第9話VSオウム 3−2

「ふあ〜」


 とりあえず、手に乗せていた『ウルギ』を机の上に下ろし手を洗う。オウムの『ウルギ』は伸びをするかのように羽をその場でバッサバサと羽ばたかせていた。


 本当に呑気な奴だ。俺がどんな思いをしてこの『ウルギ』を預かっているのか知りもしないで。



『はぁ〜 マジかよ』


 突如として聞こえた謎の声。俺の声ではない…… 部屋には俺しかいないはずなのに…… この妙な声……


『やってらんねえよ』


 まさか、『ウルギ』が喋っているのか!? 

 俺が『ウルギ』の方向へ目を向けると、どことなく落ち込んだかのように項垂れていた。


「あ、もしかして旅行で置いてけぼりにされたことを悲しんでいるんか?」


 俺がオウムに問いかけてみると、緑の『ウルギ』は『キィー』っと奇声を上げながらバッサバッサとまたも大きく羽を羽ばたかせ、俺に向かって風攻撃をけしかけてきた。


『うるせえよ! ったく、なんでこの俺がこんな野郎の部屋に居なきゃならねーんだよ!』


 よく喋るなあ。しかもやたらと流暢だ。ヨシ君のやつ、一体どんな調教をしたんだろうか……


「あ〜あ、かわいそうに。お前は家族と見なされてねえみてえだぞ。残念だったなあ」


 俺がわざとらしく嫌らしい口調で言ってやると当のオウムは『ふお!?』っと声を上げこうべを垂れてしまった。 


『マジかよ…… 俺、絶対一緒に行くと思ったのに……』


 結構萎えているな。

 そりゃそうか、旅行に置き去りにされちまったもんな、俺だって萎える。




「ってかお前、言葉通じるなら忠告しておくけど、部屋ん中でクソするんじゃねーぞ。するんだったら外でやってくれ」

『はぁ? ここ一瞬トイレかと思ったぞ。こんなトイレみてえな部屋でクソしちゃダメなの!? 信じらんねーよ』


 こ、コイツ中々生意気だな。オウムのクセしてふざけたこと言いやがって…… 一体誰に似たんだよ。

 落ち着け俺…… 相手はただのオウムじゃねえか……


「あと部屋の中で暴れたりするの禁止な。鳥籠ねえからといってお前を自由にさせたわけじゃねーからな」

『んだったら鳥籠用意してしっかりと管理しろや』


 お前の飼い主が鳥籠よこさなかったのが原因だろーが! なんだこの鳥、さっきから変なことしか言わねえんだけど。

 お前は鳥なんだから動物ニュースに出てくるインコみてえに『コンニチワ』とか『イターダキマス』とか言ってればいいんだよ! 可愛くねえぞ。


 ……まぁいいや、俺の忠告したいことは全部できたし、あとは適当にしておけばいいだろう。明日にはヨシ君帰ってくるし、今日一日の辛抱だ。


 そういえばまだ俺は朝飯を食っていなかったので、とりあえず朝食の準備をすることにした。今日もいつもと変わらない米国ゲロッグ社が誇る珠玉のシリアル食品『コーンフロマイティ』だ。

 

 俺は『コーンフロマイティ』をお皿に移しシャクシャクと食べ始める。相変わらずうめえな、全然飽きねえぞ……


 っと、食っている間に妙な視線を感じる。他でもないオウムの『ウルギ』から発せられるものであった。


 何だよその目、お前には一粒たりともやんねえからな。

 

『腹減ったぞ、何か食わせろ!』


 地団駄を踏みながら急に『ウルギ』がそんなことを言ってきた。


「はあ? お前夕食1回で十分じゃなかったのかよ!? まだ朝だぞ、飯にはまだ早すぎるだろーが」


 確かコイツは夕方に1回だけ餌をやれば死なないサルでも育てられる生き物だとさっきヨシ君が言っていたような気がする。こんなタイミングで腹減ったなんて昨日飯食わせてもらってねえのか? 

 ヨシ君、ちゃんとコイツの面倒見ろよ……


『んなわけねえだろ! それは俺が死なない最低限の食事回数だ。お前だって夕飯一食にされたって死なねえけど腹が減るだろ!!』


 なんちゅう我儘な鳥だよ。ここはヨシ君の家じゃなくて俺ん家なの、俺ん家は最低限の飯しか出ねえの。食い過ぎたって太るだけだろうが。


「知らねえよ、死ななきゃいいだろ。そんなの俺にとっちゃ知ったことじゃねえよ」


 『コーンフロマイティ』を口に運ぶ。あ〜 美味しい。腹を空かせたオウムの前で食う飯はうまいなあ、ピクニックに来たみたいだ。野鳥にしては随分とけったいな柄をしているが……


『おい! そんなふざけたこと言うな!!』

「焼き鳥だったらすぐに用意できるぞ。フライパンの上に寝転んでくれれば作ってやるぞ」 



 俺が皮肉たっぷりにそう言ってやると『ウルギ』は『キィー!』と声をあげて怒り出す。

 さっきみたいに風をおこされて皿の上にある俺のフロマイティを全部吹き飛ばしやがった!!


「な!? やりやがったな! 俺のフロマイティを!!」


 無様に床に散らばる『コーンフロマイティ』。なんてことをしてくれるんだ!! 俺の大事に朝飯がこんなことに……!? とんでもないことだぞ、これは……


『はよ飯出せや!』

「はあ!? こんなことしくさって、だだじゃおかねえぞ! ガチで焼き鳥にすっぞ!!」


 俺の言葉を聞けばまたも『ウルギ』が『キィー!』と奇声を上げて威嚇をし始める。やめてくれ、それ結構うるさいんだ。近所迷惑になっちまう。


 お、落ち着け俺…… 相手はオウムだ。オウム相手に俺は何マジになっているんだ…… 一旦冷静になれ…… 俺は人間様なんだ、オウムごときで熱くなってはいけない……


 数秒深呼吸した後、とりあえず俺は床を掃除する。あ〜あ、俺の朝飯が…… もったいない。




「ったく、文句の多い鳥だ。メシィ? 芋虫とかミミズでいいんか? 窓開けるから自分で調達しに行ってくれ」

『そんなもの食えるわけねえだろ! ちゃんとした『オウム用の餌』を与えろや』


 ……そうなのか? 鳥って虫とか食っているイメージがあるんだけど……

 


「『オウムの餌』? んなもんウチにねえよ。あ、冷蔵庫の中にきゅうりがあるけどそれでいいか?」

『全然違うじゃねえか! クワガタじゃねえんだからそんなもん食わねえよ!!』


 なんなんだよコイツ。俺の家にオウムの飯なんてあるわけねえだろ。それと近似したやつで今日は我慢してくれよ。


「ねえもんはねえぞ! 今から窓開けるから、近隣の家に行って勝手に食ってこいや」

『俺にドロボーさせる気かよ!? できるわけねえだろそんなこと! お前がなんとかしろや、人間だろーが!』


 人様の家に上がり込んでメシを要求するあたりドロボーのそれに似たようなもんだろ既に。何言っているんだコイツ。


「はーあ? 俺に『オウムの餌』を作れって言うのか!? 仕方ねえな、今材料取りにゴミ箱漁ってくるから少し待ってろ」

『俺の腹をぶっ壊す気か!? やめろや、お前が作った『オウムの餌』なんて食いたくねえわ!! 絶対サルモネラ菌入ってるだろ!?』


 せっかく俺が手塩をかけてお手製の餌を作ってやろうとしているのに全力で拒絶されてしまった。何が問題なんだよ、俺が料理することなんて相当珍しいのに、瞬時に断りやがってよぉ。失礼な香具師だ。


『無いなら餌を買ってきてくれ! ほら、近くの『ゐをん』にあるから!』

「『ゐをん』に?」


 『ゐをん』というのは俺の近所にある大型ショッピングモールのことである。あそこは24時間営業しているので朝の7時である現在も営業しているが…… わざわざそこまで買いに行ってこいというのだ。


 鳥のクセに餌を買う場所まで抑えているなんて浅ましい奴だな。鼻から餌を買ってもらうことを目論んでいたのか……?


「なんで俺が『ゐをん』まで行って買ってこねえといけねえんだよ! 贅沢だぞ、お前なんて床に落ちている米粒で十分だろ」

『俺は雀じゃねえから米食わねえよ!』


 あれ? コイツ、好き嫌い無いんじゃなかったっけ? ヨシ君も適当なこと言ってるな。さっきからかなり選り好みされているような気がするんだけど…… 好き嫌い無えなら何でも食えや。


『これ以上ゴネゴネ言うと、部屋の中で暴れ散らかしてお前のシリアル食品に実弾投下するぞ! それでもいいんか!?』


 半ば脅迫じゃねーか! なんてこと言い出すんだこの鳥は! そんなこと絶対に許されるわけねえだろっ!

 ……まぁ、でも実際そんなことされたらそれこそ後片付けが大変なので、一旦譲るか…… 人間様の心の広さを見せつけてやろう。


 全く、贅沢で浅ましくて下品で卑しい鳥だこと。死んでもこんな鳥には転生したくねえな。コイツも前世では相当な悪徳野郎だったに違いない。


「はぁ…… 分かった。俺が『ゐをん』に行って『オウムの餌』を買ってこればいいんだな?」


 改めて考えると何で俺がコイツの餌を買いに行かないといけねえだよ。普通ヨシ君が準備してくれるもんだろうが! 全く、あとでヨシ君に一言文句を言ってやらねえと気が済まねえな。


 俺、『オウムの餌』を買ったことねえけど一体いくらするんだろうか……? まあ、そんな高くない…… 鯉の餌みたいに100円そこらだろう。

 

 仮に思ったより『オウムの餌』が高かったら、それこそ近くに売っているの犬とかハムスターの餌等の安い代替品を買って食わせりゃ問題ねえだろ。コイツ、バカ舌っぽいしそんなもの食っても気付きやしねえはずだ。

 

 それでも100円の出費が痛えけどな。


 とりあえずネットで『オウムの餌』の相場を確認すると600円前後であった。思ったより高えな、これだったら一番安い犬の餌でも買ってあとは適当に言いくるめるとするか。こんなクソ鳥に600円も出せない。


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