第8話VSオウム 3−1

「それじゃあ売木ウルギのお兄ちゃん、『ウルギ』をよろしくね!」

「マジかよ、俺がこのオウムの世話すんの!? 死んでも知らねえぞ」


「大丈夫大丈夫、餌は夕方に一回あげれば十分だから、サルでもお世話できるよっ!」


 ゴールデンウィークの初日、朝早くに突然近所に住む小学3年生になるヨシ君が玄関に現れた。


 ヨシ君は俺とよく『パチモン』交換をする間柄であり、年齢は離れていても友達といった仲である男の子だ。

 

 そんなヨシ君であるが、どうやらゴールデンウィークに家族と一泊二日の旅行に行くようで、その間だけ彼の飼っているオウムの面倒を見てほしいと突然に言ってきたのだ…… 肩に緑色の大きなオウムを連れて……


「はーあ!?」


 時刻は朝の7時ごろ、こんな早朝に現れてのお願いである。

 

 んだったら前日までに一言言っておけや! 突然朝早くからインターホン鳴らされ「オウムの面倒を見てくれ!」って突きつけられたら誰だって困惑するだろーが!


 ……だが、俺の心は海よりも広く川よりも狭いんだ。仲の良いヨシ君の頼みときては直様すぐさまに断るわけにもいかないが…… オウムの世話なんてやったことねえぞ……いいのか?


 しかもこのオウム、名前が『ウルギ』である。中々癪に触る名前だ。一体どういう経緯でこんな名前に漕ぎ着いたのか尋問したいところであるが、時間はそこまで悠長ではない。そろそろヨシ君が出かけちゃうとのことなのだ。


「『ウルギ』の餌を忘れないでね! あと、電波届かない山まで行っちゃうから僕と連絡付かないけど…… 売木のお兄ちゃんなら大丈夫だよね」

「大丈夫じゃねーよ! どんな田舎に行くんだよ!? ってか餌ってコイツ何食うんだよ!?」


「何でも食べるよ! 『ウルギ』は売木お兄ちゃんと違って好き嫌いがない良い子だから」


 そういうこと聞いているんじゃねえよ! 確かに俺はシリアル食品しか食わねえけどそれがこのオウムが偉くなる理由にもならねえだろうが! 餌で何を食うかって聞いているんだよォ! 答えねえと石とかあげちゃうぞ。


「もし何か困ったら直接『ウルギ』に聞いてよ! 『ウルギ』はオウムだけど、こう見えても喋れるんだ!」


 元気いっぱいでそんなことを言ってくるが、それでいいのかよ……? ペットに直接尋ねるなんて俺やったことねえぞ。

 そんな『ウルギ』ではあるが、ヨシ君の肩に乗っかったまま瞼を閉じている。……寝ているのか?


「あ、時間だ。僕もう行かなきゃ! じゃあ、売木のお兄ちゃん1日よろしくね!」


 ヨシ君が腕時計に視線を移しながらそんなことを言ってくる。ちょっと待て! 聞きたいことがまだ山ほどあるぞ!


 だが、そんな困り果てた俺に変わらずヨシ君はでっけえ緑のオウムをじか渡ししてきた。


 なんで直渡しなんだよ! 


「は!? ちょ、おい。鳥籠はどこなんだよ!? オウムをじかで渡されたって困るだろーが」

「大丈夫だよ、売木お兄ちゃん。『ウルギ』はどこにも飛んで逃げたりしないからさ!」


 その自信は一体何なんだよ! 俺が困るんだよ、こんなでっけえオウムだけ・・渡されたっておき場に迷うだろーが。


 鳥籠だけじゃねえぞ、餌とか、トイレとか用意してくれよ…… 俺今までオウムなんて飼ったことねえんだから何があっても本当に知らねえぞ。


「じゃあね〜、お土産買ってくるからね〜」


 結局何も聞けずにヨシ君が旅行に行ってしまった…… 本当に無茶苦茶な子供である。まぁ、子供というものはそういうものなのか……? 俺は知らねえけど。



 さて、玄関に取り残された俺とオウム…… こと『ウルギ』。とりあえず部屋に持っていくか…… 変に家族に見つかって騒がれても嫌だしな。



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