨てませんでしたよね。だから助かりました」


 ちょっと罪悪感が……。


「挨拶が遅れました。私はアミュスフィア伯爵家、レオナお嬢さまに仕える、マリヤと申します。こちらのお方が、レオナお嬢さまです」

「レオナ・アミュスフィアです!」


 伯爵令嬢……やっぱり貴族だったか。そりゃそうだよね。馬車に家紋みたいなものついてたし。


「マリヤさんとレオナさんね。それで、襲われた心当たりはあるのかな?」

「それは……伯爵家ですから。無いこともないと思いますが……今回の賊はこの辺りを根城にしていた野盗でしょう」


 俺の質問にマリヤさんが答える。マリヤさんの話だと、急遽領地から王都の屋敷向かう途中だったとのこと。そのため護衛の殆どが新人で戦闘経験がない者ばかりだったと。最後まで頑張っていた二人が唯一経験のある護衛だったそうだ。


「何と言うか……災難だったね。これから二人はどうするの?」

「そのことなのですが、護衛が全員倒れ、同じような襲撃があった場合、私一人ではお嬢様をお護りできません。そこで、マシロさんに護衛の仕事を頼みたいのですが、可能でしょうか?」


 護衛依頼か……目的地も同じだし問題ないよな?


「お礼は王都へ着きしだい、払わせていただきますので、どうかお願いできないでしょうか?」

「ん、まぁ自分でいいのなら、かな?」

「ではお願いします」


 二人の護衛をすることが決まる。と、問題になってくるのは馬車をどうするか。馬も殺られてしまっているため馬車は引いていけない。


「馬車は置いていきましょう」

「ですが……」


 レオナさんはきっぱりと言うが、マリヤさんが難色を示す。確かに令嬢に残り距離を歩かせることに抵抗がある。

 ん~、魔道書庫アーカイブでどうにか……いけそうかな?


「ちょっといいかな?」

「マシロさん、何かアイデアでも?」

「ん、そうなるかな。見てて。魔道書庫アーカイブ、『知恵の神獣』に接続、現れよ賢狼」


 本が輝き、大きな狼が現れる。


「賢狼。悪いんだけど、馬車を引いて貰えるかな?」


 賢狼は頷き了承してくれた。元々ほどよく狩れたあとの移動は、この賢狼の背に乗って移動するつもりであった。とりあえずこれで、馬車の問題は解決だ。

 一連のやり取りを見てマリヤさんが驚きつつも納得した様子で喋る。


「召喚系の神器持ちでしたか」

「万能系じゃないかな?いろいろ出来るから。それより二人とも馬車に乗りな。俺は賢狼に乗って」


 警戒すると言おうとするとレオナさんが遮って提案する。


「マシロさんも一緒に乗って、いろいろ話しませんか?」

「えっーと、いいのかな?」

「お嬢さまがおっしゃるのなら、構いません」


 という事で全員が馬車に乗り込み、出発する。

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