友人

 清々しい朝。既に衣替えは行われており、ちらほらブレザーに袖を通す生徒たちが増えてきた。その一人である詩音は未だに曇っていた。

 文化祭を祝うような快晴が恨めしく、懸念を積もらせる詩音は机に突っ伏していた。


「おいおい、文化祭だぞー。辛気臭い顔をしてどうしたの。相談事ならいつでも聴くよ」


「あ……それがね――」


 友人に話し掛けれ、丁度良いと思った。厚意に甘えさせてもらい、詩音は昨日あったことを説明した。


「ふーん……文美先輩が見知らぬ男と自宅に……」


 顎に手を添え、探偵のように考え込む友人。いや、それよりも気になることがあった。


「家まで後をつけるなんてストーカー行為だよ。っていうかそもそも詩音って文美先輩のことが好きだったんだ」


「あ、あれ? 言ってなかったっけ?」


 そう、言っていない。普段、友人が揶揄うことはあったが、実際に詩音が好きだと明言するのは初めてだった。

 それを自覚した時、詩音の頬は見る見る赤に染まっていった。友人は「今更だよ! 第一、詩音が文美先輩を好いていたのは知っていたし!」と声を荒げたかったが、敢えて沈黙を貫いた。


「でも、大丈夫だと思うけどなぁ……」


 真剣な面立ちで友人は立ち上がり、窓の外を見た。


「この前、文美先輩が弁当を貰い来たでしょ?」


「ああ、あの時ですね。それがどうかしましたか?」


 一週間くらい前の事だろう。友人にこれからは文美と昼食を共にした方が良いと言われ、きちんとそれを実施していた。


「詩音は気づかなかったようだけどさ……あの時の文美先輩は物凄く怖かったの。もう、親の仇を見るような殺意を向けられたよ」


「そうなんですか?」


「うん。ありゃ多分嫉妬だよ。私が詩音を盗ったとでも思ったんじゃないかな?」


「えぇ!?」


 まさか水面下でそんな脅迫紛いな事が起きていたとは、知らなかった詩音は驚愕した。が、その表情はどことなく嬉しそうで、友人は肩を落とした。


「私が命の危険を感じたというのに、詩音は随分と嬉しそうだね」


「だ、だって……少なくともご主人様は私を好いてくれている証拠でしょ?」


 詩音は紅潮しながら小声で呟いた。

 近くにいた友人にはしっかりと聞こえ、再び詩音の目の前に着席する。


「で、詩音はどうするのさ。いつまでもくよくよとしている場合じゃないよ。嫉妬してくれているとはいえ、その男性とどういう関係かも分からないし、まさか彼氏だったりして……」


「うっ……」


 脅すような口調の友人に、詩音は言葉を詰まらせた。直視したくない現実を突きつけられた気分である。


「行動は早い方が良いよ。今日、告白しちゃいな。応援しているし、何かあるなら私も手伝うからさ」


 詩音にとって心強い言葉だ。自分の中にあった不安感が少しずつ拭われていく。

 前髪を弄りながら格好をつけた友人はフッと笑って立ち上がった。感慨深い詩音を放置して、教室の外へ出ようと扉を開いた。


「何をしている? そろそろ朝礼だぞ?」


「あ、はい……」


 丁度、入ってきた先生にそう言われ、再び着席する友人。その表情は気まずそうに俯いていて、羞恥から耳が赤くなっている。

 締まらない姿に、詩音は思わず笑ってしまった。

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